15話 代理戦争
聖法歴1019年8月4日
レルヒェ共和国との国境付近。
今日はゼインと一緒に国境付近の宿場町アルブルに来ていた。
「わざわざこんなところに、何しに来たんだ」
黙ってここまで付いてきたゼインが、いい加減飽き飽きしたように尋ねる。
どこか途中で帰ってしまうと思っていたが、文句も言わず、今まで付いてきたことに軽く驚いていた。
表情には出さず、内心ほっとしていた。
「ここに来たのはとある人と会うためさ」
「誰だ?」
「教える前に一つ、質問に答えてもらおうかな」
ちょっとした思い付きで問題を出そうとすると、ゼインは嫌そうな顔をした。
「まぁまぁ、そんな顔せずに。後々ゼインにも関わることだから」
「……」
関係を仄めかすと、不承不承ながらもこちらに耳を傾けてくれた。
目線で先を促してくる。
その現金な態度に思わず苦笑しながらも、ゼインにひとまず確認をする。
「まず、ゼインの認識を確かめたいんだけど、戦争って言われたらどういうものを想像するかい?」
「そんなの、人と人との殺し合いだろ。理由はどうであれ、どちらかが負けを認めるまで続ける」
明け透けな言い草に乾いた笑いが出る。
「身も蓋もないね。――確かに、そういう側面もある。ただ、そんな凄惨なことを続けていったらどうなると思う?」
「知らん。片方が潰れるんじゃないか」
冷淡に言い放つゼインの瞳は感情が抜け落ちたようだった。
「残念ながら、その前に両方とも疲弊して戦争が続かなくなるかな」
「なら、それで戦争は終わりだな」
「ところがどっこい、そんな簡単な話じゃないんだ。前にも話した通り、この世界には魔境の脅威がある。すぐにどうこうなる話じゃないけど、戦争で疲弊した国ではおよそ手が回らないぐらいには。――どうしてだと思う?」
「……」
目を細めて静かに考え出すゼイン。
私の説明を噛みしめるように、ゆっくりと思考を巡らせているのが分かった。
意見が纏まったようで、目だけでこちらを見上げる。
「……戦える奴がいなくなるからか」
「そうだね。軍人もそうだけど、特に英傑の影響が大きいかな。知っての通り、魔獣って個々の能力が高い傾向があるからね。討伐条件は最低でもランクC以上、推奨はランクB+以上になってくる。軍人たちの中にはランクCやBが多いとはいえ、ランクA以上の英傑がいるかいないかで難易度がかなり変わってくるんだよ」
ゼインには実感が薄いかもしれないが、魔獣というのは一体だけでも複数人で対処するぐらい厄介な存在だ。
単身挑めるのは一部の強者のみ。ランクSや戦闘に特化したランクA+ぐらいなもの。
それでも、万が一のことを考えて普通は数人単位で行うのが常だ。
数年に一度、大掛かりな掃討すればいいとはいえ、国を挙げた大事業になるのも無理はない。
その大事業でランクBまでしかいないとなると、正直厳しい戦いを強いられるのは目に見えている。
一体一体の対処に時間がかかり、掃討期間も長期に及ぶ。
長引けば長引くほどに、魔獣は際限なく生まれてきてしまう。
少なくとも、私はそんな軍を指揮したいとは思えない。
ソール連邦は長らくランクAが一人しかいない状況ではあったが、そこは知恵の使いよう。
軍のランクB以下が魔獣をある程度弱らせ、英傑がとどめを刺す。
この手法を確立させたおかげで、魔獣掃討を効率よく、かつ素早く行えていた。
「ここで本題。今現在、世界各国至る所で戦争が起きているのは知っていると思うけど、戦争の勝敗をどうやって決めていると思う?」
「殺し合い」
「……まあ、それもなくは無いんだけど、他の方法もあるんだ。――さて、どんな方法でしょう?」
「知らん」
考える気はないようで、私の質問をバッサリと切り捨てる。
