↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
34/138

お題【変化する写真】

 あっちゃんは私の「熱烈なファン」を自称している。

 お節介なところもあるけれど、私のことを妬んだり陰口叩いたりしない、貴重なお友達。私と距離を取っている女子たちからは「ばあや」なんて呼ばれているみたいだけど、彼女は全然気にしていない。そういう彼女の強さは素敵だと思う。


 私は小さい頃から「不自然なくらい色気がある」らしく、昔から変な男に付きまとわれやすい。

 寄ってくるのはどいつもこいつもろくな男じゃない。身勝手で、傲慢で、自分の価値観だけが世界の全てで……それなのに、いつも私から誘ったとか私が悪いとか言われのない罪をなすりつけてくる。

 勘弁してほしい。


 男だけじゃない。女だってあっちゃん以外で絡んでくるのは酷いのばかり。

 見たことのない女からいきなり「あんたのせいよ」みたいなことを言われたのだって十回や二十回じゃ済まない。

 そんな時、あっちゃんは私を守るために奮闘してくれて、時には励ましてくれたりもする。


「あいつら酷い悪口ばっかり言っているけど、本当に悪いのはあいつら自身だから気にしないでいいよ」


 これはあっちゃんがよく言ってくれること。

 でも実は、私はそんなに気にしてないんだけどね。台風と一緒。ちょっと我慢すれば変なやつらはみんな、私の前から居なくなるんだし。


 そんな、ろくでなしばかりの連中に飽きた私は、大学進学を機に地元を離れ、こっそりと東京へと出て来た。


 入学式の当日、私はあっちゃんに会った。

 彼女は私を追いかけて来て、同じ大学に入ったという。

 今までの彼女の行動を見ていると、やっぱりそうするよね、と、納得してしまう自分もいる。でも、彼女が「熱烈」ぶりを発揮したのは、むしろその後だった。


 私が大学構内のどこかで男子と話していると、それを目ざとくチェックして、すぐに報告に来てくれる。

 あの男は金にだらしないからやめておけだの、あの男は赤ちゃんの横で平気で煙草を吸うからよくないだの、あの男は女を性のはけ口としてしか見ていない危険だの、よくもまあこんなに迅速に調べてくるなといつも感心している。


「だけどさぁ、よくも酷い男ばかり選んで話しているよね。あなたはその美貌と引き換えに、男を見る目を失ったんだわ。自分では気づいてないかもしれないけれど、あなたに言い寄って来る男はあたしの統計上、100%ゲス野郎ばかりだから」


 安心して、あっちゃん。私の統計上でも100%だから。


 今日、また新しい男が私に近づいて来た。

 ご飯に誘われ、OKした後で、あっちゃんがまた情報をくれた。


「今度の男は有名大学で、しかも親は医者。一見有望株に見えるけれど、妊娠させた女の子を実家の病院で堕ろさせているクズだから」


 本当にどこから情報を仕入れてくるんだろう。関心しつつ、私はその男と「いい距離」を保てるよう気をつける。


 翌日、あっちゃんは一枚の古そうな写真を持ってきた。

 スマホを三つ並べたくらいのけっこうな大きさのモノクロ写真。


「ね、この写真。苦労して手に入れたんだけど、あの男に見せてみて」


 どこかの神社だろうか。歴史を感じさせる厳かで大きな本殿が奥にあり、そこに向かって真っすぐに伸びる石畳の参道、途中には立派な屋根のついた手水。周囲には玉砂利が敷き詰められていて、神社の背景には森のように生い茂った樹々。

 眺めているだけで、鳥肌が立つ。


「この写真はね、特別な心霊写真なのよ」


「特別な心霊写真?」


「そう。水子が憑いている人がこの写真を見ると、心霊写真に見えるらしいの」


「ふーん。あの彼に見せてみるね」


 約束通り、あっちゃんからもらった写真を例の医者の息子に見せてみた。


「わ、気持ち悪い。これ心霊写真? 人の顔みたいなの見えない? ほら、ここと……こっちにも!」


 男が指したのは両方とも樹々の一部。残念ながら私にはそれが人の顔には見えない。その結果をあっちゃんに報告すると、彼女は「だからやめときなさいって言ったでしょ」と得意げだ。


「ねぇ、この写真、私もらってもいい?」


「もちろんいいわよ。最初からそのつもり。新しい男が現れたら、仲良くなる前にまず見せて確かめるのよ」


「ありがとうね」


 私はその写真を、自分の部屋の一番目立つところに飾った。


 彼女はこれを、水子だけが映る心霊写真みたいに言っていたけれど、おそらくそんな器用なものじゃない。もっと強力な何かを感じる。

 私は自分の考え通りになるかどうか、試してみることにした。


「すごい。その日のうちにちゃんと増えるのね」


 玉砂利の所に、顔のような影が浮かんできた。例の医者の息子だ。私がこいつの水子を見ることが出来なかったように、他の人もこの写真に私が何を見ているかはわからないはず。

 戦利品は何かの時に証拠になってしまうからとずっと我慢してきたけれど、本当は欲しかったんだ。

 この写真は、私にしか見えない昆虫標本みたいなものね。殺してきた連中の集合写真だなんて、本当にたまらない。




<終>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。