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高校時代「小説」作品  作者: 迎 カズ紀
2年次作品
7/14

キラキラになれるように

部長になってから初の作品。ここからかなり文字数にしろ内容にしろやりたい放題になった気がしますが、雰囲気は平常通りです。

 流されるだけの日常。それはとても平凡で平坦。でもそれでもいいや、と思うようになった。キラキラした、やる気にあふれた存在にあこがれることもなくなっていた――はずだったのに。


 数分前までの自分を振り返る。そりゃあ、もう十月なのにまだ暑いなあ、と確かに言ったけども。

「だからと言って水浸しにするのはどうかと思うよ?というかまだホース使わないのに何で持ってるの?」

 俺はそう言って水浸しにした犯人であるトモノリを見た。彼はきょとんとした顔で手に持った園芸用のホースの水の勢いを緩める。

「いや、お前が暑いって言ったからじゃん」

「おかげさまで寒いわ」

 キッとにらむがトモノリはごまかすように笑うだけだった。

「あーあ、またふざけてるんですか先輩方」

 呆れた声で瀬川ちゃんがスコップを待ってくる。それでトモノリの頭をガツーンとやって、と言ったが「私まだ捕まりたくありませーん」と言われた。

「さっさと終わらせちゃいましょーよ」

 こうして俺とトモノリ、瀬川ちゃんの三人の放課後が始まる。



 確かあれは先月のことだった。


 ――私は学校に花壇を作りたいんです。


 生徒会室を訪ねてきた彼女が唐突に言ったのだ。

「私は瀬川しの、一年四組の副委員長です。あなたは二年の大山さんですよね。それで、学校に花壇を」

「いや、瀬川さん?ちょっと待って」

 彼女が訪ねてきた時には生徒会室には俺しかいなかった。確かに俺は生徒会役員だけどそんなに権力はない。クラス推薦と言う名の押し付けで出た選挙で当選してしまい、新生徒会長に掛け合って無理に庶務にしてもらったんだ。本来なら庶務は一年生だけって決まっているのに。

「ええっと……俺じゃあ権力とかそういう決定権ないから、生徒会長来るまで待ってくれるかな」

 そういって待たせたのはいいものの会長は来なかった。彼女が生徒会室に来てから三十分ほどで副会長に就任したトモノリがやってきた。

「あれ?瀬川じゃん」

「あ、トモノリ先輩お久しぶりです」

 どうやら顔見知りのようだった。雑談から推測するに中学の時の部活の先輩後輩らしい。

「トモノリ先輩って副会長でしたよね。お願いします、学校に花壇を作りたいんです」

 また彼女は頭を下げる。トモノリは俺の方を見て首をかしげる。わからん、と言う代わりに首を横に振った。    

 仕方なしに俺が問いかける。

「どうして花壇を作りたいの?」

「この学校花壇どころか園芸委員すらないじゃないですか。校門前が殺風景なんて嫌です」

 たいした意味のないような理由。呆れたが、目安箱にそんな以来きてたな、こいつだったのか、と納得。とりあえず生徒会長に伝えておくと約束して帰ってもらった。トモノリが必死で追い返しているような俺を見て笑う。その手には携帯があり生徒会長にメールを送ってくれているようだ。

「瀬川みたいなやつ、やっぱ苦手?」

「ああ……なんというか」

 まぶしい。彼女はとてもまぶしかった。キラキラしていた。

 別に、惹かれたというわけではない。ただ彼女は少し近寄りがたい。そんな印象だった。

 しばらくしてからブブブ、と携帯が鳴った。

「ええっと……『この件は大山くんにすべて任せます』だってさ」

「え、なんで」

 戸惑っている間にまた携帯が鳴る。それを見たトモノリは急に笑い出した。

「なに笑ってんだよ。えーと……『私の交渉のおかげで庶務という目立たない役割にしてあげたのだから、これくらいは頼みますよ?働くときは働きなさい』って……エスパーかよ」

「生徒会長様の命令だし従うべきだと思うよ?頑張って」

 それはそうだけど、と心の中で文句を言う。というか本当に俺と瀬川さんだけですることになってないか。完全に他人事でもう帰ろうとしているトモノリの腕をつかみ圧力満載の笑みを向ける。

「あーれー?優しいトモノリくんなら手伝ってくれますよーねー」

 こうして俺と瀬川ちゃん、そして優しい優しいトモノリの三人で花壇づくりをすることとなった。


 作業を開始した先月から昨日までは花壇づくりに専念していたため、本格的に花を育てるのはこれからだ。おかげで立派な花壇ができたと誇らしげに思う。レンガの隅っこに名前を刻んでおきたいぐらいだ。

