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年輪はまだ柔らかい  作者: 南蛇井


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⑤異変 ― レティシアの変質

レティシアの目が、わずかに細くなる。


「……あら」


声は小さい。

驚きではない。


確認だ。


舌の上で何かを測り、

温度と質量を秤にかけ、

誤差を検めるような響き。


そして、変化は始まる。


急がない。


音も立てない。


まず、髪。


肩に流れていた金糸の束が、

重力の線を外れる。


毛先がわずかに持ち上がり、

弧を描く。


一本一本が、

中心を意識するように、

緩やかな円弧をつくる。


次に、ドレス。


腰元に寄っていた皺がほどけ、

布は外へ外へと均等に広がる。


放射状。


規則正しい線が、

見えない中心から伸びる。


装飾の刺繍までもが、

同心円の意匠へと揃っていく。


指先が滑らかに閉じる。


関節の角度がわずかに調整され、

直線が消える。


触れれば吸い付くような、

途切れのない曲線。


背筋が、ほんのわずかに湾曲する。


折れるのではない。

崩れるのでもない。


全身が、

中心を抱えるための姿勢へと変わる。


痛みはない。


息は乱れない。


苦悶もない。


しっとり、ではない。


それよりも密度が高い。


均一で、無駄がなく、

光を完璧に受け止める質感。


完成。


彼女の輪郭が、ゆっくりと閉じる。


肩と裾がつながる。

髪と指先が曲線を補強する。


中心に、静かな空洞が生まれる。


それは揺れない。

歪まない。


見事な円。


王子の環よりも均整が取れている。


外周は滑らかで、

層の厚みは均一。


穴の直径までもが、美しい。


誤差がない。


過不足がない。


甘さが過剰にならない。


悔しいほどに、完璧だった。


甘い匂いが、ひときわ澄む。


ケインだけが、直線のまま立っている。


円が、完成した。

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