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二者面談① *トム視点



「そうか、アンゲリカ………」


電気もつけず暗いままの部屋で、ボソリと呟いた。





いつからだろうか。

セリウスが私に敬語で話すようになったのは。

目も合わせなくなったのは。


いつからだろうか。

アンゲリカが定例のお茶会で一言も発さなくなったのは。


いつからだろうか。

マリー以外との会話を煩わしく思い始めたのは。



考え始めるとキリがない。



いつからだろうか。

学業をおそろかにし、ついには成績も振るわなくなったのは。


いつからだろうか。

王城で、共に食事を、お話を、外出をと声をかけられることが無くなったのは。


いつからだろうか。

名前も覚えていない、あの王太子付きの文官。

彼の苦言が無くなったのは。冷たい視線を受けるだけになったのは。


いつからだろうか。

父上に憧れて、向いてないながらも懸命に食らいついていた職務を、投げやりにこなすようになったのは。



ああ、そういえば、いつからだろうか?

母が、妹が。そして、父が。

私に何も言わなくなったのは。



いつから、いつから、いつから、、、、


本当に、いつからだろうか……





一晩中、私は考え続けた。















翌日の早朝。私は父の執務室の前に立っていた。




コンコン。



「入れ」


父の声を聞くと同時に、ふぅ、と深呼吸をした。

失礼します、と入室する。


「少々宜しいでしょうか。少しばかり、私にお時間をいただきたいのです。」


父上はじっと私の目を見据えた。


このような緊張感は久しぶりで、足が震えそうになった。

いや、実際に震えていたかもしれない。

手汗もとんでもなかった。


「良いだろう。そこに座れ」


部屋の隅に置かれていたソファを指差した。




侍女に頼んで持ってきてもらったお茶を、一口飲む。

正直、全く味がしなかった。


「さて、何の用だ。つまらん内容ならすぐさま追い出すからな」



正念場だ、と私は自らに喝を入れる。



「父上、今までの私は腑抜けておりました。

ご迷惑もお掛けしました。本当に申し訳ありません」


ここまで一息で言い切って、一度、深呼吸をする。


「父上にお願いがあります。

これから、私を鍛え直して欲しいのです。二度と腑抜けることが無いように」


「ほお?」


面白がったように声を溢す。

続きを話してみろとでも言いたげに、片眉を上げた。


「私は、国の宰相を代々務めてきたリクアーサ家の嫡男です。しかし、それに相応しくないと思って生きてきました。

宰相とは常に冷静沈着で、人の心を観察し操り、国全体を見渡せる広い視野を持っていなければなりません。


しかし、私はそのような性質を生まれ持っていませんでした。むしろ職人気質、研究者気質と言われることも多いです。

多くを取りまとめる側ではなく、一つを極める方が向いていると」


そうだなと父上も頷いていた。


「この点をマリアンヌ・ノストーラ嬢に指摘され、当初は怒りすら覚えました。が、最終的には、段々と懐柔されていきました」


「なるほど」


「ただ、昨日、アンゲリカ嬢とセリウスと共に出かける機会がありまして。その際に2人から諭されました。

そうして、私がどれほど愚かで、自分勝手で、哀れな行いをしてきたのかをようやく理解しました」


父上は表情も変えず、無言で私を見つめている。


「どうか、どうかチャンスを下さい。

アンゲリカもセリウスも、はっきりと明言はしませんでした。しかし恐らくは、私は既に見限られているのでしょう。

ホワイティカ家からも、王城の者達からも、そして、父上からも。

それを承知でお願いしています。


どうか私に、もう一度期待をかけては下さいませんか。

私を鍛え直してやろうと考えては下さいませんか。


今度は私も必死で食らいつきます。

どうか、お願い致します」



言いたいことは言い切った。あとは父上の反応だけだ。








「お前は、、、

先ほど自分でも言っていたように、研究者気質だろう。

勘当の後は好きに生きさせる方が、お前のためかもしれないと思うようになった」


父上の言葉に少し、驚いた。


「リクアーサの嫡男として、生まれた時から背負わせてきた重荷は、お前には重すぎたのだと思った。

王都に居られなくなっても、どこかしらの研究所に入って、黙々と一つの事に打ち込めば良い。

ミリアも、止めても何かしらの支援をしたがるだろう」


私が思っている以上に、父上は私の事を考えて下さっていたのか。

母上も、勘当後の息子を支援しようと…


「ここまで聞いても、お前の判断は揺るがないか?

田舎にこもっての研究の方が、気楽に好きな事ができる」


鋭い眼光が、私を射抜く。


「はい。揺らぎません。

リクアーサの嫡男として、上位貴族の末席に座る者として。これまで甘受してきた恵まれた環境に対し、責任を果たさなければなりません」





父上の眼光は、まだ、緩まない。





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