クヨムカ村の戦い2
新たに参戦した背の低いダークエルフが短剣を構えて、彼方に突っ込んできた。
さらに、その左右から別のダークエルフが短剣を振り上げる。
彼方はウインドソードを背の低いダークエルフに向かって振り下ろした。
その動きを予想していたのか、背の低いダークエルフは足を止めて、短剣で頭を防御する。
――君を狙ってるんじゃないよ。
ウインドソードの刃先が宙で止まり、軌道が直角に変化した。
右から彼方に近づいてきたダークエルフのノドに刃先が触れる。
ノドを斬られたダークエルフの体が傾いた。
彼方はその横をすり抜けながら、自身の背後に向かってウインドソードを振った。
真後ろにいたダークエルフは上半身をそらして攻撃をかわす。
――かわされたけど、それでもいい。これで少しだけ距離が取れる。
彼方は走りながら、意識を集中させる。周囲に三百枚のカードが浮かび上がった。
◇◇◇
【呪文カード:オーロラの壁】
【レア度:★★(2) 指定の空間に物理、呪文、特殊攻撃を防御する壁を五秒間作る。再使用時間:2日】
◇◇◇
彼方の目の前に白、赤、緑に変化する半透明の壁が現れた。その壁がダークエルフの短剣を弾いた。
「何だっ、この壁は?」
「くそっ! 防御系の呪文か!」
五人のダークエルフの動きが止まった。
――五…………四…………三…………二…………。
彼方はオーロラの壁が消える時間を計算しながら、新たな呪文カードを選択する。
◇◇◇
【呪文カード:インフェルノ】
【レア度:★★★★★(5) 属性:火 複数の対象に火属性のダメージを与える。再使用時間:7日】
◇◇◇
半透明の壁が消えると同時に、『インフェルノ』の呪文が発動した。
オレンジ色の炎が逃げ遅れた三人のダークエルフたちを包み込む。
「ぐあああああっ!」
ダークエルフたちの皮膚が黒くなり、口を大きく開いたまま、地面に倒れた。
――これで、残り四人。
彼方は飛んできた矢をウインドソードで叩き落としながら、近くの空き家に逃げ込む。
後を追いかけてきたダークエルフに向かって、ウインドソードを投げた。
ウインドソードがダークエルフの腹部に突き刺さる。
「があ…………」
ダークエルフは扉の前で絶命する。
彼方はウインドソードをそのままにして、家の奥に逃げ込んだ。
丸太で作られた壁に背を向けて、肩に刺さった矢を強引に引き抜く。
――リカバリーの呪文は、二日前に七原さんの腕を治せるかどうかを試すために使ったからな。再使用時間があるから、後一日は無理か。
彼方は顔を歪めて、えぐれた肩の傷を見つめる。
――痺れるような痛みがあるし、血はまだ止まらない。
腰につけていた魔法のポーチから、青い液体の入った小瓶を取り出す。
フタを開けて、彼方は一気に青い液体を飲み干した。
痛みが弱くなり、傷口が塞がり始める。
――ドロテ村長から回復薬をもらっててよかったな。リカバリー程の効果はないみたいだけど、これでなんとかなりそうだ。
その時、爆発音とともに周囲の空気が一気に熱くなった。
――呪文でこの家ごと燃やすつもりか!
彼方は短く舌打ちをして、裏口に走る。同時に意識を集中させ、新たなアイテムカードを選択した。
◇◇◇
【アイテムカード:シルフの銃】
【レア度:★★★(3) 風属性の銃。風の精霊の力で遮蔽物を避ける弾丸を撃つことができる。弾は六発。具現化時間:5分。再使用時間:10日】
◇◇◇
目の前に銀色の銃身を持つ銃が具現化された。グリップは緑色で風の精霊シルフの姿が刻み込まれている。
彼方はシルフの銃を掴み、裏口の扉を蹴破った。
十数メートル先に弓を構える二人のダークエルフがいる。ダークエルフたちは同時に矢を放った。
彼方は地面に転がりながら、銃口をダークエルフに向けて引き金を引いた。
銃声が響き、左側にいたダークエルフの肩から血が噴き出す。
銃での攻撃は予想してなかったのか、ダークエルフの金色の目が大きく開く。
彼方は地面に伏せたまま、引き金を連続で引く。
銃弾がダークエルフの額と心臓に当たった。
もう一人のダークエルフが慌てて彼方に背を向ける。
「遅いっ!」
彼方が引き金を引くと、銃弾がダークエルフの背中に当たった。それでもダークエルフは逃げ続ける。
近くの家の中に逃げ込んだダークエルフに向かって、彼方は引き金を引いた。
弾丸が孤を描くように曲がり、ダークエルフが倒れた音が家の中から聞こえた。
――倒せたみたいだな。これで残りは二人か。
彼方は立ち上がり、燃え上がる空き家から離れた。
「氷室彼方っ!」
家の陰から、短剣を持ったダークエルフが現れた。
「逃がさんぞ。お前は絶対に殺す」
「その手には乗らないよ」
彼方は声を出したダークエルフに背を向け、背後から忍び寄っていた別のダークエルフをシルフの銃で撃った。
銃声が響き、ダークエルフの額に穴があく。
驚愕の表情を浮かべたまま、ダークエルフが仰向けに倒れた。
彼方は声を出したダークエルフに向き直り、腰に提げていた短剣を引き抜いた。
「君たちがわざわざ声を出して場所を知らせるようなタイプには見えないからね。もう一人残ってるのもわかってたし」
「くっ、くそっ!」
ダークエルフの褐色の額から汗が流れ落ちた。
「これで残りは君ひとりだし、店で買った短剣で十分かな」
「…………」
「んっ? まだ、近くに仲間がいるんだ」
「あ…………くっ」
ダークエルフは悔しそうに唇を歪めた。
「…………どうして、わかった?」
「僕を殺すことを諦めてない目をしてるからね。それに、僕が『残りは君ひとり』って言ったら、少し表情が緩んだから」
「…………くあああっ!」
ダークエルフは雄叫びをあげて、彼方に突っ込んできた。右足を大きく前に出し、短剣で彼方のノドを狙う。
その攻撃を彼方はネーデの腕輪で受けつつ、自らの短剣でダークエルフの首筋を刺した。
ダークエルフは血を噴き出しながら、地面に倒れた。
その時、彼方の背後で微かな音が聞こえた。
素早く彼方は振り返る。
彼方の瞳に、怒りの表情で迫るダークエルフの女――ミリードの姿が映った。