9.天使とティータイム
「どうぞ、ここにお座りください」
「ありがとう。屋内すずしー、助かるわぁ」
「今日は少し暑いですもんね。まだ春だというのに」
ここは宇多津さんの働くカフェ。朝にまたもや周囲に誤解を招く自体が発生し、クラスメイトに完全なクズ男認定をされた俺は天使様の救いにより、幸せなひとときを提供いただけることとなった。そう、宇多津さんとの放課後カフェ。天使とティータイムである。
これもうほぼデートだよな…「男女二人で出かけることはデートなんだから、ちゃんと意識しなさいよねっバカ、」ってはじラブ(ギャルゲー)のあまねちゃんが言ってたもん!気になるだろうから言っておくけどあまねちゃんには振られた。え、ことごとく全部振られることなんてあんのって思いましたけど。俺は振られるために6000円払ったのか?(trueエンドが見つけ出せなくてあきらめただけです)まぁ、可愛かったし、全年齢ギリギリなエッティCGも興奮ものだったのでオッケーです。
「モンブランです。これもうちのイチオシなんです。ぜひ食べてみてください」
「これまたおいしそうだな。いただきます」
「ふふっ、ゆっくり召し上がってください」
モンブランは春という季節にピッタリな桜色のものであった。桜風味の程よい甘さであり、続けて食べても甘ったるさを感じることがなかった。
「すごく美味しい、まじ止まらん」
「良かったです。このケーキももうすぐ終わりかなぁ。桜の時期はとても好評の一品だったんです」
今は春といっても、5月が迫った桜が散り終わった時期。よーし、来年もこの味を食べれるくらいにハードユーザーになっちゃうぞ。おい誰だよ今ストーカーって言ったやつ。否定はできないけど。
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「こうやって、ゆっくり二人で話すのははじめて…ですよね…」
「あー、そうだよな。いつもは唯愛とか誰かしらいるし」
「なんだか…緊張…しちゃいます…うぅ」
少しもじもじとして、顔を赤らめ視線を外す宇多津さん。
おい、その顔が可愛いのは当たり前だが、「うぅ」って声が可愛すぎて俺の緊張全部飛んで行ったんだけど。これが宇多津さんの鳴き声か。録音しようかな。こんなことを冷静な顔で考えている俺が一番恐ろしい。そりゃあまねちゃんに振られるわけだ。
「そんな緊張だなんて、知り合いなだけだし普通に話そうよ」
「知り合い、ですか…私はできたら、綾瀬くんともっと、仲良くなりたいなぁ、なんて思ってて」
「アゴラゴぼぉ!!!!」
「…綾瀬くん?」
「ごめん気にしないで、ちょっと母国語が出ただけ」
あぶねー。突然の萌雷で心臓発作起きたのがバレるところだった。華麗なカバースキルを持ってて良かったぜ。(できてない)
でも嬉しすぎることでしかない。宇多津さんの中で俺は悪いイメージには映っていないことはわかっていたけど、それ以上の関係を望んでいたなんて。でも、男女の友情を築くことはそう簡単ではない。ここで、仲良くという距離感を間違えるとマイナスな印象を与えかねない。少しずつ仲を育む方法とは、、、
「じゃあ、下の名前で呼ぶとかどうかな?」
「…へ?」
間違えたァァァァァァァァ!確実に間違えたァァァァァァァァ!あれじゃん、中学男子が好きな女の子をあからさまに下の名前で呼び捨てするみたいな、何年か後にふと思い出して自分の頭を殴りたくなるやつぅぅぅ!急いで訂正しなければ、宇多津さんとの関係終わっちゃうよおおおおおお
「いいと思います!形から入ることも大切だと思いますし!」
「そ、そう言ってくれるならありがたい…」
まさか賛成の意見を返してくれるとは…。宇多津さんの真剣なまなざし、心の底から肯定的であることがわかる。
「それじゃあ、言いますね、、け、け…やっぱり先に綾瀬くんからお願いします、こ、心の準備が」
くううううきゃっわいいいい!天使が俺の名前を頑張って言おうとしてる状況ってこれほどに心打たれるものなのか。もうむしろ名前「け」でいいと思うレベル。「おはようございます!けくん!」宇多津さんなら全然許せる。成瀬が言うと苛立ちで息の根を止めてしまいそうになるが。
んんんん?ちょっと待って俺が宇多津さんの下の名前を言うのか?え?大丈夫?法律に違反しない?名前呼んだ瞬間に周りの人が110番するかもじゃん?…でも、宇多津さんの望みなら、ごくり…
「る、るるか…さん?」
「!、だめです」
やっぱりダメですよねー。俺みたいなやつが名前呼びはまだ早かっ
「…さんはだめです、呼び捨て」
え、そっちですか予想外。
「る、るるか」
「はい、圭太くん!」
この日一番の笑顔で俺の名前を呼んだ琉瑠夏。前よりも自分の存在というものが少しだけ琉瑠夏の心の中に入り込めた気がした。
「って、そっちはくんづけなんかい!」
「その…呼び捨ては唯愛ちゃんしてて、けいくんは美月が言ってるから…圭太くんって呼ぶのは、私だけかなって思って、圭太くんは私だけが呼べたらいいなって」
「うっ」
バタリ。なんかもう…天使の域超えて大天使かも。
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「圭太くん、か…まだ慣れない…かも」
彼が帰った後、もう一度その名前をつぶやいてみる。やはり彼がいるかは関係なく、その名前を言うだけで気恥ずかしさに襲われる。でも、これでより近しい存在となれた実感を得ることができたし、それが形に残るものとなった。
欲張りなのかもしれないが、今よりも君の近くに行きたいと感じた。あの日。出会った日、君に声をかけて良かった。余計なことしたかもって後悔していた部分もあったけれど、そんな時また君と出会って、これから君の全部を知って、受け止めたらいいなって。
「お、琉瑠夏!もうその少年は帰ったのか?」
「オーナー!場所お借りさせていただいて、ありがとうございます」
「いいんだよ、琉瑠夏の頼みだ。ちなみにあの少年の名はなんて言うんだ?」
「えっと、綾瀬さんです」
「ほう、綾瀬か…綾瀬というのか」
彼の名前を繰り返しながらキッチンへと向かうオーナー。いったい、どうしたんだろう。オーナーの考え事は読めない。でもきっと、良い変化が起こると感じた。