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お題【蝉】

 珍しく実話です。高校時代の話です。


 当時、仲が良かった後輩と、確かピアスの話をしていたと思う。

 その子は女子で、ピアス穴はまだ開けていなかったけれど、他の男友達に「親からもらった体に穴を空けるなんて」とかいう意味不明の説教を受けたと愚痴をこぼしていた。

 当時、青臭い高校生だった私は、異民族の儀礼的な習慣を、そのことへの理解もなくファッションとして利用することに抵抗ある派だったが、彼女の怒りに水を差してもイイコトなんて欠片もないので、黙ってウンウン頷いていた。

 すると彼女はいきなり「穴なんてもう開いているのに」なんて意味深な発言をする。当時青(以下略)な私は、急に大人の顔をのぞかせてくる後輩に、突然置いてきぼりされたような気がして、表面上は平静さを保ちながらも心の中ではぐらんぐらん揺れていた。


「ほら、これ」


 え、ちょっと待って心の準備が……手?

 彼女が私に突き出してきたのは手の甲だった。


「ここに傷があるでしょ」


「あ、ああ、あるね」


 多少、声が上ずっていたかもしれない。


「これね、小さい頃、蝉に吸われたの」


「へぇ」


 年頃の男子らしい妄想に片足突っ込みかけていた私の思考は、健全さの中に連れ戻されはしたものの、その現実の非現実的なエピソードをにわかには理解できないでいた。


「え、ちょっと待って。蝉に?」


「そうだよ。さっきから蝉って言ってるじゃん」


「日本で?」


「うちの近所。わたし、昔から男の子たちと混ざって外で遊ぶのが好きで、その時も外で遊んでいたのね。そしたら蝉が飛んできて、私の手にとまったの。虫とか別にキライじゃなかったし、あ、蝉だなーなんてじっと眺めてたらね、蝉は何を思ったか、あのストローみたいな口をわたしの手にぶっ刺したの」


「うっわ」


「そのあとね、ストローが端っこの方から赤ーく色が変わってったから、吸われてるよって慌てて振り払って、蝉はどこかに飛んで行っちゃったんだけど、吸われている時のことは今でもハッキリ覚えている」


「吸血蝉が●●(地名)に!」


「私、そんなに木っぽかったかなぁ……」


「背は低いのにね」


「それ関係ないから!」


 みたいなやり取りがありました。

 ヤツラはよく道路の真ん中で死んだふりしておいて、近づいたらブビビブバブビ暴れてくるという心臓にダメージのある攻撃も得意ですが、まさか血をダイレクトに吸ってくるとは油断なりません。

 皆さんも蝉にはご注意あれ。




<終>

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