はじまり
世界は残酷だ。
若者が目標を持って行動しても、実力以外の要素に道を阻まれることは多い。
自宅で毎日ゲーム三昧のレンもまた、そんな一人だった。
「よっし! ゲームクリア! 今回も最速かなー」
俺、立花レンは現在18歳。高校生であれば卒業を迎える歳だ。
そんな俺は高校を辞め、ほぼ毎日ゲームだけをして生活していた。
理由は、よくあるいじめだ。
いじめられたきっかけも、今ではよくあることと言えるのかもしれない。
ステータスの存在だ。
5年前、世界は大きく変わった。
突如として世界各地に出現した、ダンジョンと呼ばれる場所。
なんと、そこに一度でも足を踏み入れると、自分自身のステータスが見られるようになり、レベルを上げられるようになるというのだ。
俺は当時中学生で、剣道部に所属していた。部内では最強と言われ、全国大会に出場したこともあった。
だが、その日、スポーツの概念は消えた。
同級生の一人がダンジョンに入り、なんとモンスターを倒してレベルを上げたらしい。
俺はその同級生とは友人であり、ライバルのような関係だったが、剣道の試合で負けたことは一度もなかった。
ステータスによってレベルを上げたその子は、俺に勝負を持ち掛け、全員の前で俺をボコボコにした。
どうやら以前から恨まれていたらしく、そこからは取り巻きと一緒に俺をいじめ始めた。
世界の変化も残酷だった。
ステータスの存在によってスポーツのすべてがなくなり、すべてを失った気持ちになった俺は、学校へ行くのをやめた。
「レンー、ごはんできたわよ!」
一階から母さんの声が聞こえ、エンドロールが流れるゲームを消す。
もうそんな時間か。
「今行くよ!」
二階の自室を出て一階のリビングへ向かうと、母さんと妹の二人がダイニングに座っていた。
「お兄、おはよう!」
妹のマヤが元気よく挨拶してくる。
マヤは16歳の妹で、現在は俺が通っていた高校に通う高校生だ。
時間は気にしていなかったが、もう朝になっていたようで、ばっちり制服を着て朝ごはんを食べている。
「ああ、おはよう」
挨拶を返すと、嬉しそうににこっと笑い、すぐ横にいるのに手をぶんぶん振ってくる。
マヤは兄が言うのも変だが、他人から見ても絶世の美少女というやつだろう。
幼い顔立ちに、つやつやとしたきれいな黒髪。スタイルまで抜群ときた。
……本当に俺の妹か?
マヤは食事を終えると、急いで身支度を整え学校へ向かった。
「ごちそうさま」
俺もご飯を食べ終え、食器を洗う。
母さんは何も言わずにいてくれているが、このままでは駄目なのは分かっている。
「ゆっくりでいいからね」
何がとは言わず、そんな優しい言葉をかけてくれる。
自室へ戻り、求人サイトを開いて自分にできそうな仕事を探す。
「ハア……ハア……」
家にいるはずなのに、外へ出ることを考えるだけで鼓動が速くなる。
駄目だ。一度眠ってから考えよう。
ベッドに寝転がり、目を閉じた。
……
一階からバタバタと駆け上がる足音で目を覚ました。
ガチャ! と勢いよく扉が開き、そこにはひどく焦った様子の母さんがいた。
「レン! どうしよう! マヤがダンジョンに入ってしまったみたいなの!!」
勢いよく心臓が脈打つ。
ダンジョンに一般人が入るのは自殺行為だ。
「通報は!?」
「したけれど、救助部隊を編成してからになるって言われて……私……!」
「……俺が探してくる」
なぜ入ったのか。
それをなぜ母さんが知っているのか。
気になることはあったが、一刻を争う状況に、俺は寝巻きのまま外へ飛び出した。
母さんが後ろから呼び止めたが、足を止めることはできなかった。




