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テンプレートは破棄したのに、婚約破棄はしなかった妻

「つ、通報?!」

「そんな大袈裟な!」


壇上の二人が悲痛な顔をした。

ついでに周囲もざわめき出した。

大袈裟な、って本人が言うの?

まぁね。ただただ謝らせたい、二人の仲を認めさせたいってだけで始めたのに、騎士団まで巻き込むような話にはしたくないでしょうとも。

私はするけどね!


「大袈裟?踊り場から背中を押して突き落とす、この時点で殺意もしくは害意があるじゃないですか。例えアイリーン嬢が軽傷で済んだとしても、()()()()()です。なぜ騎士団に通報して、きちんと犯罪者を捕らえようとしないのです?」


わざと強めな単語を使い、有耶無耶にして良い話ではないことを強調する。

あちらはなんだかしどろもどろになってきた。


「い、いや、でも……」

「そんな弱腰でどうするんですかカート様。愛しのアイリーン嬢が危険に晒されたんですよ?強気な姿勢で犯人を断罪するくらいの気概をお見せくださいな。今、そこで。わたくしに言い放った時のように」


ニマァ、っと笑ってやると、カート様もアイリーン嬢も青ざめた。

私が100%善意で言ってないことくらいは察してるようで何より。

アイリーン嬢は、それでも健気を装って訴える。


「私は!断罪なんて望んでいません!ミュリエル様が謝ってくださればそれで、」

「わたくしはやってませんので謝りませんし、一方的な破棄も受けません。何より、あなたが良いと言ってもわたくしが嫌だわ」

「嫌……?」



「わたくしがやってないのであれば他に犯人がいます。生徒を突き落とすような悪人が、学園内に野放しにされてるのは困りますわ。そうですわよね、ユーリウス様?」


◇◇◇◇◇◇◇◇


「って、いきなり私を引きずり込んだんだ……」


当時を思い出して項垂れるユーリウス様に、妃殿下がポンポンと背中を叩いて慰めた。

それを見て今度はミューが呆れ顔だ。


「最大権力を使って何が悪いんですか」

「全く悪びれてないな!知ってた!」

一瞬で元気になった。

そのあとは恨めしげな顔になる。

「……『面倒だから学園では馴れ馴れしくするな』と一方的に言ってきて、一年近く疎遠にしてたのに、いきなり親しげに声を掛けられたんだぞ?私の心境を察しろ!」

あぁ、この間言ってた。

……改めて聞くと、他人事なのに抉られる内容だ……。

心の底から言われたくないセリフに、眉が下がったらしい。

ミューが僕の頭を撫でながら反論した。


「面倒と言ったのは、婚約者のこともあったからです。マリーとの繋がりに気付いてなさそうだし、下手に勘付かれたら紹介しろとか言われるかなって。後は学園でもクラスメイトたちに騒がれたくなかったので、黙ってもらってました。でも、もう破棄するならいいかなと」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


壁際に立ち並ぶ生徒会メンバーに視線を向けると、ユーリ様もマリーも一瞬驚いた顔をしたが、すぐに平静を装って介入してきた。


「そうだな。グリフィス嬢の言う通り、学園内で傷害未遂があったなら、生徒会としても王族としても看過はできない」

「会長の仰る通りです。早急に学園内で調査をし、結果次第では騎士団に通報しなければなりません」


おぉ、生徒会ぽいことを言ってる。

感心してると、ユーリ様はジト目で睨んできた。

アイコンタクトで同意を示すと、長いため息の後に続ける。


「……それに、グリフィス嬢ーー()()()()()は、私の婚約者・マリアベルの妹のような存在だ。私も妹のように思ってる。そのミュリエルに、このような公衆の場で濡れ衣を着せられて、黙って見ている訳にはいかない」



私の指示で、黙って見てましたけどね!

とは茶々を入れないでおこう。

私の意図した通り、隠していた我々の仲を堂々と言い切ってもらった。

講堂内が大きくどよめく。


「ミュリエルが……ユーリウス様とマリアベル様に……?!」

「まさか、そんな……!」


絶望的なお顔になりましたね、お二人さん。

現在の学園において、最も権力をお持ちなのは王族であるユーリ様だし、最も恐れられているのはその婚約者のマリーだ。

多少『虎の威を借る狐』感はあるが、そこを差し引いても才女であるマリーに逆らえる人はそうそういない。

今までは言わないでおいたけど、一年でなんとなく人間関係も把握したので、『虎の威を借る狐』の威を借る……何かな、狐の下なら兎とか?

