25見たことがある迷彩柄
装備や言葉はキャロルの故郷、自衛隊のそれ。
「もしかして異世界に迷い込んでしまった人たちなのかな……うわあ」
彼らが故郷に帰りたいと願っていることを直感的に感じ取った。生活を選んだ自分とは違い、愛する家族や友人のもとへ帰りたいはずだ。
「地球に帰してあげたい。そのためには地球とこの世界を繋ぐ魔法の扉が必要」
工房で設計図を広げた。次元を跨ぐ、極めて高度な魔法技術が求められる挑戦となる。
「あのねキャロル、異なる次元を繋ぐことは世界の魔法の根幹を揺るがしかねない禁忌の領域。過去の記録にも安易な次元干渉による悲劇が数多く記されていますわ。細心の注意と厳重な安全対策、強固な意志が不可欠ですからね?」
「うん」
構想に、これまでのどんな発明よりも真剣で少し不安げな表情で助言を与えた。
「うん……だから、絶対に安全で世界にも地球にも悪影響がないようにする!それにあくまで帰りたい人だけを帰すための扉であって無闇に次元を行き来できる扉にはしないし」
量子テレポーテーションやワームホールといったSFの概念を思い出した。これを魔法で再現し、安全性を確保する。
次元の空間の歪みを検知し、一時的に固定するための魔導具次元の羅針盤の設計に取り掛かった。
魔力を放ち、次元の壁にわずかな隙間を見つけ出す仕組み。隙間を広げ、安全に次元を移動するための魔法の扉帰還の門も考案した。門は移動する対象の次元座標を正確に把握し、目的地へと送り届けることが理論上可能。
「異世界に生身でそのままとか怖い」
工房には非常に高純度の魔力結晶や、複雑な次元計算を行うための特殊な魔力回路、安定した次元の扉を維持するための結界魔法陣などが並べられた。次元の扉が不安定になったり、地球の座標が特定できなかったりすることもあったがなんとかやれた。
「森で迷っている人たちのために、温かいご飯と毛布を用意しておこう。お腹が空いてるし、寒いだろうからね」
ミーチェは行方不明になった自衛隊員たちのことを案じ、快適に過ごせるよう細やかな気遣いを見せた。異世界で困っている人々を助けたいという純粋な優しさを持っていた。
「彼らが安心して過ごせるように、最高の準備をしておこう」
目元を緩ませるとユミスは公爵家の所有する古文書の中から、次元移動に関する禁忌の魔法や空間の歪みを制御するための古代の儀式について調べてくれた。
「次元の扉を安定させるには、世界の魔力とあちらの魔力を一時的に均衡させる必要がありますわ。非常に繊細な魔力操作が求められます」
ユミスの言葉に二つの異なる次元の魔力を調和させるための、新たな魔力調整システムを開発した。ソフィアはキャロルたちが作った試作品の魔導具をじっと見つめていた。
言葉は少ないものの魔導具から放たれる微細な魔力の揺らぎを敏感に察知し、キャロルにそっと教えてくれた。感覚は魔導具の精度を高める上で非常に重要な役割を果たした。
お父様は遠征で得た珍しい魔石の中から、次元の壁を一時的に薄くする力を持つものや、遠く離れた場所の座標を正確に特定するための魔力を持つと言われるものを探し出してくれた。素材はキャロルの魔導具に何よりも重要な起動力と正確性をもたらした。
数ヶ月後、公爵家の領地の森の奥に巨大な鏡が立つかのような、青白い光を放つ神秘的な魔導具希望の門を完成させた。次元の羅針盤と帰還の門が統合された、地球への帰還を可能にする究極の扉。
完成披露の日、森の奥深くは緊張と期待に満ちた空気に包まれていた。国王陛下をはじめ各国の貴族、学者、自衛隊員たちを救うために協力した人々が集まっていた。
その中にはキャロルが運命の羅針盤で見た、迷い人となった自衛隊員たちの姿もあった。希望に満ち、不安げな表情で希望の門を見つめる。
「皆様、新たな魔法の道具と故郷への帰還の始まりです!希望の門って言います」
告げると部屋の中央に置かれた希望の門がまばゆい青白い光を放ち、門の奥には彼らが慣れ親しんだ地球の風景が映し出された。
自衛隊員たちは光景に言葉を失い、次々と門をくぐっていった。故郷の匂い、故郷の音、故郷の空気を全身で感じ取る。
「本当に、地球だ……!帰れたんだ……!」
「ありがとうございます!本当にありがとうございます!」
自衛隊員たちはキャロルと家族に深々と頭を下げ、涙を流しながら感謝の言葉を述べた。安堵と愛する故郷への深い喜びが浮かんでいる。
希望の門は瞬く間に世界中に知れ渡った。異世界に迷い込んでしまった人たちを故郷へと帰還させる活動が始まり、多くの人が愛する家族のもとへと戻ることができた次元を超えた平和をもたらす象徴。
「もう迷子になっても大丈夫だね!帰れるんだもん!」
いつものティータイムにミーチェが目を輝かせながら言う。
「とても素晴らしいことですわね。でも、私たちはこの世界で、もっとできることがあるはずですわ」
ユミスが優雅に微笑んだことで空気が優しくなる。
「ねえねえ!キャロルお姉ちゃん、今度はどんなすごい冒険をさせてくれるの?」
ソフィアがバラのジャムとマーマレードを塗ったパンを大事そうに抱えながら、キャロルを見上げるとキャロルは満足げに笑った。愛する家族、発明で豊かになっていく世界。
「生き物たちと地球の生き物たちが安全に交流できる魔法の動物園を開発してみようかな。お互いの世界を知れるし」
キャロルの言葉に、家族全員は驚きの声を上げた。




