ウロナ村の戦い15
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【呪文カード:戦乙女の吐息】
【レア度:★★★★★★★★(8) 対象の武器の攻撃力を大幅に上げる。効果時間:三分間。再使用時間:20日】
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彼方の持つ聖水の短剣が黄白色に輝いた。
彼方は騎士たちの間をすり抜けて、ボーンドラゴンに走り寄った。高くジャンプをして、強化された聖水の短剣を振り下ろす。
ボーンドラゴンのしっぽが真っ二つに斬れる。
「グルゥウウウ!」
ボーンドラゴンの視線が彼方に向けられた。巨体を動かし、右の前脚で彼方を攻撃する。
多くの骨が組み合わさった前脚が彼方に迫る。
彼方は素早く前に出て攻撃をかわす。尖った骨の爪が地面を抉ると同時に、彼方は体を反転させ、聖水の短剣を振った。
水色の刃が伸び、ボーンドラゴンの脚首がすっぱりと斬れた。
彼方は動きを止めなかった。
強化された聖水の短剣をボーンドラゴンの足元で振り回す。何の抵抗もなく、骨の皮膚が斬れていく。
「加勢するぞ! 彼方っ!」
ユリエスが光の矢の呪文を放ちながら、側面からボーンドラゴンに斬り掛かった。同時に逆方向からウル団長も大剣を振るう。
「グアアアアアッ!」
ボーンドラゴンが巨体を揺らして、丘のふもとに向かって走り出した。
彼方、ユリエス、ウル団長がボーンドラゴンを追って走り出す。
「ボーンドラゴンの前を塞げっ!」
クリル千人長が叫ぶと、巨大な魔法の盾を持った騎士たちがボーンドラゴンの前方で横陣を作る。
ボーンドラゴンは足を止めて、胸元を大きくそらした。
――ブレスを吐く前に仕留める!
彼方はボーンドラゴンの側面に回り込み、錐のように尖った聖水の短剣を胴体に突き刺した。
「ゴッ…………ゴゴ…………」
ボーンドラゴンは体を捻って、左の前脚で彼方を攻撃する。
彼方は素早く聖水の短剣を引き抜き、今度は左の前脚を斬る。
ボーンドラゴンの巨体が前のめりに傾く。
彼方は斬り落とした前脚首に飛び乗り、高くジャンプする。ボーンドラゴンの頭部めがけて、聖水の短剣を振り下ろした。
すっぱりとボーンドラゴンの頭部が斬れた。
「ゴブッ…………」
溺れたような声を出し、ボーンドラゴンが倒れた。
彼方は鋭い視線を上空に向けた。黒い瞳にネフュータスの姿が映る。
「お前が氷室彼方だな」
ネフュータスの声が丘に響いた。
「…………なるほどな。強力な武器を持っているようだ」
彼方は意識を集中させ、カードを選択しようとした。
同時にネフュータスも動いた。右手に持った杖を振ると、宙に浮かぶネフュータスの姿が二人になった。
さらに三人、四人…………八人…………十六人…………。
夜空に数十人のネフュータスが浮かぶ。
――分身系の呪文か。
彼方はカードの選択を止め、視線を左右に動かす。
数十人のネフュータスの口が同時に開く。
「お前の呪文は警戒せねばならぬからな」
「ククククッ!」
ネフュータスの胸元にある小さな顔が甲高い声で笑った。
「氷室彼方ヨ。お前にも絶望を与えてヤロウ」
「絶望?」
「そうダ。お前がいかに強くても、一万の軍をひとりで止めることはできマイ」
「彼方だけじゃないぞ!」
ユリエスが空に向かって叫んだ。
「Sランクの俺もいるし、ウル団長もいる。他にも強者は何人もいる!」
「ならば、やってみろ!」
ネフュータスの上の顔が言った。
「下等なヒト種どもよ。せいぜい足掻くがよい。足掻いて…………足掻いて…………それでも何もできずに無残に死ぬといい」
「クカカカッ!」
ネフュータスの胸元にある顔から狂気を感じる笑い声が漏れた。
騎士の放った矢が、ネフュータスの体をすり抜ける。
「無駄ダ…………それは本体ではナイ」
「くっ、くそっ!」
騎士たちは怒りの表情を浮かべて、こぶしを震わせる。
「さあ、足掻ケ。足掻いて…………死ネ」
数十人のネフュータスの姿が徐々に薄くなり、やがて消えた。
「ちっ! 逃げやがった」
ユリエスがカチリと歯を鳴らす。
「ほっ、報告っ!」
上擦った騎士の声が聞こえてきた。
「北の門が破られ、多くのモンスターが村の中に侵入してます!」
「もう、破られたか…………」
彼方の隣にいたウル団長の眉が中央に寄る。
「クリル千人長っ、部隊をまとめて北に向かえ! それと白龍騎士団のリューク団長に伝令を出せ。この状況を伝えておくんだ!」
「わかりました!」
クリル千人長は素早く返事をすると、部下の騎士たちに指示を出す。
「おいっ、彼方!」
ユリエスが彼方の肩を掴んだ。
「まだ、戦えるか?」
「もちろんです」
彼方は即答した。
「ならば、俺たちも北に行くぞ! 娘のユリナも他の冒険者たちをまとめて北に向かってるはずだ」
彼方とユリエスは丘の斜面を駆け下りる。
「ところで、彼方。何故、ネフュータスはお前の名前を知ってたんだ?」
走りながら、ユリエスが彼方に質問した。
「前にネフュータスが育てようとしてた特別なキメラを倒したんですよ」
「お前、キメラまで倒してたのかよ?」
ユリエスの目が丸くなる。
「お前の腕前なら、それぐらいやるかもしれないが…………」
「んっ? どうかしたんですか?」
「いや、ネフュータスがお前を警戒しすぎてる気がしてな。キメラを倒しただけで、あそこまで気にするとは思えん」
ユリエスは足を動かしながら、彼方の顔を覗き込む。
「お前…………他にも何かやってないか?」
「…………ネフュータスと関わりがあった上位モンスターを他にも倒したことがあります」
「どんなモンスターだ?」
「ザ…………いえ」
彼方は口をもごもごと動かす。
――魔神ザルドゥのことは、ユリエスさんにも話さないほうがいいか。いろいろ面倒だし。
「急ぎましょう! ユリエスさん」
彼方は強引に会話を打ち切って、足を速めた。