そんな可愛らしいものではないけど、とにかく威光を借りて、この事態を「なかったこと」にはさせない。

しばし呆然としていたカート様が、思い出したように再度私を睨んだ。


「ミュリエル!なぜ黙ってた?!」

「は?なぜ、とは」

「お前が殿下方との関わりを僕に教えていたら……!」

「教えていたらなんです?濡れ衣を着せようとはしなかった、とでも?」

「っっ……」

「関わりがあろうとなかろうと、濡れ衣を着せようとしてる時点でギルティです。なぜ黙っていたかと問われれば、関係なかったからです。あなたにも、この婚約にも。ユーリ様やマリーがわたくしと親しいからとて、それが契約になんの関わりがありますの?擦り寄ってきてほしくないんですよね、鬱陶しい」

ここ大事ですよー。擦り寄られるの、鬱陶しい。

皆聞いて、覚えてね!


ユーリ様が呆れた顔で『もういいか?』と聞いてきた。

「……とにかくそこの二人。舞台から降りてこい。別室で話を聞く。ミューはマリーと一緒にいろ。修了式はここで解散、この後の方針は教室で教官より伝えるので全員退出しろ」


ユーリ様の命令に、生徒会メンバーと教師たちが動き生徒を誘導する。

マリーは私の隣へ来て、盛大なしかめっ面をした。

立ち尽くす二人が動かないので、ユーリ様が護衛に舞台から下ろすよう命じる。

よろよろと降りてきたカート様と目が合ったので、釘を指しておくことにした。



「カート様。濡れ衣を着せる、すなわち冤罪をかけることも、罪状は問えるのですよ?虚偽告訴、名誉毀損、アイリーン嬢の言った『謝ってくださればそれで』と言うのも、脅迫の一種として追加できるかもしれません。あなた方がなかったことにしようとしても、例え謝罪してきたとしても、わたくしはきちんと訴えますから」



◇◇◇◇◇◇◇◇


「以上が、婚約破棄の顛末です」

「そう……話してくれてありがとう」


話し終えた、とスッキリした顔のミューに、お礼を言う事しか出来なかった。

参考に読んだ小説よりも、よっぽど機知に富んでいた気がする。

これは、妃殿下が『語りぐさ』と言っても納得しかない。


「その後別室で聞き取りをした時点で、検証の余地なく彼らの自作自演であることは判明した。カイザック嬢が主張した『階段から落ちた』も、落下事態事実ではなかった」

ユーリウス様がその後の話を付け加えてくれた。

それはそうだろう。

「騎士団に通報することだけは勘弁してほしい、と泣き付かれてな。ミューの意見を聞きに言ったら、マリーと楽しげに談笑を……」

「久しぶりでしたからねー」

「一年間、学園外で会うこともそんなになかったから、話すことが盛り沢山でしたの。初めは関係を隠してたことに恨み言を伝えたのですけど、ユーリ様が来る頃には学園話で盛り上がってましたわね」

楽しげな二人は、似たような笑顔だ。

「結局、通報したの?」

「しませんでした。実害はなかったですし、子どもの妄想ってことで厳重注意です。親ごと」

「親ごと……じゃあ、それで婚約破棄に?」

「それもしませんでした」


は?


「……婚約破棄しなかったの?これだけ騒いでおいて?」

信じられない目を向けてしまったが、これまたミューには堪えない。


「だって、これだけ騒いでマリーたちとの繋がりを大暴露したんですよ?婚約破棄したら、申込みが殺到するじゃないですか。めんどくさい」


しれっと言われるけど、全くわからない。


「え、じゃあお咎めなし?」

「まさか。思いっ切り咎めましたとも。親子でわざわざグリフィス領までやってきて、うちの応接室で土下座です。ご当主は若干哀れに思いましたが、両親が動じてないので凄いな、と感心しました」

「強メンタルなのよね、おじさまたちは」

「それなのに破棄しなかったの……?」

「その場では、です。婚約の果てに結婚とか冗談じゃないですけど、それでも申込み避けに期限付きの継続で手を打ちました。事業の話とは別にして」

「期限付き……」

「これだけ盛大なやらかし、しかも学園の全校生徒の前です。この婚約が成し得ないことは各家に通達されたも同然ですから、私が婚約者を同伴せずとも疑われるようなことはありません。それでいて、申込みには『婚約してますので』と断れる、便利な契約にしました」


