夜空を飛ぶ飛行船
ぽっかりと浮かんだ巨大な月が彼方たちを乗せた飛行船を照らした。
飛行船は霧のような薄い雲をかき分けて、ゆっくりと北に向かって進む。
操縦室で、彼方は操舵輪を動かしながら、ふっと息を吐いた。
――ぶっつけ本番だったけど、なんとか動かせたか。
「彼方っ!」
ミケが彼方の上着を掴んだ。
「お城が爆発したにゃ。煙がもわもわしてるにゃ」
「…………うん。重魔光爆弾を使ったからね。これで敵の戦力もだいぶ減らせたはずだよ」
操舵輪を握る手が微かに硬くなる。
――多くの兵士が死んだはずだ。でも、それは覚悟の上の行動だ。みんなを守るために、自分を守るために決めたことだから。
彼方は唇を噛み締めて、振り返る。
そこには守るべき仲間たちがいた。
ミケ、香鈴、エルメア、ニーア、ミュリック。
香鈴が彼方に歩み寄った。
「彼方くん、これからどうするの?」
「まずは北に移動しよう。敵の拠点があるリシウス城から離れれば、追ってこない可能性もあるからね」
「そうだな」とエルメアが同意する。
「お前も切り札のドラゴンとゴーレムを使ったんだ。魔力を回復させる時間も必要だろう」
「…………まぁ…………ね」
困ったような表情を浮かべて、彼方は頭をかく。
――ガギオンと天界のドラゴンは★七の強いクリーチャーだけど、切り札ってわけじゃないからな。まあ、この世界じゃ、ドラゴンは相当強いモンスターなんだろう。切り札だと誤解するのも当たり前か。
――クラーク伯爵の日記によると、浮遊魔石の魔力が切れると、飛行船の移動ができなくなるらしい。何日か時間をおけば、魔力はまた溜まっていくみたいだから、まずは、早めに隠れる場所を見つけておかないと。
正面のパネルに表示された広大な森を、彼方は真剣な表情で見つめた。
◇
数時間後、空に浮かぶ巨大な岩がパネルに映った。
その岩は円錐を逆さにしたような形をしていて、上部には多くの木々が生えていた。
上部の長さは一キロ近くあり、ところどころから滝のように水が流れ落ちている。
「浮遊島か…………」
隣にいたエルメアがつぶやく。
「なかなか、でかいな」
「この世界には、空に浮かぶ島があるのか…………」
彼方は操舵輪の横にあるレバーを引いて、飛行船のスピードを緩める。
――潜伏する場所としては悪くない。この世界では、空を移動できる手段は限られているみたいだし。
「あの島に下りてみよう」
彼方は飛行船を操作して、浮遊島の端にある草原に下りた。
操縦室から甲板に移動して、周囲を確認する。
夜の冷たい風が草原の野草を揺らし、数十メートル先にある林の中から、ホーホーと鳥のような鳴き声が聞こえてきた。
――浮遊島の中にも生き物がいるみたいだな。となると、危険なモンスターもいるかもしれない。
「…………とりあえず、ミュリック。偵察してきて」
「はぁ? 何で私だけ?」
ミュリックが不満げに唇を尖らせた。
「いや、君が一番頼りになるからさ。夜目がきくだろうし、空も飛べるしね」
「一番頼りになる?」
ミュリックはぱちぱちとまぶたを動かす。
「うん。頭もいいし、ティアナールさんと戦えるぐらいの戦闘能力もある。それに外見も魅力的だしね」
「…………しょ、しょうがないなぁー」
ピンク色の髪をかき上げて、ミュリックは頬をぴくぴくと動かす。
「たしかに、この中じゃ、私が一番使える女よね」
「そうそう。だから、よろしく頼むよ。偵察は重要な任務だからね」
「わかった。私にまかせといて!」
ミュリックはコウモリのような黒い羽を動かして、飛び去っていく。
彼方は彼女をにこやかな笑顔で見送った。
――やっぱり、ミュリックはおだてるに限るな。
◇
朝の太陽が浮遊島を照らす頃、ミュリックが飛行船に戻ってきた。
ミュリックは自慢げな表情で話し始めた。
「この島に危険なモンスターはいないみたい。見かけたのは森クラゲとチャモ鳥、一角ウサギぐらいかな。あ…………それと、真ん中ぐらいにある大きな木の幹に変な扉があったかな」
「変な扉?」
彼方は首をかしげる。
「それって、どう変なの?」
「見たことのない金属だったし、開かない扉なのよね」
「開かない扉か…………」
親指の爪を口元に寄せて、彼方は考え込む。
――扉ってことは、中に誰かいるのかもしれない。どっちにしても、確認しておくほうがいいか。
「わかった。まずはその扉を調べよう。中に危険なモンスターがいる可能性もあるから」
彼方の提案に、仲間たちは真剣な表情でうなずいた。
◇
木々が生い茂る森の中を進むと、幹周りが三十メートル近い巨大な木が姿を見せた。
それは高さが五十メートル以上あり、迷路のように分かれた木の枝と濃い緑色の葉が太陽の光を遮っている。
彼方は木の幹に埋め込まれたような扉に近づく。
扉は青黒い金属製で上部に見覚えのある文字が刻まれていた。
『赤二回、青一回、黒四回、緑三回、白二回、茶五回』
「これ…………日本語だ」
彼方は右手で刻まれた日本語に触れる。
「赤二回? あ、この取っ手か」
視線を落とすと、取っ手に六色の石が飾られていることに気づいた。
――暗唱番号みたいものか。
彼方は刻まれた文字の通りに六色の石を押した。
カチャリ…………。
鍵が外れる音がした。
彼方は、ゆっくりと取っ手を回す。
「ここは…………」
木の幹の中には正方形の部屋があった。中央には木製のテーブルがあり、その上には磨かれた白いドクロが置いてある。
「みんなはここにいて」
彼方はひとりで部屋の中に入り、周囲を見回す。壁際には木の棚があり、そこにはマジックアイテムらしき短剣や指輪、弓矢、ネックレス等が並べられていた。
カタ…………カタカタ…………。
突然、テーブルの上に置かれていたドクロが歯を鳴らし始めた。




