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年輪はまだ柔らかい  作者: 南蛇井


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18/90

③概念の揺れ ― “丸くなる”とは何か

「あなたも、丸くなればいいのに」


その言葉は、甘い匂いよりもゆっくりと広がった。


ケインは動かない。


剣の柄に触れることもなく、

否定の言葉を返すこともなく、

ただ立ったまま考える。


丸くなるとは、何だ。


角が取れることか。


衝突を避け、

摩擦を減らし、

誰の手にもなじむ形になることか。


攻撃性が消えることか。


刃の鋭さを失い、

敵も味方も同じ温度で受け入れることか。


それとも。


中心に穴があくことか。


空洞を抱えたまま、

外側だけを整えることか。


何かを失って、環になることか。


彼の視線は、玉座に立てかけられた円環へ向かう。


王子は美しい。


艶を保ち、層は均一で、

重ささえも均衡している。


だが中央は空いている。


そこには何もない。


初めて、空洞に意味が生まれる。


丸さは、調和か。


争いを終わらせる形。

どこから触れても同じ感触。


丸さは、完成か。


始まりも終わりもなく、

継ぎ目もない、閉じた美。


丸さは、欠落か。


中心を失い、

通り抜ける穴だけを残した姿。


ケインは乾いている。


甘さを吸わない。

層を持たない。

艶に溶けない。


だからこそ、疑う。


均一であることを。

整いすぎていることを。


丸いという言葉の、やわらかさを。


円は衝突しない。

だが、刺さらない。


円は転がる。

だが、立ち止まれない。


彼は自分の影を見る。


石床に落ちたそれは、直線のままだ。


角は残っている。

中心は埋まっている。


空洞はない。


丸くなるとは、

この直線を捨てることか。


それとも、中心を差し出すことか。


甘い匂いの中で、

ケインだけが乾いたまま、

丸さの意味を測っている。

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