かくれんぼ
実際、今あなたが暮らしてる世界だって、戦争の後部地域に過ぎないでしょう?
それは例えるならかくれんぼだよ。いつ終わるのか決めずに始めてしまったから、最後の一人が見つかるまで終われない。でも巧妙に隠れ、風景に馴染んでしまった君はもう全く見つからないんだ。さらに困ったことに途中参加も認めているから全体数もわからない。
参った。
鬼がそう叫んだとしても、参ったと言えば終了というルールなど決めていなかったから、のこのこ出ていくと捕まる――鬼の罠かもしれない。
そうして辺りは暗くなり、やがて一人ぼっちになった時に君は思う。
もう終わっているんじゃないか。さっきの「参った」で実は終了して鬼は帰ってしまっているんじゃないか。しかし君は終わることができない。
皆がそれぞれ鬼のいないかくれんぼを続けている。見つけてもらえるまでもういいよと言い続ける。
ここは、そんな場所だ。
今、この国は戦争中である。千年以上続いているらしい恒常的な戦争はそもそも何が原因で始まったのか今ではよくわからないが。
女子高生の妹が使う教科書を見せてもらったが、曖昧な書き方で誰と戦っているのかどうすれば勝ちなのか負けなのかさえはっきりしない。ただひたすら進歩してきた闘い方の歴史がそこには並んでいる。
平安京の時代には穴を掘って敵を埋め殺したらしい。刀を使うようになると、町人に化けた敵を切り捨て御免で殺したそうだ。現代では家に引きこもって首筋から柔らかい管を挿入すると、別の身体に意識を投入できる。それを使って町をあるけば、人々に化けた敵がすぐにわかる。顔の上にアニメ調のオニマークが出るのだ。
オニは速やかに処分しなければなりません。
教科書にはそうある。だから見つけたらすぐに発砲しなければならない。
コンビニで立ち読みしていると前触れもなしにヒュッと音がして横の婆さんの黄色い脳みそが床に散る。皆チラリと見て雑誌に戻る。
サイレンサー付き銃で撃ったのはポニーテールのカワイイ店員で、どうやら操作されているボディらしい。正体はわからない。間もなく掃除ロボットが片付けにやってきて跡形もなく――臭いは粒子ごと吸い取って綺麗になる。
引きこもりの人間はそうやって軍人として仕事をしている。俺もその一人だ。ただ、これは言ってみれば人々からは汚れた仕事とされていて体裁がすごく悪い。国から委託されてはいるが公務員でもない。敵がいなくなったらなくなる仕事だ。
しかし千年も前から敵がいなくなったことはないからきっと大丈夫だろう。或いは敵はもういないのかもしれない。この仕事がなくなると総計で二十代三十代の半分が無職状態という事態が発生するので、敵は作り出されているのかもしれなかった。
俺は今日も仕事に出る。ゴミだらけの部屋に置いた座イスに身体を預け、視界は一気に町の倉庫内になる。隣には誰かの持ち物なのだろう、大量のボディがショーウインドウのマネキンのように並んでいる。
俺のもう一つの身体は三十代の女性だ。いかにも疲れてきて寿退社したい年頃という雰囲気で、まず目立ちにくいし警戒されにくい。
準備運動をしてスーツを着る。久しぶりの外だ。町を適当にぶらつき、タコ焼き屋を見つけて食う。歯に青海苔がつくかもしれないしソース臭いかもしれないが知るか。俺はかつてそんな女を見たことがある。中身までは知らないが。
駅前で急ぐ女子高生を見つけた。オニマークが顔に付いている。俺は切符を買って女を尾行する。このボディは女性専用車両にも乗れるから敵を追いやすい。
ただ身体に似合った靴が軒並み走りづらいせいで走行スピードは遅いのだ。気づかれないよう近づいて確実に当たる距離で撃たなければならない。
女と同じ駅で降りる。暗い夜道を数メートル空けてついていくと家に入っていった。鍵をかけられる前に無理矢理押し入る。女は走って二階の部屋へ逃げていく。撃ちながら土足で駆け登ると、奥の扉から異臭がした。そこに隠れたらしい。
つかつか歩きドアを勢いよく開けると、散乱したゴミに埋もれるように座イスにもたれた男がいた。その顔にもオニマークが付いている。
横の女はお兄ちゃんお兄ちゃんと叫んで揺すっているが、その男は眠っているのか起きない。
俺はオニたちの額を狙って正確に撃った。




