表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
年輪はまだ柔らかい  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/90

第四幕|リオとの対話

風削崖は、裂土でもっとも風の強い場所だった。


崖の縁は直線的に落ち、

下にはひび割れた大地が広がる。

亀裂は影を深く抱え、

その間を風が走る。


音は削られ、

言葉は薄くなる。


甘い匂いは、ここでは一瞬で消える。


かつてケインの周囲にまとわりついていた微かな甘さも、

崖の上では跡形もない。


残るのは、乾いた呼吸だけだ。


リオは崖の縁に立っている。


風に髪を持ち上げられても、

揺れは大きくない。

乾いた髪は絡まらない。


「来ると思った」


振り返らずに言う。


ケインは少し距離を置いて立つ。


足場は硬い。

砂はすぐに飛ばされる。


彼は欠けた円環を握っている。


風が当たるたび、

角の部分が冷たくなる。


リオが振り向く。


目は細く、

だが曖昧ではない。


「あなたは、丸いまま割るの?」


問いは短い。


風に削られない強さを持っている。


ケインは答えない。


丸いまま、割る。


その言葉は矛盾しているようで、

しかし核心を射ている。


丸さを保ちながら、壊れるのか。

壊れることを前提に、丸くするのか。


沈黙が風に流される。


リオは続ける。


「丸くしないなら、最初からここにいる人と同じ」


核心。


彼女の声には責めがない。

ただ、確認がある。


ここにいる者は、

最初から角を残す。


削らない。

壊さない。

壊れる形を選ばない。


ケインは乾燥を選んだ。


霧を離れ、

甘さが効かない土地に立った。


だがそれは、

乾燥を理想にしたからではない。


彼は目を閉じる。


霧の中で曖昧になっていた輪郭。

甘さが拡散し、境界が溶けていた日々。


ここでは、すべてが明確だ。


だが明確さは、目的ではない。


彼はまだ円を捨てていない。


欠けても、

握り続けている。


「俺は」


風が言葉を奪いかける。


「丸いまま、割れた」


それが事実だ。


「最初から角にはしなかった」


リオは彼を見つめる。


「どうして?」


問いは軽い。

だが深い。


ケインは崖の下を見る。


亀裂の連なり。

直線の影。

安定した乾燥。


「丸さを知っているからだ」


短い答え。


知らなければ、選ばない。

知っているから、手放せない。


リオはしばらく黙る。


風が二人の間を通り抜ける。


甘い匂いは、やはり残らない。


「ここは、丸いものが長くもたない」


彼女は静かに言う。


「それでも持つの?」


ケインは欠けた円を見下ろす。


角は鋭い。

だが、円はまだ円だ。


「持てるところまで」


それは決意ではない。

宣言でもない。


ただ、今の状態。


リオはわずかに笑う。


嘲りではない。

理解でもない。


「じゃあ、あなたはまだ途中なんだ」


途中。


乾燥にも、

湿度にも、

完全には属さない。


風削崖の上で、

境界ははっきりしている。


だがケイン自身は、

まだ境界の中にいない。


乾燥を選んだ。


しかし乾燥を目的にはしていない。


円を否定していない。


割れを経ても、

丸さを持ち続けている。


風が強く吹く。


円環が、かすかに震える。


落ちない。


だが、安定もしない。


リオは崖から離れる。


「落とさないでね」


振り返らずに言う。


「ここでは、落ちたら戻らないから」


ケインは一人、崖の上に残る。


乾いた風の中で、

彼はまだ円を握っている。


捨てていない。


まだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