10 Memoria
「そうか。これは葵のじゃったか…… 銀も成長したもんじゃな」
山奥にひっそりと佇む家に一人、老人がいた。
弱々しく見える老人が受話器を置き、家の外に出ると、スーツを着た優しそうな男が立っていた。
ニコニコと微笑みあう二人を包んでいる空気は異様。
次の瞬間、優しそうな男の瞳孔がカッと開き、老人を殴りにかかった。
老人は笑顔で右腕を動かす。
倒れたのは、スーツの男だった。
* * *
「……行かないで。置いて、行かないで…… 銀さんどこ!?銀さん!?」
銀が荷物を取りに行き、一人になっただけでこの有様だ。
年齢は十五歳。だが、精神的な意味で、十五歳の平均と比べると圧倒的に弱い。
誰にでもある恐怖。
葵の場合、それは記憶だった。
捨てたくても捨てられない、頭にこびりついている忌々しい記憶。
捨てられた時の記憶、拾われるまでの記憶、拾われてからの記憶。
葵の根本的な成長を止めているのは、これら全て。
銀や青柳は約七年間、成長させようと出来る限りのことはしてきた。
そして、葵は成長したかに見えた。
「葵、葵。俺はここだ。どこにも行かない。捨てたりしない。だから落ち着け」
本当は、安心しろと言ってやりたい。
しかし、銀はいつ消されるか分からない。
「俺はこの手を離さないから」
俺はこの手を離さない。
言い換えると、“俺が自分から、この手を離すことは決してない。”
Memoria=記憶




