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第1章 - 第二の人生、初めての感情

人はやり直せるのか、という話ではない。

やり


これは、すべてを手に入れて、すべてを手放した男が、


そして――

たっ

西岡通りの上の空が、少しばかり気まずいことをしていた。


淡い金色が、夕暮れに飲み込まれる直前の、ほんの十一分ほどしか存在しないあの特別な青へと滲んでいく――どんなに無機質なコンクリートでさえ、絵の中の一部のように見せてしまう空だ。カイトは歩道に立ち、手のひらに食い込む買い物袋を提げたまま、口を少し開けて、その空を間抜けみたいに見上げていた。


もう三分くらい、そのままだ。


グレーのスーツを着たサラリーマンが横を通り過ぎ、何を見ているのかと同じ方向に視線をやり、特に何もないことを確認すると、電車で独り言を言っている人間に向ける類いの視線をカイトに投げていった。


カイトは気にしなかった。


――すべてはこんなにも早く変わる。


そう思う自分が、少しだけ恥ずかしかった。十九歳にもなって、夕焼けに心を動かされるなんて。もし過去の自分が今の姿を見たら――七大陸にまたがる資産、四十三の子会社、金融屋たちが口をつぐむほどの純資産を持つ白銀カイトが、借り物のコートを着て、ヒビの入った卵の入った袋を持ちながら、空に感動して立ち尽くしている姿なんて――


いや、たぶん安心するだろう。


彼は歩き出した。


若くして死ぬということについて、誰も教えてくれないことがある。次の人生には、やたらと手続きが多いということだ。


カイトは三十一歳で死んだ。十年間、最大出力で走り続け、整備も休息もなく、平均睡眠時間四時間という生活を続けた体が、ただ静かに限界を迎えただけだった。劇的な最期ではない。遺言も、誰かへの最後の電話もなかった。机に向かい、四半期報告書を開き、未読メッセージが十七件、ぬるくなったコーヒーがキーボードの横にある――そんな状態で、彼の心臓は「もう終わりだ」とでも言うように、効率よく止まった。


後悔はなかった。


ただ、後悔するのが遅すぎたことだけが、少し惜しかった。


目が覚めたのは、ゴミ捨て場だった。


見上げた空は、さっきと同じ淡い青。少し混乱したまま横たわり、どこかで寝落ちしたのかと思った次の瞬間、匂いが襲ってきて、彼は飛び起きた。そして自分の手を見た。細く、若く、拳には擦り傷――十代の手だった。


この体の持ち主は十六歳。孤児。どの制度からもこぼれ落ちた、透明な存在。カイトは、その断片的な記憶を壊れ物のように慎重に受け止めた。


それから、まだ自分のものになりきっていない脚で立ち上がり、ポケットの中のくしゃくしゃの紙幣を見つけ、街へ向かって歩き出した。


――普通の人生が欲しかったんだろう。なら、そこから始めろ。


その後の展開は、振り返ってみればなかなかに滑稽だった。


公衆トイレの清掃員。匂いは強烈だった。三日間、上司にじっと観察された。どうやら、頼まれなくても丁寧に仕事をする十六歳の少年は珍獣扱いらしい。


建設作業員。最初は体がついてこなかったが、鍛えた。毎日通い、学び、気づけば現場の問題解決役になっていた。


十七歳でチームマネージャー。現場の連中の疑いは一週間で消えた。


人事。富裕層同士の醜い争いを見てきた経験が、意外と役に立った。


プライベート・エクイティ。前世の知識が本格的に活きた。資金の流れを読む感覚は健在だった。慎重に、確実に、後から見れば当然としか思えない判断を積み重ねた。


そして十九歳になる前に、すべてをやめた。


失敗したからではない。勝ったからだ。勝利の先にあるのは、廊下の先にまた廊下が続くだけの終わりなき構造だった。


彼のアパートは、カフェから歩いて四十分。


それは意図的だった。歩くのが好きだった。三部屋。朝日が入るキッチン。本棚には漫画と文庫本。自分で修理した古いゲーム機が一台。小さなベランダでは、缶コーヒー片手に何もせず通りを眺めることがある。その「何もしない」を心地よく感じるまでには、少し訓練が必要だった。


カフェの仕事は二週間目で、この人生で一番良い選択だった。


金のためではない。金ならある。どこかで静かに増え続けている。それよりも大事なのは、もう一つのもの――普通という感覚だった。カウンターに立ち、注文を取り、名前を覚え、一日の中でただ存在する。


