5 Tribulatio
「ところで白咲、爺さんが使ったのは薬草の方だろ?一緒に頼んでおいたものがあるはずなんだが」
「あー、あれねー、えーっとねー」
「まさか、アレも使ったのか」
「使ったというか、持ってっちゃった」
「………は?」
銀の言う“アレ”とは望遠鏡で、滅多にものを欲しがらない葵が欲したもの。
驚かせようと、こっそり奮発して買ったのだが。
「いやー、言い訳をするとね、眠くてイライラしてた時に爺ちゃんが来てさ、『いいやつ買ってるな!儂が貰ってやろう!』って大声で言われたもんだから、持ってけよ!うるさいなぁ!って言っちゃった」
白咲の所為で頭を悩ませるのは何度目だろうか。
よりによって望遠鏡を持って行かれるとは。
「荷物が届いたのは今日だったよな?まだ、夜は来ていないから開封していないことに賭けてみる」
「また賭けかよ。何?賭けが好きなの?………車、手配しようか?」
爺さん――青柳の家に銀が行くには、車を手配するしかない。
青柳の家に行くには、関所を通らなければならなく、銀が通行証を使うのには危険が伴うからだ。
「いや、先に連絡する」
「それもそうだな。――――梟が来たよ。そろそろ深雪と葵ちゃんが出てくるね」
「ああ。また、葵に知られると台無しになるから、白咲の方で爺さんに連絡とってくれると有り難いんだが」
「勿論、引き受けるよ。連絡ついたら銀に連絡しようか?」
「いや、直接俺の家に送るように伝えとけ。後で爺さんに説教しておく」
銀とは血縁関係にある青柳だが、白咲とは違う関係で、親の仕事の関係で一人だった白咲を青柳が育てた。それもあってか、銀と白咲とは兄弟のような仲になっている。
「了解」
その言葉とほぼ同時に深雪と葵が出てきた。
「荷物が届きました。食事はどうされますか?食べていかれますか?」
深雪は届いた荷物を銀に手渡した。
一方葵はというと、何故か拗ねている。
「ありがとな、深雪。葵はどうして拗ねているんだ?」
「………………」
「深雪、意地悪したでしょ〜?」
「してません」
「ホントかなぁ〜?僕の勘では、葵ちゃんに、銀が気にかけてくれてるからって自分を特別だと思うな、的なこと言ったでしょ〜?」
「………言ってません!」
図星を指され、顔を真っ赤に染めた深雪は、家に戻ってしまった。
「ごめんね〜。多分、羨ましかったんだよ。深雪も過去にあったから。許せ、とは言わないけど、分かってあげてくれると嬉しいな」
「………大丈夫です。分かってます」
どうやら拗ねているのではなく、落ち込んでいるようで、来たとき同様、銀の服の裾を掴み背後に隠れてしまった。
「銀もごめんね。今日は災難続きだねぇ」
「構わん。なんとかする」
すまなさそうに笑う白咲に見送られ、車に乗り込み、帰路につく。
家に着くまでの間、二人は一言も発さなかった。
Tribulatio=悩み