クヨムカ村の戦い
数分後、遠くから騎士たちの怒号が聞こえてきた。
――始まったか。
彼方は西の入り口の前で、唇を噛む。
――ゴブリン単体なら、そこまで危険な生物じゃない。でも、集団で襲ってくれば、話は別だ。武器に毒を塗ってるゴブリンもいるし、呪文を使えるゴブリンもいる。注意しないと。
その時、十数メートル先の茂みが音を立てて、三匹のゴブリンが姿を見せた。
身長は百二十センチ程で、皮膚は緑色、瞳は金色に輝いていた。
ゴブリンたちは、彼方を見てうなり声をあげる。
「ちょっと、どいて!」
亜里沙が彼方の横をすり抜けて、ゴブリンに走り寄った。
低い姿勢からナイフを斜めに振り上げ、先頭にいたゴブリンの首を引き裂く。
「グギャ…………」
ゴブリンが血を噴き出しながら、前のめりに倒れる。
残った二匹のゴブリンは怒りの表情で、左右から亜里沙に襲い掛かった。
「おっ! 連携攻撃だねっ!」
亜里沙は左から攻撃してきたゴブリンの腹部を蹴り上げ、右のゴブリンのノドをサバイバルナイフで突いた。そのまま、体を捻って、蹴りで倒れたゴブリンに向かって、サバイバルナイフを投げつける。
起き上がろうとしたゴブリンの心臓に、黒い刃が突き刺さった。
「ゴッ…………ググッ…………」
ぱくぱくと動いていた口が半開きのまま、停止した。
「まずは、三匹か」
亜里沙は絶命したゴブリンの胸元から、サバイバルナイフを引き抜く。
――どうやら、ここは亜里沙にまかせてよさそうだ。
「亜里沙、君はここの守りを頼む」
「はいはーい! 全員殺していいんだよね?」
「村を攻撃してくるモンスターはね。当然、村人や騎士は別だから」
「えーっ、またダメなの?」
「味方を攻撃するのは、ずっとダメだよ。君なら、敵と味方の判断ぐらい、すぐにつけられるだろ?」
「うーっ、わかったよ。まあ、殺す相手はいくらでもいそうだしね」
亜里沙は茂みから出てきた新たなゴブリンを見て、上唇を舐めた。
◇
彼方は北の入り口に向かった。
――東と南は銀狼騎士団が守ってる。となると、まずは北の入り口か。あっちは村人のマルクさんやレフさんたちが守ってるはず。モンスターとの戦闘経験は少ないみたいだし、サポートするならそっちか。
その時、丸太でできた家の陰から、二匹のゴブリンが現れた。
――塀を乗り越えて、侵入してきたのか。
彼方は短く舌打ちをして、ウインドソードの柄を握り締める。
「ギュアアアアッ!」
ゴブリンたちは威嚇の声をあげて、彼方に襲い掛かった。
――呪文カード…………は必要ないな。
彼方は左足を下げて、ゴブリンの攻撃を避ける。
同時にウインドソードを真横に振る。空気を裂く音とともに、ゴブリンの胸元に線が入った。その線から青紫色の血が流れ出し、ゴブリンが前のめりに倒れる。
彼方は動きを止めることなく、ウインドソードを残ったゴブリンに振り下ろした。
ゴブリンは短剣で、その刃を受けようとしたが、ネーデの腕輪の能力で強化された彼方の力を跳ね返すことができずに、頭部が真っ二つに割れた。
「ガッ…………ゴゴッ…………」
ゴブリンの膝ががくりと折れ、ぐらりと横倒しになった。
彼方はふっと息を吐き出す。
――ゴブリンが村の中まで侵入してるってことは、村の人たちが危険だな。アイテムカードの『爆弾アリの巣』を具現化しておくか。爆弾アリの自爆攻撃でゴブリンの数を減らせるはずだ。
突然、ひゅんと空気が音を立てた。
――この音は弓矢か!
彼方は地面を転がりながら、その矢をかわした。
片膝をついたまま視線を動かすと、数十メートル先で弓矢を構えるダークエルフの男の姿を捉えた。
ダークエルフは彼方に向かって、再び矢を放つ。
矢が心臓に当たる寸前、彼方は左腕にはめていたネーデの腕輪で矢を弾いた。
――そっちが遠距離攻撃なら、こっちも攻撃呪文を…………。
「今だっ! 氷室彼方を殺せ!」
短剣とロングソードを持った四人のダークエルフが家の陰から現れ、同時に氷室彼方に襲い掛かった。
――そうか。ゴブリンはおとりで、こいつらは僕を殺すのが目的なんだ。
彼方はウインドソードを振って、先頭のダークエルフの足を止めた。
――なんとか、呪文カードを使う時間を作らないと。
「死ねっ! 氷室彼方っ!」
背後に回り込んだダークエルフがロングソードを振り下ろした。
彼方は右足を引いて、その攻撃を避ける。
――強いな。剣を振るスピードが速いし、隙がない。普通の剣士なら、倒すのに時間がかかる相手だ。だけど…………。
彼方は限界まで右手を伸ばして、ウインドソードを斜めに振った。
「舐めるなっ!」
ダークエルフはロングソードで彼方の攻撃を受けようとする。
その瞬間、ウインドソードの軌道が変化した。くの字型に刃が動き、ダークエルフの脇腹を斬る。
「ぐあっ…………」
ダークエルフは苦悶の表情を浮かべながらも、彼方に掴みかかろうとした。
彼方のウインドソードが一瞬、空中で静止し、逆再生をするかのような動きでダークエルフのノドを斬った。
ダークエルフはノド元を押さえて、地面に倒れる。
しかし、残った三人のダークエルフはひるむ様子はない。
短剣を持ったダークエルフが低い姿勢から、彼方の足を狙った。
彼方は前に出していた左足を上げて、その攻撃をかわす。
左右から二人のダークエルフが新たな攻撃を仕掛ける。
彼方はウインドソードとネーデの腕輪で攻撃を受けつつ、距離を取ろうとする。
ひゅんと弓矢の音が聞こえた。
――またかっ!
彼方は上半身を捻りながら、矢の攻撃をぎりぎりでかわす。
――僕が攻撃呪文を使えるのを知ってる動きだ。まずは数を減らさないと!
彼方はロングソードを振り上げたダークエルフに体をぶつけた。ぐらりとダークエルフの体が傾く。
――こいつを盾にさせてもらう。
彼方は素早くダークエルフの背後に回り込む。
今までとは違う方向から矢の音が聞こえた。
一瞬、彼方の動きが遅れ、右肩に矢が突き刺さった。
――もう一人、弓を使う敵がいたのか。しかも、今までより早い。こっちが本命か。
彼方は痛みに顔を歪めつつも、ウインドソードで目の前のダークエルフを斬った。
――でも、これで二人倒した。残りは短剣持ちが二人と弓矢持ちが二人。
「攻撃を止めるなっ! もう少しで氷室彼方を倒せるぞ!」
二人のダークエルフが短剣を構えて、彼方に近づく。
――この位置はまずい。まずは弓矢で狙われない場所に移動しないと。
近くの空き家に逃げ込もうとした時、その行く手を新たに現れた三人のダークエルフが塞いだ。
「逃がさん! お前はここで死ねっ!」
彼方を取り囲んだ五人のダークエルフは、同時に攻撃を開始した。




