③拾わないという選択
レティシアは、ケインの靴先に軽く触れた。
ころ、と音がして、わずかに揺れる。
手を伸ばせば届く距離。
拾うのは簡単だ。
両手で包める。
脇に抱えられる。
城へ戻すこともできる。
拾えば、保護になる。
転がらなくて済む。
傷もつかない。
拾えば、所有になる。
彼女は彼の腕の中で安定し、
彼の歩幅に従う。
拾えば、関係が再固定される。
変化の責任は、
管理という形で収束する。
円は、再び置かれる。
棚の上か、玉座の横か、
あるいは彼の部屋。
だが、ケインは拾わない。
指は動かない。
視線も落とさない。
ただ立っている。
それだけで、選択は終わる。
風が吹く。
レティシアは再び転がる。
自分の曲率に従って。
円は自律する。
誰の手も借りず、
自分の形だけで移動する。
直線は離脱する。
交差せず、
接続せず、
別の方向へ伸びる。
ケインは言う。
「俺は乾燥を探す」
宣言というより、確認に近い。
乾燥は救済ではない。
甘さを打ち消す奇跡でもない。
ただの未知の環境。
円が転がれない場所。
摩擦が強すぎるか、
地面が粗すぎるか、
あるいは空気が軽すぎる場所。
そこに何があるのか、彼は知らない。
知っているのは、ここが湿っていることだけだ。
レティシアは、境界をなぞりながら、
内と外の間を往復する。
止まれない。
彼は歩き出す。
拾わなかったという事実だけが、
二人のあいだに残る。
それは拒絶ではない。
ただ、形を保ったまま
離れるという選択だった。




