250:みんな子供。
サクラちゃんが光り、父さんが光り……しばらくして光が収まった。
どう、なったんだろう?
「と、父さん……聞こえてる? な、何か、体に変化は?」
訊ねてみたが、反応がない。
いや。
瞼が、動いた。
いやいや。瞼ぐらい誰だって動くさ。
あ、こっち見た。
うん。瞼を動かせるんだ。目だって動かせるさ。
さっきが眼球すら動いていなかったけど、たまたまだ。たまたま。
でも……父さんが、笑っているように見える。
あ、れ? おかしいな。視界がぼやけて……くそ。なんか見難いぞ。
「……、……」
「え、なんだって? マスクじゃま? あぁ、外していいのかな」
「ぁ……あな、た……」
「これで、どう。父さん」
酸素マスクを少しだけずらす。何かあればすぐまた装着できるよう、手を添えておく。
その手を、父さんの手が掴む。
そして。
「おかえり、悟」
父さんは、そう言った。
……。
なんだ。いつもの父さんじゃないか。
「ただいま」
そう応えると、父さんが笑う。
それからベッドの上にいるサクラちゃんを撫で「ありがとう」と伝えた。
全身に麻痺がいきわたっていたんじゃ、なかったのか。
いや。スキルか。そうだスキルだ。サクラちゃんのスキルで父さんは、動けるようになったんだ。
「はは、なんだ悟。その顔は」
「え、俺の顔?」
「まっ。……はい、悟くん。これ使って」
そう言ってサクラちゃんは、いちご模様のハンカチを差し出した。
ハンカチで、どうしろと?
「もしかして悟ぅ、君、気付いてないのかい?」
「気付いてない? 何の話だ、ブライト」
「気付いてないみたいねぇ」
「スノゥまで。いったいなんだよ」
「わかっとらんばい、悟」
いや、だから……え、なんでサクラちゃんとヨーコさん、ふたりしてスマホを取りだして……なんで俺を撮るんだ?
「「はい」」
「え?」
サクラちゃんは数秒の動画を、ヨーコさんが写真を、それぞれのスマホの画面に出して俺に見せる。
そこには……そこには……。
「うわあぁぁっ、目から汁が!?」
「「涙よ!!」」
「えぇ!? な、涙? え?」
これは、涙?
汁じゃなく?
涙……じゃあ、変な病気でもないってことで安心していいのか。
……ん?
なみ、だ?
「涙あぁぁぁぁ!? え、俺、泣いてる? なんで?」
「そんなこと、私に聞かないでよ」
「嬉しいけん、泣いとるんやろ?」
「そうそう。嬉し泣きだぜ、悟」
……嬉しいから、泣く。
嬉し泣き。
そういうのがあるのは知ってる。だけど、ダンジョンベビーの俺が泣くなんて、そんなこと……思いもしなかった。
「はっはっは。悟もまだまだ子供だなぁ」
「……じゃあ、父さんも子供ってことだな」
「ん?」
「ふふ。あなたも泣いてるわよ」
「あっ。いや、これは、もらい泣きだからっ」
つまり泣いてるってことじゃないか。
あ……。
「よがっだ。よがっだな、賢ざん」
「ちょっと! あたしの頭の上で泣くんじゃないわよっ」
「ウオオォォン。ウォォォン」
「よかったですねぇ、よかったです、三石くん」
はは。みんなまだまだ子供なんだな。
父さんの麻痺は、ダンジョン由来のもので、年々、その効果は薄れていた。
効果が完全に切れる前、最後の悪あがきのように全身を犯す……が、それを過ぎれば回復に向かう。
「ということにするんですね」
「あぁ、そうだ。ダンジョン由来だってのは、まぁ合ってんだ。結局、医者の診断でも正しい答えが出ていないからな。世界中他を探しても、賢さんみたいな症例はない」
「世間を騒がせないために、これが最善でしょう。ドクター、よろしいでしょうか?」
「えぇ。三石さんの麻痺は、我々も長年見てきて事故による患者と全く違っていたので、ダンジョンが原因だとは思っていたからね」
ダンジョンは未だにわからないことだらけだ。
ダンジョンモンスターによる状態異常は、スキルやダンジョン産の薬でしか治せないなんてものはいくらでもある。
父さんの麻痺も、その類のものだったみたいだ。
幸か不幸か、配信の影響で俺の父が下半身不随だってことは世間にも知られている。
今のところ、突撃してくる人はいないけど、父さんが健康になったことはいずれ知られるだろう。
その時に、サクラちゃんのスキルのことは伏せておかなければならない。
父さんしか治せないスキルでも、すがってくる人はいるだろうからね。
そのスキルをどこで手に入れたのか、それを探ろうとする人も出てくるだろう。
あのダンジョンのことは知られたくない。
無意味な犠牲者を増やさないために。
この件を知る人全員が口裏を合わせるという契約を交わす。
それには「契約者」のスキルを持つ、ATORAの職員が立ち会った。
契約を破ろうとすると、体に痛みが走るという、そういうスキル効果だ。
かなり痛いらしい。
そんなこんなで、念のためいろいろ検査もして三日後。
「やっと帰ってきたぞ~」
「おかえり、父さん」
「おかえり、悟。さぁ、今夜は飲むぞぉー!」
「お、賢さん付き合うぜ」
「朝まで飲み明かそう、誠二さん」
父さんは半年ぶり。俺は帰国してから一応家に戻ってきてはいたけど、全然落ち着けずに帰って来たという実感がなかった。
でも今、戻って来たんだなってようやく思えた気がする。
富田さんは、残念ながら東北支部から「早く戻って来い」というお達しが届いて昨日、新幹線で帰ってしまった。
今度改めてちゃんとお礼をしないとな。
キコとハリーは本部ビル上層の「自分たちの家」に戻っていった。現場復帰はまだで、ずっとゴロゴロしているらしい。
俺たちは……。
「うえぇぇー、お酒くさいばい」
「もう、明日の朝は二日酔い確定ねぇ」
「いひゃぁ、サクラちゃん、ん? サクラちゃんが一匹ぃ、二匹ぃ」
「サクラぁ、お前、いつから分身スキルを手に入れたぁ?」
「やだやだやだわ。酔っぱらいの相手なんて嫌よぉ。えぇーい! 三石悟の父親の体を治す!」
ん? そこでスキルって、何の効果が?
「お? あれ、酔いが冷めた……おぉ! もしかしてサクラちゃんのスキルは、二日酔いにも効果が!? よし、飲もう!!」
「ちょっとあなたっ」
「これは検証なんだよ、遥さん。大事だろう、検証。さぁ、飲むぞぉ」
父さん……母さんが本気で怒る前に止めないと、俺、知らないよ。
翌日。父さんは二日酔いになった。
でもサクラちやんはスキルを使わず、俺たちは久しぶりに捜索隊本部へと出社するのだった。
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長かった「お父さん治す編」終わりです。
次のお話ネタをまったく考えておらず、なんだったら完結させる気でもいたため
ちょっと設定を考えてから次のお話を考える・・・という作業に
入ろうと思います。
暫くお待ちくださいm(__)m




