章ラストカット
夜。
裂土の空は、わずかに霞んでいる。
これまでなら、星は鋭く瞬いていた。
刃のように、冷たく、硬く。
今夜の星は、まだ見える。
だが輪郭が柔らかい。
光の縁が、かすかに滲む。
白が、空に薄く広がっている。
雲ではない。
霧でもない。
だが、乾ききった透明でもない。
地面に目を落とせば、
亀裂は相変わらず走っている。
深く、長く、規則正しく。
裂土は裂土のままだ。
だがその奥。
黒く落ち込む隙間の底に、
わずかな湿りが溜まっている。
水たまりと呼ぶには足りない。
光を映すほどでもない。
ただ、染みのように。
完全ではない。
崩壊でもない。
形は保たれている。
だが、内側の条件が変わりはじめている。
遠くで、風が鳴る。
乾いた音に、
わずかな重さが混じる。
誰も声を上げない夜。
それでも世界は静かに動いている。
侵入とは、破壊ではない。
白は押し潰さなかった。
岩は砕けていない。
定着とは、征服ではない。
霧は旗を立てない。
裂土もまた、膝を折らない。
条件は、重なる。
乾燥の上に湿度が乗り、
湿度の中に乾燥が残る。
拒絶しきれず、
飲み込みきれず。
ただ、共にある。
空を見上げれば、
星はまだそこにある。
だが、ひとつひとつの境界は、
もう以前ほど鋭くはない。
地面の奥で、
目に見えない変化が進む。
裂土は崩れていない。
けれど——
乾燥は、単独ではいられなくなった。




