ウロナ村の戦い14
「さて、始めるか」
ウル団長は片方の唇の端を吊り上げて、大剣を握り締めた。
「クリル千人長! 指揮はまかせたぞ!」
ウル団長は猫の耳を生やした女騎士の肩を軽く叩くと、ボーンドラゴンに向かって走り出す。
隣を走っていたユリエスが呪文を唱えた。ユリエスとウル団長の体がぼんやりと緑色に輝く。
「これで多少はブレスへの耐性がつくはずだ」
「感謝しますよ。ユリエス殿」
「二百四十八年物のワインを忘れるなよ」
「わかってます!」
ウル団長は足を速め、ボーンドラゴンに攻撃を仕掛けた。
子供の背丈程ある大剣を振り切ると、多くの生物の骨でできたボーンドラゴンの皮膚が裂けた。どろどろとした黒い血が流れ出し、体に埋め込まれている無数の頭蓋骨が歯を鳴らす。
ユリエスは右回りに移動しながら、呪文でボーンドラゴンを攻撃する。
「ウル団長とユリエス殿を援護しろ!」
クリル千人長が叫ぶと、ボーンドラゴンの頭部に無数の矢が突き刺さった。
ボーンドラゴンは頭部を左右に振りながら、前脚でユリエスを攻撃した。
ユリエスは転がりながら前脚を避け、マジックアイテムのロングソードを振り下ろす。
ボーンドラゴンの指の関節部分にあった頭蓋骨が真っ二つに割れた。
「誰の骨かわからないが謝っとくぞ。すまん」
ユリエスは後ずさりしながら、新たな呪文を唱えた。
巨大なボーンドラゴンの体に黄金色の草のつるが絡みついた。
ボーンドラゴンの動きが止まる。
ウル団長が渾身の力を込めて大剣を斜めに振り上げる。ボーンドラゴンの左脚が斬れ、巨体が傾いた。
「今だ! 一気に攻めろ!」
クリル千人長が騎士たちに命令した。
騎士たちは気合の声をあげて、ボーンドラゴンに突撃する。ロングソードの刃が骨に突き刺さり、黒い血が全身から噴き出す。
「オオーッ…………オオウーッ…………オーッ…………」
ボーンドラゴンの体に埋め込まれた頭蓋骨が哀しげな声を出す。
「安心しろ。全員、天国に行かせてやる!」
ウル団長は頭を下げたボーンドラゴンに向かって大剣を振り下ろした。
ボーンドラゴンの額が割れた。
「ゴガアアアアアッ!」
ボーンドラゴンは大きく口を開く。口中が青白く輝いた。
「ブレスは吐かせん!」
その口に向かって、ユリエスが呪文を放った。光の矢がボーンドラゴンの口中に突き刺さった。
「ゴゴゥ…………」
ボーンドラゴンは口を開いたまま、地面に横倒しになった。
「うおおおおおっ!」
騎士たちが歓喜の声をあげた。
「やった。やったぞ。ボーンドラゴンを倒したぞ!」
「俺たちの勝利だ!」
「銀狼騎士団バンザイっ! ユリエス殿バンザイっ!」
喜んでいる騎士たちの上空に巨大な魔法陣が出現した。その魔法陣の中から、新たなボーンドラゴンが出現した。
ボーンドラゴンは呆然としている騎士たちに向かって青い炎を吐き出した。
騎士たちの皮膚が黒く変色し、目、鼻、口から血が流れ出す。
「二体目のボーンドラゴンだと?」
ユリエスが掠れた声を漏らす。
「残念だったな」
上空から暗い声が聞こえてきた。
ユリエスが視線を上げると、ネフュータスが紫色のローブを揺らして宙に浮かんでいた。
「褒めてやろう、下等な者たちよ」
ネフュータスの剥き出しの口が動いた。
「強者が混じっているようだが、そろそろ限界だろう」
「はぁ? まだまだ俺は余裕だぞ」
ユリエスはオレンジ色の眉を吊り上げて笑う。
「ボーンドラゴンは飽きたから、お前が直接、俺の相手をしてくれよ。それとも、俺に勝てる自信がないのか?」
「…………お前を殺すことなどたやすいが、誘いに乗る必要もない。それに、我の相手をできるほど、お前たちは時間があるのか?」
丘のふもとから騎士の声が聞こえてきた。
「きっ、北からモンスターの大群が現れました! 数は一万以上っ!」
「一万以上だと!?」
ウル団長の顔が強張った。
「ククククッ!」
ネフュータスの胸元にある小さな顔が笑い出した。
「さあ、どうスル? 北の守りは大丈夫ナノカ?」
「くっ…………くそっ!」
ウル団長の額に冷たい汗が浮かび上がる。
「お前たちに絶望を与えてやろう」
ネフュータスの上の顔が言った。
「この村にいる全てのヒト種を殺してな」
その言葉と同時にボーンドラゴンが大きく口を開いた。
ネフュータスに向かって矢を放とうとしていた部隊が青い炎に包まれる。
周囲にいた騎士たちが混乱する中、一人の少年が斜面を駆け上がっていく。
少年――彼方は唇を強く結んで視線をボーンドラゴンに向ける。
――速攻でボーンドラゴンを倒す!
彼方の周囲に三百枚のカードが浮かび上がった。