19宝石みたいなジャム
日照りに苦しむ地域には恵みの雨が降り、洪水に悩まされる地域では雨が止められた。漁業や農業は安定し、貿易は活発になり、災害による被害は激減して生活は安全で、豊かなものに。
「今度、この魔法の杖で雪を降らせてみない?雪だるま作りたい」
ミーチェが目を輝かせながら言った。
「いいね!ソフィアも雪だるま作りたい?」
キャロルがソフィアに尋ねると嬉しそうにこくこくと頷いた。
「最適な天候にできるわね。災害も減らせるし、本当に素晴らしいですわ」
ユミスが優雅に微笑んで、お父様が優しい眼差しでキャロルを見つめた。
*
「見て見て、ミーチェ。バラがきれいな色してる」
キャロルは公爵家の庭で朝露にきらめく鮮やかなピンク色のバラを指でさし、隣に立つミーチェも美しさに目を奪われている。
「本当ですわ、絵画のようですわねえ」
ミーチェがうっとりとした表情で答えると、ユミスとソフィアも色とりどりの花が咲き誇る庭を散策している。天候の魔法杖の発明によって気候が安定し、豊かな作物が実るようになった。食料の多様性にも目を向ける。
「ミーチェ。きれいな花びらで何か美味しいものが作れないかなって」
ミーチェは目を丸くした。
「花びらでですか?お茶にすることはありますが、食べるというのは……えっと、あまり」
花を食用にする習慣はあまりなかったが、ローズジャムやスミレの砂糖漬けなど花を使ったスイーツをたくさん知っていたからもどかしい。
「例えばバラの花びらで甘くて美味しいジャムとか」
姉妹の目がキラキラと輝き始めた。
「わぁ!バラのジャムですの!?素敵ですわ!」
ミーチェは新しいレシピに挑戦することに、いつもわくわくするタイプだ。目指したのは花の美しさと香りをそのまま閉じ込めた、誰もが笑顔になるようなジャム。
「花びらの香りや色を損なわずに、美味しいジャムを作るには、魔力の調整がすごく大事」
工房で設計図を広げつつ、花びらの繊細な構造を壊さずに糖分と魔力を均一に浸透させる方法を考える。
「花びらの持つ魔力を最大限に引き出し、甘味と香りを定着させるには特定の魔力波長を微弱ながら持続的に与える必要があるわ」
母が構想に耳を傾けながら専門的な見地から助言を与えてくる。香料や保存魔術にも造詣が深く、キャロルの研究を全面的にサポートしてくれている。
「だから、香りの増幅器を使おうと思う」
陽光石の核から抽出した魔力と、特定の魔力結晶を組み合わせた、新たな魔導具の設計に取り掛かった。
花びらの持つ香りの成分を活性化させ、ジャムの中に閉じ込める仕組みで、工房には、色とりどりのバラ、スミレ、ジャスミンといった花びらが山と積まれ、甘い香りが漂う。
花びらから魔力と香りを抽出するための魔力釜、ジャムの濃度を調整するための魔力撹拌器などが並べられる。
日夜、花と魔力と甘味の関係を追求した。時には魔力照射が強すぎて花びらが焦げ付いたり、香りが飛んでしまったりすることもあったが花のジャム作りには、家族全員がそれぞれの得意分野で出来上がっていく。
「バラは香りがとても強いけどスミレは色がきれいだよ!色と香りのバランスを考えて組み合わせると素敵なジャムになるんじゃないかなぁ」
ミーチェは庭の花を熟知しており、ジャムに最適な花の組み合わせを提案してくれた。ジャムの味見も積極的に行い、甘さや香りのバランスについて繊細なアドバイスをくれる。
「ありがとう。色も香りも楽しめるジャムにしよっかな」
ユミスは公爵家の経済状況と市場での需要を考慮し、どの花を優先的にジャムにするかどのように販売していくか計画を立ててくれた。
「ジャムは見た目も非常に美しいですわ。贈り物としても大変喜ばれるでしょう。素敵な瓶やラベルのデザインも考えましょう」
ユミスはジャムのブランドイメージを考え、美しさを最大限に引き出す。ソフィアは花のジャムの色や香り、ジャムから放たれる甘い香りにとても幸せそうな顔をしていた。
お父様は新しいジャムを試食するたびに「うむ!これは美味い!冒険の疲れも吹き飛ぶようだ!」と豪快に笑い、娘たちの努力を惜しみなく褒める。優しい親で毎日やる気が湧き起こる源。
色とりどりの美しい瓶に詰められた、宝石のように輝く花の魔法ジャムを完成させた。早速味見してもらったりする。
バラのジャムは深紅の輝きを放ち、高貴な香りが漂う。スミレのジャムは淡い紫色の光を宿し、可憐な甘さが広がる。綺麗だ。
販売する前には花を使ったジャムという新しい発想に周りも興味津々で、テーブルに並べられた色とりどりのジャムが、まばゆい光を放ち始めた。
うまく人の目を惹きつけている。試食会に来た人たちが一口食べるごとに驚きと感動の声を上げる。
「おお!花園にいるような香りだ!」
「美しいジャムは初めてだ!食べるのがもったいないほどだ!」
「口の中に花の魔力が広がるようだ!」
「おいしー!」
花の魔法ジャムは瞬く間に世界中に広まった。特に貴族たちの間では高級な贈り物として愛され、各地のカフェやパティスリーでは新しいスイーツの素材として注目されていく。それを目的にしているから、予定通り。
花を育てる農家も増え、食文化はより豊かで多様なものへと変化していった。やはり美味しくないと人生は彩れない。
「ねぇ、お母様!今度このジャムを使った新しいデザートを作ってみない?バラのジャムのタルトとか」
ミーチェが目を輝かせながら言った。
「ええ、いいわね。想像するだけで心が躍りますね」
お母様が優雅に微笑んだ。
「どんな美味しいものを作ってくれるの?」
ソフィアがバラのジャムを塗ったパンを大事そうに抱えながら、キャロルを見上げるとキャロルは満足げに笑う。
美味しいからと瓶に名前を書くくらい気に入っているらしい。そんなことをしなくても家族は食べ放題なのにね。
「ジャム作りの技術を応用して食べられる芸術品を作ってみようかな。例えば、お花畑のようなケーキとか宝石みたいなお菓子とか」
家族たちは満面の笑顔で大喜びして、公爵家の庭で次の発明について話し合う。この時間が好きだ。構想を練って発表する時間が。
魔法ジャムが大成功を収め、食文化の可能性をもっと広げたいと思っていた。




