襲撃(4)
突然、戦闘地域に、黒崎の嬉しそうな声が響いた。
「桃源郷の諸君。お待たせした。お前等だけが食い物に恵まれてるって、超不公平な状態を正すための正義の戦いだ。降参するなら、今のうちだ。命だけは、助けてやる」
「生憎、食料は、俺達の分しかねえんだ。手前ぇ等にくれてやる分はねえ!」
陽一が叫んだ。
「お前等、銃刀法違反だぞ!ライフルなんか使いやがって!」
「免許があるんだ。手前等がハジキなんか持ち出すから、正当防衛ってもんだ」
陽一が叫んだ時だった。調子っぱずれのエンジン音が響いた。
何の音だ?片山が首を傾げた時、信じられないものを見た。
季節はずれの除雪車だった。
戦車の代わりに黒崎が用意したのだ。除雪車は、まきびしを外へ外へと掻き出して、道を作って進んでいる。
ヤバイ!車の一団がこっちへ来る。
全部で10台あったのだ。除雪車以外まだ6台もある。
片山の顔が引きつった時、爆発音が上がった。
先頭を走っていた除雪車が爆発したのだ。
「地雷……ですか?」
側にいた水野氏に訊いた。
「そうだ。後、6台。地雷は、後四つだ。さっき、埋めた」
「舗装道路に埋めますか?普通」
「事前に道路に穴開けて、応急補修してあったんだ。で、さっき、セッセと補修取って、地雷埋めて、上から隠したって寸法だ」
水野氏が楽しそうに説明した。
地雷なんて、そんなもん、どっから持って来たんだ?」
片山が絶句した。
黒崎達はパニックだ。
赤い軽四は、確かにこの道を走って行ったのだ。あの時は何もなかった。普通に走り抜けたのだ。黒崎達が通行しようとすると、地雷が爆発するのだ。
黒崎は、やけくそだ。とりあえず、まきびしは除けたのだ。
「続け!」と、走り出す。
たちまち爆発音が続いた。
後に続けってことで、地雷に続けって意味じゃないのに。あいつ等、やっぱり馬鹿だ。と、片山は思った。
除雪車に続いて4台の車が爆発した。乗っていた者は、怪我した者、命からがら車から逃げ出した者、様々だ。
「後2台」
水野氏が、車の数を数える。
最後の2台は軽トラックと乗用車だった。軽トラックは荷台に男達を積んでいた。
男達の顔が恐怖で引きつっている。この車も地雷を踏むかも知れないのだ。
炎上する車をよけて進むと、突然パンクした。
パンクで済んだのだ。乗っていた男達がホッとするのが、分かった。
まきびしが残っていたのだろうか?タイヤを覗き込むと、目の前を何かが通り過ぎた。
「ライフルだ……」
……忘れていた。向こうにはライフルがあったのだ。
男達が真っ青になるのと、陽一が叫ぶのが同時だった。
「今だ!全員、攻撃開始!」
水野氏が機械のスイッチを入れると、ホースから水ヨーヨーが発射した。すごい勢いで、次から次へと飛び出す。
笹岡と水野氏が、ホースの先を黒崎達に向けると、水ヨーヨーが体中に当たる。ものすごく痛い。そうして、体に当たると破裂して、水浸しになるのだ。
車は使えない。最後の乗用車もタイヤを打ち抜かれて走行不能になった。全部、パンクか爆発したのだ。
上空でバラバラ音がして、ドローンが何かの包みをぶら下げている。健二が操縦しているのだ。操作してドローンから荷物を落とす。バラバラと爆弾のように泥団子が落ちた。
片山も必死だ。格好がどうのこうの言ってられない。全力で泥団子を投げ続けた。
何発目かが、偶然黒崎の顔に当たった。痛かったのだろう。黒崎が吠えて、片山を睨んだ。すかさず2発目をお見舞いした。
腕力に秀でた連中の集団なのだ。接近戦なら負けない、と数人がまとまって片山達の方へ走って来た。山道夫人が現れて、ものの15秒で悶絶させた。
何とか夫人の脇をすり抜けてきた男達は、後から足を打ち抜かれて倒れた。
向こうで、舜と凛が、ライフルを構えているのが見えた。
山道氏は、笹岡や水野氏の援護していた。
木の陰から、男が凛に襲いかかる。
凛が悲鳴を上げると、側にいた舜が、ライフルで殴り倒した。凛が舜にしがみついた。舜は、凛を左手で抱えて、右手でライフルを操っている。
笹岡は、水ヨーヨーのマシンガンで、男達を叩きのめしている。途中から、口のあたりを狙っているようで、男達は息ができない。風船を呑み込んでしまう者までいた。
水野氏は、まともに目の辺りを狙っている。失明しないだろうか?