「瀬川ちゃん、今日から種を植えるんだけど持ってきてる?」

「はい。福寿草の種を持ってきました。知ってますか。すっごく可愛い黄色い花が咲くんですよ」

 ずっと力仕事、汚れ仕事だったからか瀬川ちゃんはとてもウキウキしているように見える。

 軍手を身に着け、袋の説明を見ながら種を植える。花を育てるなんて小学校以来だな。中学の時はホウレンソウ育てた気がするけど。

「トモノリ先輩、一応ここに花を植えてるってアピールした方がよくないですか?」

「ああ、確かに。何も知らずに踏んじゃう人がいるかもしれないしね。板で看板でも作ろうか。先生に頼んでくる」

「ありがとうございます」

 ぼーっと作業してたせいかトモノリがいなくなっていたことにすぐ気付かなかった。トモノリは、と瀬川ちゃんに聞いたら「話聞いてました?」とうっとうしそうな顔をされた。それからすぐ隣にしゃがんで種を植え始めた。肩が触れ合うほどではないが、いつもより確かに近かった。種を植えてるんだから当たり前だけど。

「……そういやさ、いいかげん、教えてくれてもいいんじゃないかな」

「何をですか?」

 とぼけるなよ、と土から出てきたミミズをけしかけるとスコップで殴られかけた。どうやら怒ったようで、目線を土から動かさなくなってしまった。

「怒んなよ……。いや、花壇を作りたい理由ちゃんと聞いてないし」

「……言ったじゃないですか」

「俺、瀬川ちゃんと関わって一か月くらいしかたってないけどさ、もっとしっかりした考えを持ってる子だと思ってるんだけど」

 そう言って顔を覗き込む。少し困ったような顔をしてから瀬川ちゃんは口元に手を持っていき考え込むようなしぐさを取った(土まみれの軍手だということに気付いてすぐに手を下げたが)。

 一分ほどの沈黙の後、少し息をついて話し出した。

「――私、三つ上に兄がいるんですけど、去年この高校卒業したんですよね。それで卒業式見に行ったんですよ。まあなかなか帰ってこない兄を校門で待ってただけなんですけど」

 驚きました、と彼女は苦々しく言葉を零す。

「とても殺風景でした。卒業祝う気ゼロですかって思わず言いかけた」


 瀬川ちゃんの発言には俺も思うところがあった。校門まで花道は作ったがその先は確かに殺風景だった。石やコンクリートの色しかないさびしい道だった。

「だから、きれいな花で卒業生を見送りたいと思ったんです。それに新入生もたくさんの花で出迎えれるし、普段から生徒が明るい気持ちで登下校できる。そう思ったんです」

 キラキラしてるな。

 そう口に出しかけて飲み込んだ。代わりに余計な言葉が口をついて出てくる。

「――そこまで思うんだったら生徒会に入ればよかったのに」

「……委員長と副委員長は選挙に出たらダメって決まってるの知ってます?」

 ごめん、とあわてて言うと彼女は少し微笑んだ。

「まあ、先輩方のおかげで実現できそうで、すごくうれしいです。本当にありがとうございます」

「……瀬川ちゃんも十分頑張ってるじゃん」

「私が頑張るのはこれからですよ。だって先輩方お花の世話できなさそうですし。」

 さらっと笑いながら失礼なことを言った彼女を軽く肘で小突きながら俺も笑った。

 彼女はとてもキラキラしていた。



 月に一度の生徒会の会議が始まった。会議といっても行事の進行確認だけですぐに終わるはずだった。

 会議が終わり一年生が先に部屋を出て、生徒会室には二年だけになった。生徒会長が突然俺の名前を呼ぶ。

「大山くん、花壇の件どうかしら?」

「――えっと、トモノリの協力もありなんとか進んでいます。最近芽が出てきました。」

 そう、と言っただけでこの話は終わった。単なる雑談か、と思った瞬間。

「それじゃあ、少し早いけれど二年生だけで卒業式の方針を決めましょうか」

「はい?」

 え、聞き間違いかな、と思わず耳を疑った。文化祭すらまだなのにもう決めるのかよ。

 トモノリも初耳のようで手を挙げる。

「会長―。そんな大事なこと生徒会で決めていいのー?」

「式は例年通りよ。私たちが決めるのは卒業生の教室の飾りつけと――花道の誘導ルートかしら」

 花道。胸が少しだけざわっとした

「一年生も混ぜて話せばいいのだけれど、やっぱり二年である程度確認してからの方がいいと思ってね」

 ここで一息ついて生徒会長はにっこり笑った。

「役割の担当責任者を決めるのだけれど――立候補はあるかしら?」



 翌週の放課後。珍しくトモノリが風邪をひき、二人だけでの活動となった。水やりくらいしかすることはないんだけれど、毎日活動しているのを見た先生に「中庭に植えてる木々にも水をやって」と頼まれ、時間がとてもかかる。

「はあ……さすがにこんなに動き回ったら暑いな」

「ホースの水でよければぶっかけますけど」

「トモノリみたいに水浸しにしたらさすがに怒るよ」

 あははと彼女は笑い、俺もつられて笑った。

 でもすぐにその笑い声は止んだ。瀬川ちゃんはぐるっと一回転して花壇を見まわした。

「……ちゃんと咲きますよね」

 少し不安げに言う。

 一応三人とも園芸初心者には変わりないし、そもそも喜んでくれるだろうか――そんな思いがあるのだろう。

 大丈夫だよ、と俺はつぶやいた。

「絶対、卒業生に喜んでもらえるように、花壇まで花道誘導するからさ」


 俺も少しはキラキラに近付けているのかな。


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