また聞き直してもいいが、へそを曲げられてはことだ。
ため息をつきながら仕方なく答えを教える。
「――それは代理戦争だよ」
「代理戦争?」
答えを聞いたゼインが胡乱げな視線を投げかける。
「そう、代理戦争。これは英傑同士が雌雄を決することで戦争の行く末を決める方法なんだ」
「死ぬのが英傑になるだけで、結局何も変わらないんじゃないか? というか、英傑が死ぬ方が痛手って言ってなかったか?」
「戦争と名が付いているけど、そこには明確なルールが存在する。その中で、無用な殺生、故意の殺害を禁じているんだ」
ゼインの勘違いに補足を入れてもなお、腑に落ちない様子を見せる。
そんな彼に諭すように説明を続けた。
「――確かにゼインの考えている通り、いくらでもルールの穴をつく方法や、そもそもルールを無視する人もいる。でも、そうするとデメリットが大きいんだ」
「どんなだ?」
「一つ目は社会的信用を無くすこと。英傑は実力もそうだけど、特に名声が重要なんだ。それを自ら貶める行為は、後々、自分の首を絞める行動になりかねない。よっぽどのことがない限り、ルールを守ろうとするかな」
ゼインにしてみれば、あまり重要ではないだろう。
彼は名声には驚くほどに無頓着だ。
最近は妹分のおかげもあって、ようやく身なりも整いだした。
初めに会った時なんか、ボロボロすぎて心配になるレベルだった。
以降も、会うたび会うたび服が破れていたり、擦切れていたり、薄汚れていたりと大変手間がかかった。
部下の一人がよくお風呂場に連れて行って着替えさせていたのが懐かしい。
……いや、今でも時折見かける光景ではあるか。
物思いに耽っていた頭を軽く振り、説明に戻る。
「二つ目は賢人会の存在。ルール破り繰り返すと、賢人会から最後通牒が届く。それすら無視してルールを破ると指名手配されるんだ。そうなれば英傑といえども犯罪者。世界中から狙われては、どんな人間でも敵わないさ」
「……」
私の言葉で僅かに目を細めるゼイン。
確かに彼ならば、世界中を敵に回しても戦えるポテンシャルは秘めている。
ただし、その選択はできないだろう。――何に変えても守りたい相手がいるうちは。
内心でひとりごちると三つ目の理由を挙げた。
「最後に国としての立場。たとえその一回の戦争に勝てたとして、ルールを無視するような国が、その後、世界で発言権を得ると思うかい? 答えは否だ。――そういう訳で代理戦争のルールは順守されるんだよ」
「ふーん」
気のない返事ではあったが、内容は理解したようで納得した態度を見せた。
「最初の質問に答えるけど、これから会いに行くのはレルヒェ共和国の人間――代理戦争のお相手さ」
軽快に言い放つ私の隣で、ゼインは静かに目を細めていた。
◆◆◆
目的の場所、予定通りの時間に、私たちはそこで待つとある人と挨拶を交わす。
「やあ、久しぶりだね。今日はよろしく」
「こっちこそ、よろしくな!」
差し出した手を力強く握り、快活に笑う目の前の女性はレルヒェ共和国の代理人――ビアンカ・フリーデルだ。
彼女は長身で程よく筋肉の乗った長い手足に褐色の肌、灰色がかった緑の髪が波打つように肩まで伸びているのが特徴的だった。
それでも一番目を引くのは、服がはち切れんばかりの彼女の胸元。
動きやすい、かつ露出の多い服装も相まって、男女問わず視線がそちらに向くのもやむなしと言える。
そんなグラマラスな彼女だったが、私の隣のゼインに気が付くと、不思議そうに身を屈めた。
「坊主、今日は見学か? 確かにあたしに似た匂いはするけど、ちったあ早いんじゃないか」
「……」
声を掛けられてようやく彼女を振り向いたが、すぐさまそっぽを向いてしまった。
「ありゃりゃ、気に障ったかい? そりゃ悪かった」
