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桃源郷の日は暮れて  作者: 椿 雅香
36/51

山道兄弟(1)

これも長いので分けます。

16 山道兄弟


 三日後、山道氏の二人の息子が現れた。仕事を辞めて、桃源郷に合流したのだ。


 「よく考えたら、父さん達に食べ物を送ってもらってたけど、自分じゃ何もしてないわけだから、少しぐらいは、恩返ししないと。これ、土産だ」

 そう言うと、長男の陽一が、大きなボストンバックの中から何やら怪しげなものを取り出した。

「何だ、これ?」

 水野氏が素っ頓狂な声を上げる。

「ええっと。こっちの五つが、地雷。

 こっちのは、見りゃ分かるだろ?マシンガンだ。

 ライフルは、親父の所にあったから、こっちが良いだろうって。

 最後が、手榴弾。あいにく、10個しか手に入らなかった」


 横で聞いていた笹岡が、蒼白になって訊いた。

「あの、陽一さんのお仕事って、何だったんですか?」

「ん?平凡なエンジニアだけど?」

「平凡なエンジニアって、地雷とか手榴弾って、使うんですか?」

 

 どこが平凡なんだ?頭痛に耐えながら聞く。


「まさか。兄貴は、マニアなんだ。軍事関係のな。孫子から始まって、ステルスからイージス、原子力潜水艦まで、親父の趣味が狩猟だったのと、似たようなもんだ」

 弟の健二が笑いながら説明するが、どこが、似たようなもんだ、という気分だ。


「マニアって、こんなもん、手に入るんですか?」

「この頃の食料事情だろ?その筋の連中に食べ物掴ませると、結構、簡単に手に入るんだ。

 あのエッセイ、東京じゃ結構評判だった。俺に、親父達もあの博士と同行したんじゃないか?って聞いたヤツまでいたくらいだ。

 あちこちで暴動が起きてるんだ。下手すると、ここも襲撃されかねない。向こうが怪我しないようにって気ぃ遣ってたら、こっちがやられちまうぜ」


 その筋って、どの筋なんだ?笹岡は、声に出さずに叫んだ。


 謹言実直な中原氏も唖然として言葉が出ない。


「で、兄貴は、その辺りのものを持って来ると思ったから、オレは、こっちにしたぜ」

 健二が、鞄から何かを取り出す。

「護身用のスタンガンが三つ。

 凛ちゃん、高校行ってるんだろ?だったら、これ、持ってきな。ボールペン型の新製品。今までの大きさだと携帯に不便だろ?これなら、いつもポケットに入れとくことができる。

 おばさん達の外出用にも要ると思ったんだ。

 あと、進入路を見張るための監視カメラと赤外線探知機。これで、セキュリティとしてはバッチリだろ?

 それからもう一つ、これは、商売道具の盗聴器だ。途中で中継基地作ったら、町の情報は簡単に盗聴できる」

「あのぉ、健二さん、職業は何だったんでしょうか?」


 あまりにも怪しげなので、笹岡が再び訊いた。

 この人も平凡なエンジニアだったら、人類は破滅する。


「探偵だ。もっとも、浮気調査専門だけどね」

「だったら、舜さんの浮気も調べてもらえるんですか?」


 笹岡が身を乗り出した。


「何だ?舜のヤツ、まだ、結婚もしてねえのに浮気なんかしてるのか?」

「いえ、してないという証明があれば、凛が喜ぶと思って」

「マキちゃん、とかいったね。君、面白いね。

 でもね、あるという証明は簡単なんだ。でも、ないって証明はやりようがないんだ。一ヶ月追跡してそういう形跡はなくても、次の日に女と会ってたりするかもしれないだろ?」

「残念」

 

 笹岡が肩を落とすと、健二が笑った。


「母さんが言ってた、よく働く気性のさっぱりした可愛い子って、君のことだったんだ。

面白い。オレと付き合わない?」

「いえ、遠慮します」


 怪しげな兄弟の前では、笹岡もタジタジだ。


 こんな地雷や手榴弾、赤外線探知機それに盗聴器なんか使わないでよ。ここは、イラクやアフガンじゃない、日本なんだ!

 大人が、この二人にちゃんと言うべきだ!

 

 そう思った時、小小野寺博士が口を挟んだ。

「陽一くん。襲撃に備えるのはありがたいが、桃源郷の内部、つまり、杉林の内側で地雷や手榴弾を使うのはやめてほしい。

 風車ガーランドに被害が及ぶ可能性があるんだ」


 この人は、風車ガーランドがなければ、杉林で映画ばりにドンパチやることも厭わないと言うのだろうか。

 何せ、凛の親だ。普通じゃなかった。


「それと、後で、カムフラージュができないような方法も困る」

 小林先生も口を出す。


 む?この人は、常識人だと思ってたのに。

 何せ、ここは桃源郷だ。みんな普通じゃないのだ。

 笹岡は必死で脱力感と戦った。


「どういう意味だい?」

 水野氏が聞いた。

「ウチとしては、正当防衛を主張することになる。でも、その結果、桃源郷の秘密が公になるのは避けたい。だから、暴徒全員に、例の記憶をなくす薬を飲ませた上で、事故に見せかけるとか、そういう後始末を考えて欲しいんだ」

 

 小林先生が平然と言ったので、笹岡は頭を抱えた。過剰防衛になりそうだ。


「ったく、注文が多いんだから」

 陽一が、口をとがらせた。

「じゃあ、後始末は後で考えるとして、舜、ここの地形を調べたい。ついでに、武器として使えるものがないか調べておこう。案内してくれ」

 

 そう言って、山道兄弟は、舜とともに出掛けて行った。窓から見ると、倉庫から自転車を出している。あれで、集落全域を走り回るのだろう。



 翌日、健二の進言もあって、進入路となっている脇道を途中で大きく迂回させ、真っ直ぐ行くと落とし穴に落ちる仕掛けを作る。そうして、本物の進入路には、監視カメラと赤外線探知機を設置し常時監視することにした。

 また、山道兄弟は、作戦を練ると言って怪しげな相談をし、買い出し担当の山道夫人に、水ヨーヨーの風船を大量に買って来るよう頼んだ。

 一体、何に使うつもりだろう。

 そして、昼は農作業に精を出すが、夜は、何に使うか分からない機械の製作に励んだ。



 何にしろ、あの二人の考えることは普通じゃない。

 笹岡は、あの二人の行動を可とする小小野寺博士や小林先生の異常さに頭痛がした。




この兄弟は、書いていて楽しいです。

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