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桃源郷の日は暮れて  作者: 椿 雅香
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山道兄弟(2)

少し短いですが、キリが良いのでアップします。



 笹岡は、二学期以降も桃源郷に下宿することになった。

 この機会に、陽一か健二のどちらかと仲良くなって欲しいという山道夫人の陰謀だ。


 笹岡にすれば、凛の側にいるのは嬉しい。だが、桃源郷には、あの山道兄弟もいるのだ。微妙なところだった。

 凛は、笹岡が桃源郷に下宿することに大賛成で、大喜びだった。

 

 水野夫妻の息子は公務員だということだが、桃源郷に合流する気はないようで、水野氏が沈痛な顔をしていた。娘の悲劇を繰り返したくなかったのだ。

 

 中原夫妻の二人の娘は、あのエッセイに関する責任もあるのだ。何とか9月いっぱいで仕事を辞めて、桃源郷に合流することになった。

 

 舜は、9月中旬に大学のあるK市に戻る予定だ。父親の小林先生に、大学が始まったら、学業に励むよう言われた。


 この頃の作業では、舜は笹岡と組む。凛は、小野寺家の一員として研究に励んでいるのだ。



 舜は、凛が遠くへ行ってしまったように感じた。


 舜の胸で、バレーボールができないと泣いていたあどけない人はいなくなってしまった。

 暑苦しいほどじゃれついて、作業の合間、当然のような顔をして舜の脇で横たわっていたのに。

 近頃の凛は、大人びた憂いに満ちた表情で、すっと視線をそらすのだ。凛の髪の感触を手が覚えていて、あの髪に触れなくなって久しいことに気が付いた。


 舜は、水野夫人から、凛ちゃん、何かあったの?と聞かれた。意味が分からず問い返すと、凛は、水野夫人に、子供を産む予定がなくなったので、そんなに食べなくても良くなった、と言ったそうだ。


 凛は、舜ばかりでなく、男全般を拒んだのだ。研究だけに生きようと決意したのだろう。

 それほど、ショックだったのだ。

 舜は、何気ない顔をして、他の女と天秤に掛けていたのだ。


 笹岡は、そんな凛の気持ちを知りながら、全く気にせず、舜とも凛とも付き合った。

 

 山道兄弟は、二人とも、凛が大人になったという印象を持ったようだ。

 冗談まじりに、健二が、

「舜をやめて、オレと結婚しないか?」と、持ちかけた。

 凛は、寂しそうに笑って、

「結婚して子供を産んでると、研究が完成しないかもしれないから、凛、結婚しないことにしたの」と答えた。



 9月に入って、新学期が始まった。


 凛と笹岡は、毎日、山道兄弟のどちらかに送ってもらった。


 笹岡は、だんだん山道兄弟と話をするのが楽しくなって来た。考えてみると、笹岡の人生では出会ったことのない人種だ。あまりにも異常なのだが、憎めないのだ。


 危ない。笹岡は、慌てて頭を振った。このままだと、山道夫人の術中にはまりそうだ。


 宿題テストがあって、笹岡は数学で先生が目を剥くほどの高得点を見た。


 あの集落に住むと、成績が上がるんだろうか。だったら、赤点の生徒をまとめて合宿でもさせたら良いかもしれない。数学の教師が独り言を言った。



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