二者面談② *トム視点
何が足りないのだろうか。
父上が求めている言葉は、なんだ。
「ノストーラ嬢には、得意な事を伸ばせば良い、短所と無理矢理向き合い続けなくても良いではないか、と言われました。
なりたいものに、長所を活かした職に就くべきだ、と。
私も、そうだ、と思いました。とても甘い言葉でした。
しかし私は貴族です。それも上位の。
権利は主張するのに、義務や責任を放棄する愚か者になってはいけません。
国民に、何よりリクアーサの領民に示しがつかない。
彼らが懸命に働いて納める税で、私達は生きているのです」
そうだ。傲慢ではいけない。
「先日、些細なミスを犯した侍女に解雇を命じました。
侍女長も同様に解雇、侍女の紹介者にも厳しい処置をしました。
あれは権利を振りかざした私の、傲慢さ故の行いです。
彼女らには申し訳なく思っています」
「ノストーラ嬢は政略結婚についても、おかしい、と言っていました。
結婚とは愛する者同士で行うこと。
それなのに、他者の利益の為に決定されるとはおかしい、と。
アンゲリカとの婚約は、生まれる前から決定していました。これを聞いて、私が可哀想だとも言いました」
かなり長々と喋ってしまっている。
しかし父上は何も言わずに、最後まで耳を傾けて下さるようだ。
「平民や下位の貴族にだって、義務や責任はあるはずです。
パン屋に生まれた子がパン屋を継ぐのは当然だし、男爵家でも家督や家業を引き継ぐものです。
思えば、男爵令嬢としての価値観ではなく、ノストーラ嬢独自の価値観に感化されていたのかもしれません。
あれは理想論です。
世の中がそうして回るようになれば、どれほど良いでしょうか。
しかし、世間はそんなに綺麗ではありません。
制度も整っていません。
ノストーラ嬢の思い描く価値観のためではなく、アンゲリカやセリウス、父上、母上のために。国民、領民のために。
より良い国づくりの一助になりたいと思うのです。
義務や責任を放棄せずに。」
しばらくの無言の後、そうか…と父上がため息を吐いた。
「お前の言いたいことはわかった。
ノストーラ嬢の危険性も、だ。
彼女には所謂カリスマ性があるのだろう。とても危険だと思う」
これまで苛烈に見開かれていた父の瞳が、少し緩んだ気がした。
「…………二度目は、ない。その覚悟でいろ」
「っっっっありがとうございます!!」
なんとか山場は超えたらしい。
そういえば、お前が処罰を下した者たちだが、と父が言葉を紡いだ。
「彼らは私の手元にいる。
お前が今飲んでいる茶も、侍女長が入れたものだぞ。気がつかなかったか?」
驚いて、テーブルに置かれたお茶を見る。
「緊張して、味がしませんでした…」
私の様子に父上は声を上げて笑った。
「はははははは。さもありなん。
しかし、私がおらん間に好き勝手やったものだな。まあ、反省はしているようだが。」
愉快そうに笑ったのも束の間、「ああ、それと」と急に空気を変えた。
「ノストーラ嬢についてだが。彼女が魔法使いである、という可能性がある」
なん、と、、、魔法使い、、??
「ポプリを処分させたのも私の命だ。
魔法書に“魅了”という効果を持つ魔法があると、そして現状のお前達が、その効果に魅せられた状態にそっくりだと忠告があった。
ユルティス殿下からだ。」
「魅了、ですか?」
「ああ。
長期的に繰り返しかけ続ける事で、効果が段々と強まっていくと。元来カリスマ性を持つ者ならば、もはや信仰状態になるらしい。
香りを媒介に効果を出すそうだから、ポプリを処分させたのだ。
正直、こんなにも早くお前が正気に戻るとは思ってもみなかった。
ユルティス殿下も、お前達は彼女に近すぎると。きっと手遅れだろうと言っていたのだが……。
アンゲリカ嬢とセリウス君のお陰だろうか。
効果的なタイミングでの外出と、諭しの言葉だったのだろう。
感謝しなさい」
アンゲリカの“人生の岐路”という言葉が、脳内で再生された。
「一度、魅了の効果を打ち破った者には2度と効かないらしい。
おそらくお前はその状態にある。
学校に戻ってノストーラ嬢と接しても、これまでのように陶酔する事はないだろう。
だが、やはり彼女と接する際は、細心の注意を払え。何があるか分からんからな」
「承知いたしました」
本当に私は“魅了”にかけられていたのだろうか。
そもそもノストーラ嬢が魔法使いだというのも、実感が湧かない。魔法使いや魔法とは、あくまでおとぎの世界のものだ。
「今のお前には信じ難いことも多いだろう。しかし、中枢に近く、そして立場が上がるほどに知り得ることもある。
ユルティス殿下が、もし正気に戻った者がいるなら、話がしたいと仰っていた。
日程の調整をしてからになるが、お前もそのつもりでいろ」
「承知、致しました」
……………父上は、かなりユルティス殿下との距離が近いのではないか?
我が家は第一王子派だと思っていたのだが。
どれほどの者たちが、私達の事を切り捨てようとしているのだろう。
第一王子派筆頭のゴルバネ公は、この流れを知っているのだろうか。
知っているのであれば、どのような応戦、対策を…
王妃殿下もどのような意図で、現状を放置されているのだろう…
自身が腑抜けている間に、権力闘争の情勢は大きく揺れ動いていたらしい。
父上との会話から、各貴族の暗躍っぷりが垣間見えた気がした。




