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高校時代「小説」作品  作者: 迎 カズ紀
2年次作品
5/14

彼方の君へ

2年次初、新入生歓迎号に載せた作品です。

「雪ノ下くん、ちょっといいかな」

 ようやく学校にも慣れ始めた金曜、昼休み。後ろの席の女子が話しかけてきた。

「いまからちょっと寝るからさ、予鈴前に起こしてくれないかな?」

 少し照れたように彼女は笑った。ええと、確か名前は……。

「梅村……さん?今から寝るの?」

「ほらっ二時間目体育だったじゃん。体操の練習ハードだし、疲れちゃってさ」

「ああ……笹田先生厳しいもんな。いいよ。あ、でも今から信二……じゃなくて隣のクラスの俺の友達が弁当食べに来るからうるさくなるかも」

「全然大丈夫。ありがと」

 そう笑って言うと梅村和美はすぐに顔を伏せて寝てしまった。すぐに俺の友人の山吹信二が来た。

「あ、後ろって梅村って人?」

「え、信二知ってるの?」

「うちのクラスの男子が噂してた。可愛い女子が四組にいるって」

 うーん……誰が可愛いとかよくわかんない、と言ったら「俺も」と返された。

「あ、でも……」

 思い返すと先週くらいからたまに寝ている気がする。

「なー信二、何で寝てるんだろうね」

「俺が知るかよ」


 予鈴の少し前に、梅村は自分で起きた。そして少し笑って言う。

「ごめんね雪ノ下くん。また来週も寝ると思うから……席替えするまでよろしくね」


 これがすべての始まりだった。



 三回目の金曜、昼休み。今日もいつものように彼女は寝ている……んだけど、うなされている。

「どうしよう……起こした方がいいのかな」

「俺に聞くなよ。つーかなんなの、こいつのこと好きなの?」

「ちげーよ……そんなんじゃない」

 結局そのままにした。普通にその後起きたし大丈夫なんだろうけど……心配だ。


 四回目の金曜、昼休み。またうなされている。おせっかい……なんだろうけど、起こすことにした。肩ならいいかな?軽く叩いたら起きるだろう。そう思って手を伸ばし、少し触れた瞬間バッと顔を上げた。目が覚めた彼女は目に涙を浮かべていて、思わずぎょっとした。

「えっ……と、ごめん。触れられるの嫌だよねそりゃ」

「……あ、ごめん雪ノ下くん起こしてくれたのか。もう本鈴前だね」

「なんかうなされてたけど大丈夫?」

 大丈夫だよ、と梅村は笑った。笑った梅村は確かに可愛いとは思う。二つ縛りの髪形も似合っている。ツインなんちゃらってやつ。……でも、どこかが危うい感じがする。目が覚めてすぐの瞳がうつろに見えるんだ。

「幸せな夢なんだよ」

 本鈴と同時に彼女はつぶやいた。その次の週から彼女は寝れるときは寝るようになった。何かに憑かれたように。



 五回目の金曜、五時間目。時間割変更で退屈な教科になったため凄くねむい。ついうとうとしてしまう。あーダメだ……ちからつき…た……。


 気が付くと教室にいた。いや、教室にいたんだけど。まだボーっとしてる頭を横に動かす。「梅村さん、俺どのくらい寝てた?」と聞くために。しかし隣にいたのはメガネをかけた男の人だった。

「は?え、ちょっと」

 ここはどこだ?教室を見渡すと知ってる人は一人もいない。いや、かろうじて黒板の前に立っている人はわかる。笹田だ。体育の。今より少し若いけど。それから、斜め前の男の人もなんか知ってるような気がする。

 でも……ここはどこなんだ?誰も自分を見ない。見えていないのか?試しに席から立ち上がって行ったり来たりしても誰一人何も言わない。隣にいたメガネさんのメガネも(一応ちゃんと失礼だと思いながら)とってみたが無反応。ああそうか、これは『夢』なんだ。


「……ノ下、雪ノ下透」

 突然名前を呼ばれた気がした。「はい?」と返事した途端丸めたノートらしきものでスパンとたたかれた。顔を上げると目の前には、寝るとはいい度胸だな、と言いたげな先生。まわりからはクスクスと笑い声。恥ずかしい……。

 授業後梅村さんが

「寝るなんてめずらしいね。まだボーっとしてるけど大丈夫?」

 と声をかけてくれた。

「いやあ、なんか変な夢見てさ。この教室みたいなんだけど違うとこにいる、みたいな」

 笑いながらそう言ったら、梅村の表情が一瞬固まったように見えた。でもすぐに「なにそれー」ってまた笑った。



 七回目の金曜、登校すぐ。笹田の放送があった。

『今日の一年四、五、六組の体育は二時間目から五時間目に変更です。二時間目は各クラスの五時間目に予定していたものなので注意するように』

 放送が終わるとクラスのほとんど全員から歓喜の声があがった。みんな着替える時間が多い五時間目のほうが嬉しいからだ。ただ一人を除いて。


 授業変更になった金曜、昼休み。彼女はお構いなしに寝てしまった。ここ男子が着替える教室なんですけど。

 さすがにまずいと思った梅村の友達(確か桜田さん)が一度起こして廊下まで引きずり出してくれたが、男子が着替え終わるとまた教室に戻って寝てしまった。桜田さんは体育委員なので後は俺に頼んで先に行ってしまった。

「梅村さーん……起きてくださーい……そろそろ行かないとやばいんですけど……体育の笹田怖いんですけど……」

 ダメだ起きてくれない。どうしようか……。 体育遅刻したらどうなるかとか考えたくも ない、俺の高校人生たったの一学期分とかごめんだ!