晴れやかな顔で言い切られる。

拘りのなさの極地だな……。


「おかげさまで、煩わされることなく学園を過ごせました。その快適さでやらかしをチャラにして、卒業半年前に解消にして。その直後にルシウス様と婚約せねばならぬ事情が発生したんですねー」


あっけらかんと言われ、タイミングの良さに感謝した。

「ちょっとでもタイミングがズレてたら、婚約出来なかったか他の人に申し込まれてたかもしれないんだね……」

「そうですよ。だから、ルシウス様との婚約は運命的なんです」

ニコッと微笑むミューが可愛い。

早く家に帰って愛でたい……。

思惑を読まれたかのように、咳払いが二つした。


「まあ、トライブ伯爵令息もその後振る舞いを見直して大人しくなったし。元々首席を取れるような能力はあったから、どうにか挽回はしていたな。後継からは外されたし、自分の評判が悪いことが居たたまれなくて地方の役人になったが」

「廃嫡されるよりはマシですわ。支援は受けられてるようですし」

「カイザック嬢とは復縁しなかったがな」

「それは……」

真実の愛、敗れる。

「子どもの頃の特大な黒歴史を発生させた共犯者ですもの。彼女の姿を見ただけで、羞恥心で死ねますわよお互いに」

「そうですね……」

羞恥心、と言えば自分もそうだけど。

それを上回る思い出作りに奮闘中だ。


「あと、二年生からはミューが首席をまた取り出しました」

「そうなの?」

「あの時、壇上にいたのがそもそものキッカケですからね。黒歴史を繰り返させてはいけない、と信念を持って」

「本音は?」

「トライブ伯爵令息の成績より上に立って、踏みつけたかった」

「攻撃力があり余ってるよミュー……」

やれば出来たんだな、ホント。

「そして簡潔なる抱負を持って、修了式をさっさと終わらせたかった」

「途中から教室になったんじゃなかった?」

「それでも首席者の抱負語りは残りましたからね。他のクラスや学年では、教官が代弁してました」

「抱負を代弁?それって伝わるの?」

「代弁だろうと自分で語ろうと、『来年度も頑張ります』のみなんで。何も伝わらないです」

「割り切り過ぎだよ……」



数日、モヤモヤしてたミューの元婚約者への葛藤は、話を聞いて嘘のようになくなった。

復縁とか絶対なさそうだし、なんなら顔はまだ覚えてないんじゃないだろうか?と疑ってしまう。

心配もキレイに消えたので、後はミューとマリアベル様の話を聞きつつ、ユーリウス様のキラキラ目線付質問に可能な範囲で答え、本日のお茶会を心底楽しむのだった。



◇◇◇◇◇◇◇


「……あの場では口にしなかったんだけど」

「はい?」

「途中、壁際に立つサリーがなんかすごい目つきになってた……」

「あぁ」

「あれは、その、もしかして……?」

「ルゥとユーリ様の関係性に物語を見出したんですね」

「やっぱり!」

「ユーリ様が憧れ的なことを言ってたので、そっち方向に進展させたんだと思います」

「そっち方向って何?!待って、やっぱり聞きたくない!」

「そうですね、聞かない方がいいですよたぶん。ユーリ様に接する態度を見て、また進展します」

「接する態度?」

「ギクシャクしてたら意識し出した二人、突っぱねてたら素直になれないツンデレ、許容してるなら開き直って肯定する仲です」

「全部関係を持ってるじゃないか!」

「そういう進展です」

「嫌だ……あ、それならあの場にノアがいたら?心苦しいけど、ノアを犠牲にして……」

「それはヤバイです。ルゥとユーリ様とノアの三角関係勃発です」

「なんで?!」

「元々ルゥとノアで話が進んでるのに、そこにユーリ様を投入する形になるので。誰が誰を想い、誰を邪魔者扱いして嫉妬し、果てには三人で円満な関係になります」

「一対一じゃないの?!」

「その辺は無限ですねー」

「どうあっても逃れられない……」

「一応、逃れる方法もありますよ。究極ですが」

「あるの?!」

「男性をやめるんです」

「究極過ぎるっっ!」


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