同僚にはすでに三回、「二週間目にしては落ち着きすぎてて怖い」と言われた。理由は説明できないが、カイトには面白かった。


路地の気配に気づいたのは、音ではなかった。


声はその後だ。最初に感じたのは「静けさの質」。意図的に存在を消そうとする人間が作る、あの独特の空気。


彼は視線を向けた。


三人。十代後半。自分たちは特別で、価値があって、何かを与えられて当然だと育てられた種類の自信。彼らは一人の少女を壁に追い詰めていた。背の高い男が、彼女の頭の横の壁に手をつき、声色を調整している――経験から最適化された、あの「優しさ」を装うトーン。


「なあ、そんな警戒しなくてもいいって。ちょっと付き合えよ」


少女はうつむいていた。長い紫色の髪が顔を隠している。バッグのストラップを強く握りしめ、体は小さく震えていた――大げさではない。必死に隠そうとしている震え。


「わ、私、行くところが……」


「どこ?送ってやるって」


カイトは買い物袋を壁際に置いた。


丁寧に。卵が割れないように。すでに一つはヒビが入っていたが、残りは守るべきだ。


それから歩み寄った。


何も言わない。言葉は必要ない。


最初の男が振り向いた。すぐに終わると確信している顔。身長はカイトより四センチ高い。その余裕は、現実に否定されたことがない人間のものだ。


それは四秒と持たなかった。


カイトは三ヶ月目に道場を見つけた。五十代の女性がやっている場所で、一度見ただけで正規料金を請求してきた――それが気に入った。週三回、朝に通った。規律と静けさと、「技は効くか効かないか、それだけ」という単純な事実が好きだった。


そして――効いた。


一人目は無駄なく倒れた。二人目は愚かな真似をした。三人目は仲間とカイトの表情を見比べ、正しい判断をした。二人を起こし、そのまま去った。


路地に静寂が戻る。


カイトは振り返った。


少女は動いていなかった。


同じ姿勢。髪はそのまま。手はまだバッグを握りしめている。ただ、震えは止まっていた――あるいは、見えないほど抑え込んでいた。そして彼女は、カイトを見ていた。


普通の反応ではない。安堵でもない。状況を計算する目でもない。


ただ、見ている。


言葉をすべて失ったように。


紫の瞳。髪の隙間から半分だけ見える。大きく、静かに開かれている。


カイトは袋を拾い、彼女の方へ戻った。適度な距離で立ち止まる。同年代くらい。数日分の疲れを一日で背負ったような顔。


「もう大丈夫」彼は言った。「あいつらはいない」


沈黙。


「好きなときに行っていい。何もしない」


何かが彼女の表情をかすめた。捉えきれない速さで。


カイトは一瞬通りを見てから、戻す。「行く場所はある?タクシー呼ぶか、近いなら送るけど」少し間を置く。「こんな時間に、この辺で一人で歩くのは――」


言葉を切った。


失敗した。意図と違う。


彼女の頬が一気に赤くなる。


「――あまり安全じゃないって意味」言い直した。


彼女はじっと見ていた。


カイトは待った。待つことには慣れている。


やがて彼女が口を開いた。声はかすれるほど小さい。


「……行くところ、あまりなくて」間。「大丈夫、です」さらに間。「なんとかなります」


バッグはほとんど空。左の靴はかかとに穴。――なんとかなります、は、自分に言い聞かせる言葉だ。


カイトは彼女を見た。細部ではなく、全体を。長い間一人で耐えてきた人間の、精密で疲れた均衡。


ゴミ捨て場。くしゃくしゃの紙幣。自分のものではない脚。


――居場所がないという感覚。


「よかったら」気づけば声は少し柔らかくなっていた。「うち、来る?空いてる部屋がある」袋を持ち直す。「条件はない。何も求めない。とりあえず、次を考えるまで」


彼女は彼を見た。


髪がさらに落ちて、見えるのは半分だけ。紫の片目。頬は耳まで赤い。口は少し開いたまま――この夜に起こり得る展開の中に、この選択肢はなかったのだろう。


長い沈黙。


遠くでコンビニのチャイム。自転車のベル。日常の音が、二人の間を満たす。


彼女は頷かなかった。


首も振らなかった。


ただ見ていた。紫の片目で。新しすぎて名前のない何かを抱えたまま。


カイトは思った。


――これは、予想外だな。


袋の中の卵は、やはり一つ割れている。


今夜はスクランブルエッグを二人分、作ることになりそうだった。


大きな出来事は、たいてい音もなく


派手な運命でも、劇的な奇跡でもなく、


それでも、誰かにとってはそれが境目になる。


これは、そういう瞬間の物語。

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