「……もし俺が今寝たら、梅村と同じ夢とか見れたりするのかな」

 言ってみてわかったが何ともばかばかしい。でも……。

 予鈴が鳴った。俺は覚悟を決めた。



 またこの前と同じような夢。確かに同じ教室なのに知らない人しかいない。誰も俺に気が付かない。隣のメガネさんも斜め前の人も変わらない。ただ休み時間のようだった。全員ではないがほとんどの人が席に座っていない。話してたり、こっそり携帯で何か見てたり。本当に知らない人だけの空間だ。

 でも、斜め前の男の人を見つめる梅村さんがいた。

「梅村……さん」

「えっ、どうしてここに雪ノ下くんが?」

 驚きながらも、そんな気がしてたよと言いたげに少し彼女は微笑んだ。

「梅村さん。帰ろう」

 しかし横に首を振り、また目線を男の人に戻した。彼が笑うたびに同じように彼女も笑う。 

 男の人は梅村和美に似ている気がした。鼻の形や座った時の姿勢に笑い方。梅村はすごく幸せそうだ。……でも。

「帰ろう」

 腕を伸ばそうとすると「うるさい」と言うようににらまれた。

「帰ろう」

 もう一度言うと、近づかないでと大きな声で言われた。さすがにひるんだ。

 彼女は毎週のようにここで彼を見ていたのだろうか。うなされても、涙を浮かべてでも「幸せな夢なんだよ」と言って。これが梅村の幸せなのか?

「……梅村さん。今の梅村さんはとても幸せそうだ。でもこれは『夢』なんだよ」

 彼女の顔から微笑みが消えた。

「帰ろう」

 今度は首を縦に振ってくれた。その瞬間、辺りが真っ白になっていった。



 目が覚めると一時二十分だった。もう体育が始まってしまっている。後ろを振り返ると梅村も起きていた。目に涙を浮かべている。

「笑ってたの」

「……え?」

「お兄ちゃんが……笑ってたんだよ……」

 その言葉を最後に彼女は声を上げて泣き出してしまった。こういう時どうしたらいいのかわからない。別に自分は梅村の彼氏ではないし古くからの友人でもない。ドラマみたいになぐさめるのは絶対に違うんだろう。

「……泣けるだけ泣いたらいいよ」

 それしか言えなかった。


 結局泣き止むのを待ってからこの事態をどうするか二人で話し合った。今の状況はかなりやばい。高校生活をこんなところで終わらせたくない。仮病とかでごまかせないか考えていたが、結局素直に謝りに行くことにした。

 けれども、話している途中で梅村がしんどいと言い出したので保健室に行くことにした。どのみち真っ赤に腫れた目ではみんなの前には行けない。というわけで保健室に行くとなんと高熱を出していた。結局、俺だけが体育館へ向かいさんっざん怒られた。



 七回目の金曜の三日後、つまり次の週の月曜、登校すぐ。梅村さんは学校に来ていた。おはようと言ったら、おはようと返してくれた。それから、気まずそうにこっちに来た。

「ごめんね、私のせいで」

「梅村さんのせいじゃないよ。それに笹田が『梅村も後日放送で呼び出すから覚悟しとけ』ってさ」

 そう伝えたら苦い顔をされた。そりゃそうだ。そう思っていたら、梅村はふっと表情をやわらげた。

「私ね、お兄ちゃんと仲悪いんだ。というか家でも家族の誰とも話さないし、ずっと暗い顔だし。でもね、夢のあの中では笑ってたんだ」

「梅村……さん?」

「夢を見れるって知ってから入り浸っちゃってさ。でも、雪ノ下くんが迎えに来てくれて気づいたんだ。あれは『夢』だもんね」

 授業が始まる予鈴が鳴った。梅村は自分の席に戻る前に笑って言った。

「もう寝ないから安心して」


 それから本当に彼女は寝なくなった。もうこれっきり話さなくなるのかと思っていたが、お兄ちゃんにおはようと言えた、などと嬉しそうに報告してくれる。その様子を信二は「お前ら付き合ってるの?」と真面目に聞いてくる。付き合ってない。

 あの日の約束がこんなことになるなんて想像していなかった。梅村がお兄さんとまた仲良くなれるのかわからない。けれども、きっと大丈夫だろう。   

 俺が彼女と最終的に付き合うかどうかは今は想像もつかない。



体育教官はおっかない印象があるのは私だけでしょうか。特に一年生にとっては体育の授業以外の顔を知らないからビビりまくる気がします。体育がきつい学校出身の者からの意見は以上です。

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