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8 Paulatim
「銀さん、起きてください。朝ですよ」
その日は珍しく、銀より先に葵が起きていた。
「荷物が一つ、届いています。薬草か何かですか?」
一見、普段の葵のように見えるが、無理をしている事など銀には分かっていた。
「大丈夫なのか」
「何がです?昨日のことを言っているなら、もう、大丈夫です。寝たら落ち着きました。服、ぐしゃぐしゃにして、すみません。後でアイロンかけておきますね」
朝食を作っているのか、エプロン姿で儚く笑う葵は、銀の眼に、今にも消えそうに映った。
「今日も出かける予定だったんだが……、やめた方がいいな。荷物が届いたって言ってたよな?」
「え?あ、はい」
「どこに置いたんだ?玄関?ちょっと待ってろ。すぐ戻る」
葵が返事をする間もなく、銀は部屋を出てしまった。
「朝ごはん……」
言葉が相手に届かないという恐怖。
届いても拒絶されてしまうという恐怖。
そんなつもりはなくても、自分は自分。相手のことなど分からない。
拒絶や無視より、傷が深いのは“無関心であること”だと葵は知っている。
そして、銀が同じような過去を背負っていることも何となく、悟っている。
分かっている。分かっているつもりだ。分かって――――
分かるとは、理解するとは、何……?
Paulatim=少しずつ




