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10.唯愛と圭太

 私が圭太と出会ったのは、中学2年生の春。同じクラスで図書委員になったのがきっかけだった。かといっても、委員になりたいと手を挙げたわけではなく、お互いに男女別でじゃんけん負けだったという、それだけの理由。綾瀬圭太。話したことはなかったが、その存在は知っていた。自分から誰かに絡むタイプでもなく、話しかけられた時には周りのノリに合わせてるし、ふざけたことも言う。周りから見ると明るいかつ普遍的な子だという印象だ。図書委員の仕事が始まってからも、彼は変わらず明るく接してくれた。今度ファーストフード店でこんなの出るんだけど知ってる?とか、あのアニメ映画見た?とか。放課後、誰も来ない図書室で業務をこなしながら、そんな他愛のない話をする関係が続いた。

 しかし、私は気づいた。時々、彼は明るさとは真逆の顔をする。いつも明るい彼がなぜ「なにもない」といった顔をするのか。私は心配はしたけれど、同時に嬉しくも思った。性格が悪いと言われるかもしれないけれど。


「あんな彼は私しか知らないんだ」


 そんなことを思ってしまった。明るい彼の裏側、いつか私がそれを変えることができるかもしれない。だって、私しかそれを知らないから。


「ねぇ圭太!連絡先交換しよーよ」


「え?なんで?」


「理由がなきゃダメなの?」


「いや、ダメ」


「なんでダメなの!ほら、QR出して」


ここから、私たちの”いつもの”関係の始まりだった。


*******************************************


 図書委員の前期が終わり、私と圭太は任期満了となった。いつも2人で過ごしていた時間は心地よく、お互いに容赦しない言動も言うようになり、その度に笑ったりした。そんな時間がもう来ないことに寂しさを覚えていた。しかし、奇跡といえばいいのかわからないが、二学期の席替えで隣同士となった。いつもの放課後のやりとりが毎日の日常となった。おはようから始まり、また明日というまで彼との些細な会話は保証されていた。そんな中、私は不安な悩みがあった。


「よっ、唯愛」


「…帰ってなかったんですか」


 また今日かと思う。私は一人の先輩に言い寄られる?というか、アプローチを受けていた。私自身、この人にまったく興味がなかった。そのオーラを全面に出しているのにも関わらず、彼はそれに気づいていないらしい。自分はモテているとでも思っているのだろうか。そして、一番むかつくことは、誰もいない放課後を狙って教室に来て、圭太の席に座ること。図書委員で放課後に残ることに慣れてしまったため、教室に一人残って課題を進めたりすることが多くなっていた。その時間が好きであるが、この人のせいで嫌いになりそうだ。


「なぁなぁ、この後どっか行こうよ」


「嫌です」


 この先輩は客観的に種類別するとチャラいと言われるカテゴリーだ。だから、少し怖かった。このまま力づくで連れて行かれたらどうしよう、この誰もいない教室でなにかされたら…この不安に襲われていることがバレないように、強気で自分を偽っていた。しかし、今日は良くないことが起きてしまった。


「なあ、おまえちょっと調子乗りすぎじゃね?」


「別にのってないですけど」


「せっかく誘ってんのによ。素直になりなって」


「ちょっと触わんないで!」


 先輩は、私の腕を掴もうと手を伸ばしてきた。その手を払ったのにも関わらず、その力は及ばず掴まれてしまった。


「へぇ、細い腕だな。それに嫌がる顔も、ちょっと可愛いな」


「(うっ、気持ち悪い…)」


 その偽りの仮面はもう限界値を迎えていた。ただただ、涙が止まらなくなりそうだった。もう、私…



「そこ、俺の席なんですけど」



 教室の入り口から聞き覚えのある声が聞こえた。そう、綾瀬圭太だった。


「俺の席なんで、どいてもらえますか?」


「はぁ、誰なんだよおまえ」


「この人の親友です。それにめっちゃ嫌がってますし。その意味、わかりますよね?」


「ちっ、もういい。この女には飽き飽きしてたしな」


「そうすか」


 怒りをにじませながら、そそくさと教室から先輩は出ていった。冷静な中に怒りをにじませたような顔をしていた彼。ある日、図書室で見たあの顔を思い出した。


「唯愛、大丈夫か?」


「う、うん」


 いつもと変わらない声色になり、急に安心感が胸を埋める。彼が助けてくれた、その事実で嬉しくなった。


「圭太、助けてくれてありが」


「あったー!まじ忘れてたわ!これを楽しみに生きてたのになんで忘れたんだろ」


 急に机から取り出したあるものを掲げる圭太。掲げたものにはこう書かれていた。「はじラブ」と。


「あんた、それ」


「あぁー、これははじラブ。今日出たばっかなんだよなーめっちゃ楽しみにしてて。シナリオも最高だろうし、それにこのキャラデザ…ティザーみたときからたまらんって思っててさ。机に忘れちゃってて、ごめんね~あまねちゃん~」


 あ、あれ?なんかちがうな?思ってたのと…


「その、先輩に邪魔って言ったのは?」


「早くはじラブを回収してプレイしたかったから。マジ勝手に人の席占領するなって感じよな~」


「で、今日学校昼から来たのは?」


「…店で最速ゲットしたかったのでさぼりました許してください」


 まじ、なんなんだろうこいつは。勝手に私のためだと思って心奪われていたら、ぅぅ、恥ずかしすぎる…なんなんだよぉ…


「あんたってやつはぁぁ!!!!」


「痛いって!唯愛さァァァァァァァァ!」


 気づくと手が出ていた。うん、これは不可抗力ってやつでしょ。


******************************************


「人のこと殴れるんだったらさっきのなんとかなっただろ」


「それと圭太は違うからできないんじゃん。あんたは選ばれたのよ感謝しなさいね」


「殴られる権利に選ばれて嬉しいやついるのか」


 圭太としばらく話しているとすっかり気が晴れていた。先輩は私のことあきらめただろうし、もう話すことはないと思う。


「唯愛はさ、素直でいろよ。変に偽るからあーゆーやつが寄ってくるんじゃないの。不安に思ってることがあったんなら俺にでも相談しろ。」


「わ、わかってるわよ」


 圭太だって素直じゃないくせに。自分ができてないことを人に言うなっての。でも、嬉しかった。こうなったら、私も圭太の素直なありのままを引き出してやるんだから。もうあんな顔にならないように、私が変えてやる。


 そう強く思った。




 余談にはなるが、散々いじってくるゆるふわハーフツインの髪。はじラブのあまねちゃんに寄せたことを圭太は気付いていない。控えめに許されない。


 







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