ホワイト・ハウス
ロケット・ブースターを4発搭載し、核兵器を2発積んだクフィルが中古タンカーの上に駐機してあった。強化した甲板にエンジン音を響かせていた。
核兵器は特別製の懸架機に吊り下げられていた。まるでコフォーマルタンクのようだった。
フレイはもういない。
※ ※ ※ ※
彼女は怒っていた。
出撃前夜、彼女の部屋に僕が今まで稼いできた財産と手紙を置いてきた。
『金は残す。どっかに家でも買って、遊覧飛行でもしながら生きてけ。』
僕が彼女にできる精一杯のことだった。なぜこんなことをしようと思ったのかはわからない。
ただ、彼女は優秀なパイロットで
僕の友人
彼女は僕をどう思っていただろうか
僕は彼女をどう思っていただろうか
彼女を僕は愛していただろうか
否、それはない。それはベトナム戦争のミサイルぐらい信用できないものだ。
僕は寝ることが好きで、
食べることも好きで、
飛行機が好きで、
何より、空が好きだった。
タンカーは離陸後、爆破される。
乗務員は生き残れないだろう。
すべての証拠は海の底だ。
彼女はどこかでセスナを買って
遊覧飛行の仕事をしているだろう。
知り合いの武器業者に渡すように言ったピタラス・ポーターとセスナ スカイ・ホークは引き渡されただろうか
※ ※ ※ ※
海面すれすれを飛ぶ
海面に船が通った後のような模様ができた。
海と
空と
どちらが綺麗だと
人は言い争っていた
ばかげたことだ
なぜかはわからない
でも、ばかげている、と思った。
上に太陽
腹の下に海
横に空
目を凝らすと、点が見える
みられると厄介だ。後ろから墜としたほうがよさそうだ
忍び寄る
ピタラス・ポーターだ
でもその機体には僕が渡せと頼んだ機の塗装が施されていて
横に着けると
フレイがこちらに微笑んでいた
翼を振った
彼女は
翼を振りかえしてくれて
ゆったりとした
優雅な動きで
僕から離れていった
たった10秒にも満たない動作だった
10秒にも満たなかった
それなのに
僕は満たされた。
増加タンクをつけた機みたいに
愛ではない
信頼ではない
喜びでもない
悲しみでもない
憎しみでもない
楽しみでもない
恨みでもない
妬みでもない
苦しみでもない
そんな言葉に表せるほど
安いものでもない
ただ
僕はパイロットで
彼女もパイロット
二人とも戦闘機に乗っていた
二人とも人を殺していて
二人とも同じ飯を食べて
ただ、僕が乗るのはクフィル改で
彼女が乗るのはピタラス・ポーターで
僕は金持ちを殺しに行って
彼女は田舎に行くだろう
田舎で農薬散布をするのかもしれない
アメリカ大陸が見える
燃料はまだ全然ある
大陸の上に着いたとき操縦悍を引く
機首上げ
背中に負荷
上昇
空しか見えない
どこまでも上がっていける気がして
上がっていける
きっと
きっと
上がって行けるだろう。
限界まで上がったらどうなるのだろう。
上がって
上がって
雲にはいって
出口にちかづいて
点だった光は
どんどん大きくなり
トンネルから出ていくときのように
周りが光に包まれ
クフィルを買った時のように
操縦悍を引いて
ゆっくりと
墜ちていく
レーダーに2機の機影を捉える
もう追いつけないだろう
衛星写真を見ているような光景
もう僕をだれも止められない
僕も止められない
灰色の濁った大地が見えてくる
アフター・バーナー オン
もう誰も止められない
制限速度を超える
軸線は合わせている
警報機が鳴りだす
黙ってスイッチを押し、止める
僕は
今
心穏やかだった
殺してやる
今頃大統領はコーヒーでも飲んでいるのだろうか
大統領がホワイトハウスにいることは分かっている
機体が振動を起こす
エンジンを切る
風切音
風切音だけ
それなのに
僕は相変わらず子供で
殺してやる
振動がやむ
風切音
ホワイトハウスに
軸線を合わせ
普通の子供を僕は知らない
風切音
普通の子供も、僕を知らないだろう
さあ突入だ
風切音
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4
3
2
1