高圧
海の民の貨客船はそれ自体が海の民の領土であった。それは昔からのしきたりであり海を取り巻く諸国も認めていることであった。しかし龍が住まうという島の周辺を航行するときは違っていた。聆と幵が互いに島の周辺海域を領有していると主張していたからだ。
龍が住まう島自体は人間が上陸することはないが、周辺は珍しい魚介類が採れるのでわざわざ小さな漁船もやってくるので、自然と争いが起きていた。かつて聆がわずかな期間であるが、龍の祠を祭る村落を設けていたので、なんとなく聆の領地のように思われていたが、それに異を唱えたのが幵だった。
幵の新皇帝は、旧帝室を追い出しただけでなく周辺諸国ともかつての領土を取り戻すとして戦っていたが、それは聆に対しても一緒だった。だから龍が住まうという島に対して実力行使をしようとしていた。
「くそ! どこからもなく現れやがって! 」
聆の装甲武装艦からは怒声が響いていた。海の民の貨客船とともに包囲されどうすることが出来そうもなかった。その船は火を焚きながら進むことも出来る木造の船体に鉄板を纏わしたものであったが、相当古そうだった。だがら幵が糸目をつけずに新しく作った武装船、しかも五隻に相手することなど出来そうになかった。
「やれやれ、手出ししてはならない我々にちょっかいを出すからこうなるんだよ。しかし、どうしたものかな? 」
鳴魚は甘草をかじりながら眺めていた。こんな風に高圧的な事を幵の船がするのは近年珍しくなかったが、自分が目の当たりにするのはあまりなかったからだ。それで、かじり終わった草を吐き出して彼女は怒鳴り始めた。
「我は海の民の鳴魚だ! あんたらは我をどうするんだ! この海の民が海を航行する自由は古から約束されたことであるぞ!
なのに何故邪魔をするんだ!」
鳴魚が怒鳴ると、幵の武装船から司令官らしい男の怒鳴り声が聞こえてきた。
「鳴魚か? お前は海の民の族長の一人だったな! そんな古の約束なんぞも、もはやなんの力もねえぞ! 今はこの船のような力が規則を作り出しているんだぞ! それにしてもここ龍が住まう島は我らが皇帝陛下の御料地であるぞ! それに近づく者は許されざるものとして葬っても文句は言えねえぞ!
投降か死か、どちらかを選ぶが良いぞ!」
それを聞いた鳴魚は鼻で笑っていた。成り上がりの皇帝が何をほざいているんだと。でも、聆の武装船は違っていた。どうも恐怖に支配されているようだった。だからトンデモない行為に及ぼうとしていた。




