Xデイ作戦
「俺がホワイトハッカー、つまり犯罪者やないほうのハッカーやったら……」
サイバー犯罪組織を倒す方法は岸が考えた。犯罪の内容をくわしく知っているのは、岸だからだ。
「正常なプログラムに書き換えるやろうな。出来るだけ多くの地点を、いっせいに。Xデイ作戦や」
「その必要はあるの?」
とシュウちゃんが聞いた。
「今のサイバー攻撃の怖い所は、個人情報を盗むウイルスがしかけられてることや。同時にプログラムを書き換えることによって、そのウイルスをふせぐんや。それに、サイバー犯罪組織に立ち向かう者がたくさんおるて、知らせることも出来るやろ」
「攻撃されて、制御不可能なんじゃないの? そんなこと出来るの?」
と、あたしは言った。
「制御不可能やないで。ネコネコ動画なんか、毎月、更新しとるやろ?」
「あ……」
サイバー攻撃を受けているネコネコ動画は、毎月「壁紙プレゼント」が更新されていた。月がわりで人気イラストレーターの壁紙がダウンロード出来るようになっているのだ。
「バックアップそのままやったら、また攻撃されてまう。せやから、セキュリティの高いプログラムを作りなおしてるんや」
ネコネコ動画の復旧が遅いのは、そういう理由だったのね……。
「あと何か月か……そうやな、3月ぐらいをXデイにして、いっせいに反撃する。プログラムを変えるんや」
「3月って……間に合うの?」
あたしが聞くと岸は答えた。
「もとになるプログラムを俺が作る。乙女とエリーと美紅は、関係者ぽい人を探してくれ。俺が直接、連絡する」
「問い合わせ窓口じゃダメなの?」
と、あたしは岸に聞いた。
「あかへん、あかへん。とにかく表に出さへんようにしてるやろうから。個人的に……出来れば責任のある人と連絡を取りたい」
あたしは思い当たる所があった。美紅のファンクラブだ。美紅のファンクラブは無料で入ることが出来る。そのかわりマーケティングにいかすために、年令・性別・職業などの個人情報を、ファンクラブメンバーには入力してもらっていた。
あたしは美紅に言った。
「美紅のファンクラブから連絡したらどうかな? 職業で探せるでしょう? 世界中にファンクラブメンバーがいるし」
美紅は苦しそうに言った。
「ファンのためのファンクラブなんじゃ……これは……裏切り行為じゃ」
でも、美紅は机に手をついて立ち上がり、きっぱりと言った。
「ムラサキなら、ここで迷わない! ムラサキなら、悪を倒すんじゃ!」
美紅はファンクラブの名簿から連絡を取る相手を探した。あたしとエリーはそれを手伝った。
岸とシュウちゃんは配るためのプログラムを作っていた。
シュウちゃんは岸が作ったプログラムを見ながら
「ここと、ここと、ここがエラーになる。ここと、ここは、もっと改良できるから」
と意見を厳しく言っていた。
「寝返るブラックハッカーも出てきたで」
岸が、うれしそうに言った。
「皆、最後は捕まるんや。でも、やれることは、やりたい」
文化祭の出し物は岸が作ったゲームですませた。
あたしたちは連絡を取るべき人を探すのに必死だった。
Xデイが決まった。3月28日20時。
岸は
「何があっても俺を信じてくれ」
と言った。
信じるしかない。ほかに信じる人がいないのだから。
あたしはXデイが近づくのが怖かった。