ミッション始動
4 ミッション始動
中間テストが済んだ頃から、片山のスマホに早苗から連絡が入るようになった。
「もうターゲットに接触できた?」
「まだなら、さっさと接触して頂戴!」
「早くしないと、期末が始まるわ。それが済んだら、夏休みよ!!」
「もたもたしてたら、夏休みにデートできなくなるじゃない!!!」
要は、夏休みにデートしたいから、さっさと小野寺 凛をゲットしろと言いたいのだ。
人の気も知らないで……。
俺は、暇な大学生と違って、忙しい高校生なんだ。しかも1年だ。高校生活に慣れるだけでも大変なのに、この学校では土曜に補習まであるのだ。
一応、希望者を募る形はとっているものの、ほとんど全員が参加する演習形式の授業だ。
週休二日制は、どこへ行ったって気分だ。
やっと、体が慣れたと思ったら、あの中間テストだ。
いくら片山が優秀でも、暇な大学生の要望に応えて、ミッションに邁進するなんて無茶だった。
それでも、やいのやいの言ってくる早苗に逆らいきれなくて、ついに、片山は行動を起こすことにした。
放課後、中学時代一緒に生徒会活動をした笹岡を尋ねた。
笹岡は、女子としては身長が高く、出るところは出て締まるところは締まったメリハリのあるプロポーションをしている。顔だって、まあまあ可愛い。しかも、姉御肌で面倒見がいいので、女子にも男子にも人気がある。結果、彼女の下にいろんな情報が集まってくる。中学で生徒会会長をしていたときも、副会長だった笹岡の情報に何度も世話になったものだ。
今回も世話になるつもりで、声をかけた。
「中間、トップだった小野寺って子、どの子か知ってる?」
「ああ、あなたもなの?」
「俺もって?」
「あの子のことを訊くの、あなたで24人目だわ」
驚いた。そんなに注目されているのか。
「放課後は、図書室にいるから」
笹岡は、片山を図書室へ連れて行って指さした。
「ほら、あそこ。入ってすぐの窓際の子よ。あの子が、小野寺さん。
無口で、他人と、あんまりお喋りしない子よ」
片山は絶句した。
姉貴も俺も、あんなのに負けたのか?
あり得ない!
片山には、信じられない野暮ったさだ。
こんな子に、早苗は舜をとられたのだ。
こんな子に、片山は数学で遅れを取ったのだ。
普通、勉強してるときって、シャキッとしているものだ。凛は、ダントツ学年トップの生徒だ。それなのに、英語の予習をしているのだろうが、どう見ても、なげやりで、やっつけ仕事をこなしているという感じなのだ。
それでも、容姿が秀麗なら、まだ許せる。だが、どう見ても、凡庸なのだ。
余りにも想定外で、笹岡が怪訝な顔で窺っているのにも気付かなかった。
片山は、笹岡が自分に気があることを知っていた。正直言って、付き合うつもりはない。でも、側にいると楽しいし、何かと助けてもらえるので、なあなあでここまで来た。
今、片山が凛にちょっかい出すと、笹岡がどういう気持ちになるかとか、どういう行動を取るかとか、全く考えることができなかった。
それほど、凛は意外だった。
それでも、早苗の頼みだ。
腹を括って、ミッションに着手することにした。




