表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
消えた君を取り戻すために、少女は巻き戻って運命を変えたい  作者: 桜木 黎明


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/10

消失と始まり

「これで、終わりだ」


 静かな声だった。


 瓦礫の落ちる音も、魔力の唸りも響いているのに。

 その声だけが、不思議なくらい鮮明に聞こえた。


 広間の中央に描かれた巨大な魔法陣が、白金色の光を放っている。


 優しく温かな光。

 本来なら人を守るための、光の魔法。


 なのに今はそれが、どうしようもなく恐ろしかった。


「嫌…」


 喉から掠れた声が漏れる。


 理解したくなかった。

 でも、分かってしまった。


 ユリウスは、自分自身を封印の核にしようとしている。


「ユリウス!!」


 咄嗟に駆け出した。


 けれど、あと数歩というところで身体が弾かれる。


「っ…!」


 見えない壁みたいだった。

 凄まじい魔力の奔流が、私を拒絶する。


 もう一度踏み込む。

 でも、駄目だ。

 近づけない。


「待って…っ!」


 叫ぶ声が震える。


 ユリウスの身体が、少しずつ光に溶けていく。

 ふわりと揺れる黒髪。

 白金色に照らされた、夜空のような瞳。


 その瞳が静かにこちらを見ていた。


「フィオナ」


 名前を呼ばれる。


 いつも通りの声だった。

 みんなで笑っていた時と、同じ声。


 だから余計に、嫌だった。


「いいんだ、大丈夫」


「よくない!」


 涙が滲む。


「そんなの全然よくない…!」


 どうしてそんな顔をするの。

 どうして笑っていられるの。


 ユリウスは困ったように目を細めた。


「みんなを頼む」


「嫌!」


 必死に手を伸ばした。


「勝手に決めないでよ…!」


 あと少し。

 本当に、あと少しなのに。

 なのに届かない。


 光がどんどん強くなっていく。

 白金色の輝きが広間全体を包み込んで、空気が震えた。


 レオガルドが舌打ちをする。


「…くそっ!」


 前へ出ようとしている。

 でも近づけないのは同じだった。


 セレナは青ざめた顔で、首を振っていた。


「やだ…こんなの…」


 掠れた声。


 ヴァンは険しい顔のまま、魔法陣を睨みつけている。

 奥歯を噛み締め、拳を握ったまま。

 手から血が流れているのに、気づいていない。


「ユリウス!!」


 何度も名前を呼んだ。


 消えないで。

 お願いだから。

 置いていかないで。


 みんなで学院で過ごせるって、笑ってたのに。

 まだまだこれからだったのに。


 ユリウスが小さく笑う。


 その笑顔が、最後みたいで。

 胸が、痛かった。


「フィオナ」


 優しい声。


「泣かないで」


「無理…っ」


 涙が止まらない。


「こんなの、嫌だよ…!」


 ユリウスの輪郭がさらに薄れていく。

 光の粒になって、空気へ溶けていくみたいに。


 嫌だ。

 本当に嫌だ!


 魔力の壁に手を叩きつけた。


「やめて…!」


 届かない。

 どうしても、届かない。


 その時。

 ユリウスが静かに目を閉じた。


 同時に、光が一気に溢れる。


「─っ!」


 視界が真っ白に染まった。


 温かい光。

 なのに、あまりにも残酷だった。


「ユリウス!!」


 叫ぶ。

 必死に手を伸ばす。


 でも。


 次の瞬間光の柱が、消えた。


「…え」


 静寂。

 耳が痛いほどの沈黙。


 さっきまでユリウスがいた場所には、もう誰もいなかった。

 巨大な魔法陣だけが、静かに残っている。


「うそ…」


 理解できない。

 したくない。


 だって今まで、そこにいたのに。


 私は呆然としたまま仲間たちを見る。


 ヴァンは俯いて、強く拳を握り締めたまま。

 セレナはその場に崩れ落ち、震える唇を押さえていた。

 レオガルドは険しい顔のまま、消えた場所を睨み続けている。


 誰も何も言わない。

 ただ重苦しい沈黙だけが、広間を満たしていた。


 その時。


「…あれ…?」


 急激に、視界が揺れた。


 足元が崩れる。

 意識が沈んでいく。


 暗い。

 何も見えない。


 遠くで、誰かの声が聞こえた気がした。


『変えたい?』


 女の人の声だった。

 優しくて、静かな声。


 暗闇なのに、不思議と怖くない。


 変えたい。

 そんなの、決まってる。

 あんな未来認められるわけがない。


「…変えたい」


 掠れた声で答える。


 すると、その声は少しだけ笑った。


『じゃあ、あなたが救ってみせて』


 その瞬間世界が、弾けた。


****


「お嬢様!フィオナお嬢様!」


「っ…!」


 勢いよく目を開ける。


 見慣れた天井。

 柔らかな朝日。

 白いカーテン。


 自分の部屋だった。


「…え…?」


 呆然と呟く。


 目の前には、メイドのエマが立っていた。


「もう、何度お声をかけても起きないんですもの」


「エマ…?」


「はい?」


 どうして。

 なんで普通にいるの。

 さっきまで私は、あの屋敷に…


「大丈夫ですか? 随分うなされていましたよ」


 心配そうにエマが覗き込む。


 私はゆっくり身体を起こした。

 鼓動がうるさい。

 頭の中が真っ白だった。


「…今日は」


「もう、お寝ぼけですか?」


 エマが困ったように笑う。


「明日から学院だからって、昨日あんなに最終チェックをするって張り切っていたじゃないですか」


「学院…?」


 その言葉を聞いた瞬間、息が止まった。


 弾かれるように机の上のカレンダーを見る。


 そこに書かれていた日付。


「…うそ」


 全部が始まる前。

 学院入学の前日だった。


 震える手を見つめる。

 さっきまで感じていた光の温もりが、まだ指先に残っている気がした。


「戻って…る…?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