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【WEB版】異世界カード無双 魔神殺しのFランク冒険者  作者: 桑野和明(久乃川あずき)


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ウロナ村の戦い15

◇◇◇

【呪文カード:戦乙女の吐息】

【レア度:★★★★★★★★(8) 対象の武器の攻撃力を大幅に上げる。効果時間:三分間。再使用時間:20日】

◇◇◇


 彼方の持つ聖水の短剣が黄白色に輝いた。

 彼方は騎士たちの間をすり抜けて、ボーンドラゴンに走り寄った。高くジャンプをして、強化された聖水の短剣を振り下ろす。


 ボーンドラゴンのしっぽが真っ二つに斬れる。


「グルゥウウウ!」


 ボーンドラゴンの視線が彼方に向けられた。巨体を動かし、右の前脚で彼方を攻撃する。

 多くの骨が組み合わさった前脚が彼方に迫る。


 彼方は素早く前に出て攻撃をかわす。尖った骨の爪が地面を抉ると同時に、彼方は体を反転させ、聖水の短剣を振った。

 水色の刃が伸び、ボーンドラゴンの脚首がすっぱりと斬れた。


 彼方は動きを止めなかった。

 強化された聖水の短剣をボーンドラゴンの足元で振り回す。何の抵抗もなく、骨の皮膚が斬れていく。


「加勢するぞ! 彼方っ!」


 ユリエスが光の矢の呪文を放ちながら、側面からボーンドラゴンに斬り掛かった。同時に逆方向からウル団長も大剣を振るう。


「グアアアアアッ!」


 ボーンドラゴンが巨体を揺らして、丘のふもとに向かって走り出した。


 彼方、ユリエス、ウル団長がボーンドラゴンを追って走り出す。


「ボーンドラゴンの前を塞げっ!」


 クリル千人長が叫ぶと、巨大な魔法の盾を持った騎士たちがボーンドラゴンの前方で横陣を作る。

 ボーンドラゴンは足を止めて、胸元を大きくそらした。


 ――ブレスを吐く前に仕留める!


 彼方はボーンドラゴンの側面に回り込み、錐のように尖った聖水の短剣を胴体に突き刺した。


「ゴッ…………ゴゴ…………」


 ボーンドラゴンは体を捻って、左の前脚で彼方を攻撃する。

 彼方は素早く聖水の短剣を引き抜き、今度は左の前脚を斬る。


 ボーンドラゴンの巨体が前のめりに傾く。

 彼方は斬り落とした前脚首に飛び乗り、高くジャンプする。ボーンドラゴンの頭部めがけて、聖水の短剣を振り下ろした。


 すっぱりとボーンドラゴンの頭部が斬れた。


「ゴブッ…………」


 溺れたような声を出し、ボーンドラゴンが倒れた。


 彼方は鋭い視線を上空に向けた。黒い瞳にネフュータスの姿が映る。


「お前が氷室彼方だな」


 ネフュータスの声が丘に響いた。


「…………なるほどな。強力な武器を持っているようだ」


 彼方は意識を集中させ、カードを選択しようとした。


 同時にネフュータスも動いた。右手に持った杖を振ると、宙に浮かぶネフュータスの姿が二人になった。


 さらに三人、四人…………八人…………十六人…………。


 夜空に数十人のネフュータスが浮かぶ。


 ――分身系の呪文か。


 彼方はカードの選択を止め、視線を左右に動かす。

 数十人のネフュータスの口が同時に開く。


「お前の呪文は警戒せねばならぬからな」


「ククククッ!」


 ネフュータスの胸元にある小さな顔が甲高い声で笑った。


「氷室彼方ヨ。お前にも絶望を与えてヤロウ」

「絶望?」

「そうダ。お前がいかに強くても、一万の軍をひとりで止めることはできマイ」


「彼方だけじゃないぞ!」


 ユリエスが空に向かって叫んだ。


「Sランクの俺もいるし、ウル団長もいる。他にも強者は何人もいる!」

「ならば、やってみろ!」


 ネフュータスの上の顔が言った。


「下等なヒト種どもよ。せいぜい足掻くがよい。足掻いて…………足掻いて…………それでも何もできずに無残に死ぬといい」


「クカカカッ!」


 ネフュータスの胸元にある顔から狂気を感じる笑い声が漏れた。

 騎士の放った矢が、ネフュータスの体をすり抜ける。


「無駄ダ…………それは本体ではナイ」

「くっ、くそっ!」


 騎士たちは怒りの表情を浮かべて、こぶしを震わせる。


「さあ、足掻ケ。足掻いて…………死ネ」


 数十人のネフュータスの姿が徐々に薄くなり、やがて消えた。


「ちっ! 逃げやがった」


 ユリエスがカチリと歯を鳴らす。


「ほっ、報告っ!」


 上擦った騎士の声が聞こえてきた。


「北の門が破られ、多くのモンスターが村の中に侵入してます!」

「もう、破られたか…………」


 彼方の隣にいたウル団長の眉が中央に寄る。


「クリル千人長っ、部隊をまとめて北に向かえ! それと白龍騎士団のリューク団長に伝令を出せ。この状況を伝えておくんだ!」

「わかりました!」


 クリル千人長は素早く返事をすると、部下の騎士たちに指示を出す。


「おいっ、彼方!」


 ユリエスが彼方の肩を掴んだ。


「まだ、戦えるか?」

「もちろんです」


 彼方は即答した。


「ならば、俺たちも北に行くぞ! 娘のユリナも他の冒険者たちをまとめて北に向かってるはずだ」


 彼方とユリエスは丘の斜面を駆け下りる。


「ところで、彼方。何故、ネフュータスはお前の名前を知ってたんだ?」


 走りながら、ユリエスが彼方に質問した。


「前にネフュータスが育てようとしてた特別なキメラを倒したんですよ」

「お前、キメラまで倒してたのかよ?」


 ユリエスの目が丸くなる。


「お前の腕前なら、それぐらいやるかもしれないが…………」

「んっ? どうかしたんですか?」

「いや、ネフュータスがお前を警戒しすぎてる気がしてな。キメラを倒しただけで、あそこまで気にするとは思えん」


 ユリエスは足を動かしながら、彼方の顔を覗き込む。


「お前…………他にも何かやってないか?」

「…………ネフュータスと関わりがあった上位モンスターを他にも倒したことがあります」

「どんなモンスターだ?」

「ザ…………いえ」


 彼方は口をもごもごと動かす。


 ――魔神ザルドゥのことは、ユリエスさんにも話さないほうがいいか。いろいろ面倒だし。


「急ぎましょう! ユリエスさん」


 彼方は強引に会話を打ち切って、足を速めた。



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― 新着の感想 ―
[一言] 魔神ザルドゥ倒した事はユリエスさんに話した方がいいと思うけど? 信じなかったとしても、いきなり腹蹴ってきたりするような人格破綻者でもないし、 言っても信じないのと言わずに隠したのとでは大きな…
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