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癒しとの出会い③ *ルディ視点



いやぁしかし。

人間関係が円滑に回るようになっただけでも、俺の精神的負荷は数倍軽くなった。

やっぱギスギスした職場って嫌だよね。

にこやかな挨拶。気安い会話。悪感情のない視線ってこんなにも素晴らしいものだったのかって再認識した。


でもね、悲しいかな俺の仕事内容に変化はない。

日々積み上がっていく上になんなら増えていってる。

精神的負荷は多少減っても、ストレスは溜まりに溜まっていく毎日です。


あれ?俺そろそろ禿げるんじゃね?まだ10代なんだが?





はぁ。学生時代が恋しい。



しかし戻れないもんはしょうがない。

ならばせめて学友の元へ遊びに行きたい。が、仕事に休みがなさ過ぎて無理。

じゃあいっそあいつらがこっちに来てくんないかな、なんて考えが一瞬よぎるのだが……そもそも研究バカしかいない。

つまり王都にまで出てくるはずもないのだ。

やっぱ完全に詰んでるじゃん。


唯一、師匠と学友の1人が貴族学校勤務なため、王都にいるのはいる。

ただ、ちゃんとした理由がないと学校内に入ることは出来ない。

バカを理由にすれば、ギリなんとか入れるかもしれないとは思っているのだが。

確実に仕事は増大する。この手段は取りたくない。


まずあの人たちは学生の居ない休日にこそ研究に没頭するんだから、外へも誘いづらさしかない。


ちくしょー!

辺境とかド田舎の領地からスカウトされて、ただ研究だけやってりゃ文句言われねぇみたいな職場に揃いも揃って就職しやがって!!

羨ましい羨ましい羨ましいわブワァァァカァァ!!!!





街に住む平民の友人にも流石に「うちの王太子がさぁ」とは話せない。


彼らといる時は大口開けて大笑いしながら、アホな事をしていたいのだ。

穏やかで賑やかな空気の流れる空間で、一瞬でも空気が凍るかもしれない話題は出したくない。お呼びじゃない。


というかそもそも、俺のことは子爵家の3男で、お気楽なアホ坊だと思ってると思う。

ちょっと前まで「俺もうすぐ平民になるんだ」とか上機嫌で言ってて、小さい頃から冒険者ランク上げまくって装備やら金やら準備万端だった奴だし。


ああ、平民になれなくなったって打ち明けた時に慰めてくれたのは本当に嬉しかったな…

今でもその時の悲しみは引きずりまくってるけど…





最近良好な関係を築けている職場の同僚にも、王太子の愚痴を吐けるほど仲良くはなってない。

終始にこやかに、やれどこどこのレストランが美味しかっただの、やれどこそこの家の息子がなんたらっていう役職をもらったらしいだの。

これらを茶化すでも掘り下げるでもない。

こうやって振られた会話の常識的な返事は

「へえ。行ってみたいですね」

「へえ。優秀ですね。さすが」の言葉だ。


最早定型文。最早機械。



やべぇ、心底どうで良いわ。


こんな面白さのカケラもない会話でも、貴族社会においては〝親しい関係にある者同士の会話〟とされる。

むしろ完全にドライな関係性や状況にある人間同士の方が、会話数でいったら圧倒的に多いと思う。政敵とか単なる仕事相手とか。




え、怖すぎん?


高位のお貴族様の考える〝友人〟って無言で場を共有できる相手のことらしいよ。


まじお喋りとかしたくならないの?

無言貫けるのが友人って考えは、まあ理解出来なくもないけどさぁ。

俺は愚痴でもなんでもだらだらぼやいて喋りたいよ?


え、騒いだこと、生まれてこのかたないもんなの?

唯一はアレですか、生まれた時だけですか?

最高記録は産声から更新されずに死んじゃいますか?


お貴族ってなんなんだすげぇ…


あっ俺もお貴族さまか。

時々本気で忘れるわ。




まあ幼い頃から関係のある者同士だったり、本当に仲のいい兄弟間だったりはちょっと違って、幾らか気安い会話もある。

だが、〝職場の同僚〟における一般的な〝仲良しさん〟はこんな感じだ。


もうちょっと王都から離れた領地になると随分マシになるし、なんならマジもんの辺境だと領主と平民が一緒になって食事をすることだってあるらしい。


しかし残念ながらここは王都、さらに王城。

貴族の中でも最もプライドが高く、取り繕っている人間しかいない地。俺にとっての地獄。


ああほんと辛いわ。









地獄の地で突如発見することのできた希望の光。

いっそ清々しいまでの営業スマイルを向けてくる店員に、甘い香りの店内。美味しいスイーツ、紅茶。

ラピスラズリ万歳。



やっぱり彼女はあの学友たちとよく似ている。


ちなみにこんな事を女性に対して思ったことは初めてだ。

というか女性にどころか人間にすら、学校卒業後はなかったかもしれない。


師匠の研究室で友人となった学友たちも、既にそれぞれ夢中になれるものを見つけていて、俺には目もくれない奴らだった。


平民の友人も職場の同僚も、俺を友人だと思ってくれてはいるのだろうが、やはりどこか壁を感じてしまうのだ。

それが身分差ゆえの遠慮なのか、貴族ゆえの性なのかは分からないが。


平民の彼らは確かに友人であり、気が休まる事は変わらないため、今でも偶に会いに行くし関係は続いている。

俺は彼らが大好きだし、だからこそ同じ身分になれる事を心から望んだんだ。


でもやっぱり、学生時代の師匠と学友だけが、俺をマスコットではなく人間として接してくれてたんだと思う。



職場の同僚については…

ま、まあ、ノーコメントで、、、





そんなこんなで勝手に学友たちと重ねた上、随分一方的な形で彼女に親しみを覚えていた。

また、店自体に感じているものと同じような癒しを彼女の姿を見る事で得ていたし感謝もしていた。


俺がいつも座っている店内で1番奥のテーブル席付近に、観葉植物やら衝立がいつの間にやら置かれるようになっていた。

それによって他の客からの視線がより届きにくくなり、より穏やかな時間を過ごせるようになった。


おそらくこれも彼女の気遣いだろう。

こちらは何も言っていないのに察して、配慮してくれる。


とてもありがたい、と、心底思う。


他の客にも、同じようにそれぞれが望む配慮をさりげなく行っているのだろう。

店内や客自身を観察していればよくわかる。


彼女の気遣いに、さりげなさに俺はとてつもなく癒されたし穏やかな気持ちになれた。




俺にとってのセツは、最大の癒しの場の提供者だ。


ラピスラズリの店内空間が構成されるのに最も必要不可欠なパーツこそが彼女であり、彼女以外にはあの安らぎをつくることなど出来ないと思っている。


同じ環境、メニュー、内装の何一つ変わらない状態で営業したとしても、彼女が居ないかもしくは別の者が接客しているというただそれだけで不協和音を引き起こすだろうと。



だから、彼女とちゃんと話してみたいと思った。


彼女がどんな人間なのか知りたい、と。



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