35,ファストフード店オープン!(レイルズ商会長ハサウェイ視点)
レイルズ商会は服飾雑貨の取り扱いを中心に始まり、本や魔道具、そして薬品など続々と販売の品数を増やし、エターナリアの世界各国に数多くの店舗を展開している大商会である。
設立は約500年ほど前、魔女レイラにより、人族から迫害されているところを助けられた魔族が代表となり、創造されたばかりの魔女のダンジョンへと物資を運ぶ役目を担い、外貨獲得の主軸となる事業のひとつとして始まった。
見た目はほぼ人族と相違ないハサウェイがロマリオ帝国にあるレイルズ商会本店にて、商会長を任されてから20年経ち、そろそろ後継者を指名しなくてはいけないと考えている。
今回の飲食業界市場への参入は、歴史ある商会にとっても、全くの新しい挑戦となる。
だが勝機はある!
魔女レイラ様の生まれ変わりであるミオ様が、冒険者へと販売を繰り返すうちに口コミ拡散され、今や一般人までにも噂が伝わる程なのだ。
ロマリオ帝国内のレイルズ商会各店や冒険者ギルドにて、事前にチラシを配布したのも効果的だった。
メニューだけではなく、代金やイラストで視覚的に分かりやすい内容は、広く人々に受け入れられた。
何より画期的だったのは、割り引きクーポン券付きだ。そのようなチラシは、このエターナリアの世界で初めての試みだったのではないだろうか。
メニュー内容はミオ様の母君であるアイコ様が、ダンジョンの管理者であるアクア様と相談して決められており、レシピも詳しく説明を受け、調理師達が練習を重ね十全に再現された自信作が店に並ぶ。
そして、とうとうその日がやって来た。万難を排してのオープン。
始めは店内での飲食は無しにする。持ち帰り専門店としてのスタートだ。
主力商品は、ハンバーガーとおにぎり、そしてドーナツ。この3点のみだが、味のバリエーションが豊富なので、初日の販売のメニューは種類を厳選して作られる。現存する総ての種類を提供するのは、スタッフの技術としても、店の食材の確保の観点からも難しい。
スタッフ投票により決められた商品が、提供される運びとなった。
開店前から長蛇の列が出来ており、整列の為に予想以上に人手が必要とされ、最後尾にはプラカードを持った店員が声を張り上げながら案内をしている。
店内入り口は三列で並び、ショーケースに並ぶ美味しそうな商品に目を奪われた客は、チラシを見て事前に買う商品を決めていたにも関わらず、追加でアレコレ購入してしまうようだ。
正しく飛ぶように食品が売れていく様は、小気味が良いどころか、商品が足りるのかという焦りを感じさせる。
そう思うのは現場を見守っている商会長である自分だけではなく、来客も同じようで、無くなる前にと大量購入する動機にもなり、更に商品の減りが早まった。
「どんどん作って!」
『ハイッ!!』
調理場に入り声を掛けると、必死の形相で高速調理するスタッフ達が声を揃えて返事をした。
そしてその足でバックヤードへと向かい、食材を運ぶのを手伝った。
こんなに忙しいのは商会始まって以来初めてではないだろうか。
現場の調理師だけではなく、役員だろうが、事務員だろうが、関係なく働いた。
猫の手も借りたい程の目まぐるしさが絶え間なく続く。
昼食はモチロンの事、トイレ休憩さえも忘れていた。
ハッと気が付くともう夕暮れ時。
午前9時に開店してから8時間経過していた。
『完売致しました~!!』
販売員の声が聞こえ、店内ショーケースが空っぽになっているのが目に入る。バックヤードの食材も底をついていた。
それでもまだ店内にいた来客には、後日販売の予約券が配られ、1日の営業が終った。
疲労困憊しているはずだが、商売人としての充実感がそれに勝る。
スタッフも自信に満ち、成し遂げたという笑顔が浮かんでいる。
店内の清掃を済ませた後に、全員が会議室へと集合する。
「本日はお疲れ様でした!こんなに達成感のある仕事は今まで無かったかもしれません。ですがまだ初日です!もう何日も働いたかのような錯覚に陥っているのですが……」
一旦そこで言葉を区切ると、笑い声が響いた。
そこかしこで、「ホントにもうずっと働いてる気がするなー」と言う言葉が聴こえる。
それほどの仕事量。とても濃い1日だった。
「疲れも出ると思われます。交代で休憩を取り、怪我などの労災に気をつけて下さい。では、本日の業務は終了になります。明日も頑張りましょう!お疲れでした!!」
「「「お疲れ様でした!!!」」」
1年かけて徐々に店舗を増加する予定だったのだが、あまりの人気で長蛇の列が続き、帝都内で社会問題になったために、取り急ぎ支店の開店日時が早められ、なんと1ヶ月で5店舗もオープンした。
ファストフード店は【幸運の魔法のレシピ】という店名で展開され、人々からはラキマジという略称で親しまれた。
さらに挑戦は続き、次なる飲食店はファストフード店ではなく、喫茶店となる予定だ。
ミオ様の要望で、メイド喫茶と執事喫茶なるものを始めたいらしい。
どんな料理になるのか、そしてコンセプトは?
「ミオ様のためならば、どのような無茶振りだったとしても、ダンジョンのメンバーと一緒に乗り越えて見せましょう!」
宣言して前を向く。
我らの主。魔女様に忠誠を捧げます!!