片山は、少し敵が気の毒になった。もう少し、常識的な戦闘を期待していただろうに。無茶苦茶だった。
小林先生も、片山と同じ武器で戦っていた。
敵が接近すると、どこからともなく山道夫人が現れて、蹴り倒した。
戦闘は、30分も続いただろうか。
突然、マシンガンの音が響いた。
同時に、一番後の車が爆発した。手榴弾だ。
「何で、こんなもんが出てくるんだ?卑怯だ!」
黒崎達は、真っ青だ。
よく言うよ、先に、拳銃持って来たくせに。
片山は、脱力した。
マシンガンを構えた陽一がドスの利いた声で叫んだ。
「手前等、死にてぇのか?死にたくねぇなら、武器を捨てて投降しろ!」
黒崎グループは、全員両手を掲げた。
小林先生が、黒崎以外のメンバーに例の記憶をなくする薬を飲ませたり、証拠隠滅のため体に残った銃弾をメスで取り除いている間、全員で後片付けをした。
陽一の指示の下、強力な電磁石で、まきびしを回収して回ったのだ。泥団子は、そのままで良しとされたが、水ヨーヨーの風船は必死になって拾った。地球に優しくないゴミになるというのだ。
さすが、桃源郷、というところだが、小さな風船は、破裂してしまったこともあって探すのが大変だ。
こんなこと考えてるなら、あんなに作って発射させるな!
片山が、ブツブツ言いながら拾っていると、凛が舜に甘えているのが見えた。戦闘が終わったというのに、よっぽど怖かったのだろう、くっついて離れないのだ。
笹岡が笑いながら、冷やかしている。
舜もまんざらじゃないのだろう。凛の喉やなんかをくすぐって、抱きしめている。おかげで作業効率が上がらない。
片山が怒りに燃えて、注意しようとした時、黒崎が口を開いた。彼は、絶対の自信を持って戦いに臨んだのだ。長篠の合戦で破れた武田方の武将のような気分だろう。
「片山、お前、小野寺に振られたからって、笹岡に言い寄ってるって噂だったけど、本当だったんだな。まさか、お前がそっちに付くとは……」
「何で、そんな話になるんだ?」
「大槻が言ってた。台風の時だって、お前等一緒に避難してただろ?何か、良いムードだったって。
小野寺には、このハンサムなお兄さんがいるんだ。お前は笹岡狙いじゃないかって」
「ヨーコ。無茶苦茶言う」
笹岡が頭を抱えた。
「水ヨーヨーの風船は、片付けましたが、これって、どうやって誤魔化すんです?車が10台、除雪車が1台。全部、パンクか壊れてるんです」
片山が、陽一に訊いた。
「黒崎達が、気分転換のために集団で暴走してて、除雪車とぶつかって事故ったことにする。除雪車1台含む11台の車による玉突き事故だ。良いな?」
「え?」
黒崎が、絶句した。
「警察への通報は、こっちでしておく。後の説明なんかのお付き合いは、お前に任せる。
ただし、桃源郷の秘密を漏らさないこと。そのために、不自然なことを言わないこと。
万一、秘密が漏れたら、お前の命はない」
「黒崎の記憶は、消さないんですか?」
片山が唖然として尋ねた。
「ああ。こいつ、馬鹿だから。記憶を消すと、また、やって来る。
今日は手加減したが、もう一回手加減して付き合うのは、面倒だからな。次は、死んでもらうことになる。
でも、そんなのより、もう二度とこっちへ近寄らないようにするって約束してくれた方が、手間が省けるだろ?
万一、同じことを始めたら、こいつ一人に死んでもらえば良いんだ」
黒崎は、陽一が言葉通りのことをやりかねない、と思った。
桃源郷には、ライフルの名手もいれば、マシンガンや手榴弾だってあるのだ。
「二度と、こっちに来ない!だ、だから、命だけは助けてくれ!」
必死になって、訴える。途中で気が付いて、慌てて付け加えた。
「小野寺や笹岡や片山にも手出ししない!」
「そうして欲しいものだ」
陽一が、ニヤリと笑った。
「こっちにゃ、情報収集のプロがいるんだ。お前が中村某に頼んだことも車10台連ねて来ることも、グループの30人以外に高校生10人、組関係者10人を巻き込んだことも掴んでいた。
近日中に、あの電気自動車を尾行して、進入路を確認しようという作戦だったことも、拳銃3丁とモデルガンを改造した改造銃13丁を手に入れたこともな」
黒崎は、真っ青だ。
「あの拳銃、どうやって、誤魔化すんだろ?」
笹岡が独り言を言うと、陽一が笑った。
「馬鹿に考えてもらう。何なら、こっちで処分しようか?」
黒崎は、慌てて遠慮した。
拳銃3丁は、その筋からの借り物だ。ちゃんと返さないと、命の保障がないのだ。モデルガンにしたって似たようなものだ。後で食料を付けて返すから、と、無理矢理、借りて来たのだ。
「事情聴取の間、まとめてどっかに隠しておく」
「それが、無難だろうな。事情聴取の音声も俺達が聞いてることを忘れるな」
「と、盗聴するのか?」
「当然だろ?お前、俺達が、どうやって、お前の情報手に入れたと思ったんだ?それしかねえじゃねえか」
「警察署の中で、そんなことできるのか?」
黒崎は、冷や汗が出る。
「お前のベルトに盗聴器を付ける。取るなよ。取ったら、お前の命はない。どこでも、殺しに行ってやる。警察署なんかちょろいもんだ」
振り返って叫んだ。
「舜!」
黒崎には、舜の優しげな顔が恐ろしくさえ見える。ライフルで瞬く間に、四人倒した男だ。
「警察署でも、殺れるな?」
「簡単です」
「殺人罪……だぞ」
黒崎が喘ぐ。
先に、お前等が殺しに来たんだろうが!
片山が、声に出さずに罵った。
「これだけ全国的に暴動が起こってるんだ。死体が10や20増えたって分かりゃしねえんだろ?
だったら、一つぐらい増えるのは、もっと分からねえさ」
陽一が冷たく笑った。