ゼインの反応を見るや否や、すぐさま謝罪を口にして上体を起こす。
そのまま私に向き直ると、本題を投げかけた。
「こっちの準備は出来てるぞ。そっちはどうだい?」
彼女の言う通り、今回の代理戦争の見届け人である賢人会の職員もすでに到着していた。
「ああ、こちらも問題ない」
「そうなのかい? てっきりシモンが遅れているもんだと思ってたぜ」
彼女の言うシモンはソール連邦のランクA+の英傑、「冷林」のことだ。
「彼は今日来ないよ」
「お? そうなのか。じゃあ、今日のお相手はあんたかい、オーギュスト」
ゆっくりと首を横に振り、彼女の言葉を否定する。
「残念ながら、あなたのお相手は彼だよ」
そう言ってゼインに顔を向ける。
私に釣られるように彼女も振り向く。
視線を向けられた張本人は未だどこ吹く風。あらぬ方向を向いて無関心を貫いていた。
「あんたも冗談言うんだな」
「冗談じゃないさ。彼がうちの代理人だ」
「……正気かい?」
私の頭を心配するように、残念そうな目付きをする。
彼女からしたら、ライセンスを取って間もない少年を代理人に仕立てたように映るだろう。驚くのも無理はない。
まだ遅れてシモンが来ると思っている節がある。
仕方なく、登録書面を取り出して彼女に見せつけた。
「……本当だ、シモンじゃない」
目を点にしながら思わず独り言を呟いていた。
「ランクC+……」
自然と書かれてある内容にも目を通したようで、疑念の籠った眼差しを向ける。
「今回の代理戦争、連邦は捨てたのかい?」
独り言とも、私への問いとも取れる言葉に、含みのある笑みを浮かべて答えた。
「――戦えば分かるさ」
◆◆◆
結局、あの後は何も聞かれず、代理戦争を行う運びとなった。
書類上でも正式に登録されているので、文句のつけようがなかったからだ。
「……」
探るような目で相対するゼインを見つめるビアンカ。
視線を受け止めてなお、関心を持たないゼイン。
張り詰めた空気が漂う中、見届け人の職員が声を張り上げる。
「――只今より、レルヒェ共和国の『失潤』、ビアンカ・フリーデル対、ソール連邦のゼインによる代理戦争を執り行う。内容は『レムレリ鉱山の利権』について。――双方、相違ないか」
「問題ない」
「こっちも問題ないぜ」
私とビアンカが答える。
双方の同意を確認すると、職員は後ろに下がり、これから戦う二人から距離を空ける。
私の隣まで来ると開始を宣言する。
「――それでは、始め!」
開始の合図と共に、ビアンカがゼインへと急接近した。
長身の姿からは想像できないほど素早く、かつ姿勢を低くしてゼインの死角を突こうとする。
屈められた体をばねのように伸ばし、下から突き上げるように拳を振り上げた。
顎を正確に狙った一撃は、上体を逸らされて悲しくも空を切る。
躱されることを想定していた彼女は、そのままの勢いで膝蹴りを繰り出す。
またしても躱すのかと思いきや、いつの間にか足を地面から離していたゼインが彼女の膝の上に乗り、踏み台にしながら勢いを利用して空へと舞い上がった。
「――っ!」
目を見開きながらも、すぐさま反転して、彼の着地を狙うビアンカ。
「は――?」
振り向いた先には、すでに地に足を付けて立ち尽くすゼインがいた。
あまりの光景にビアンカの動きが止まる。
彼女は見えていないだろうが、ゼインは空中で身を翻して逆さになりながら足場を一瞬だけ作り、地面に着地していた。
ゼインの作り出した足場を捉えられなかったであろう隣の職員からしたら、ゼインが急に空中で加速したように見えたことだろう。
ビアンカが止まっていたのは一秒にも満たなかった。
さすがと言うべきか、すぐさま戦い方を変えた。
初めは一発でノックアウトを狙っていたようだが、今はジャブやフックを多用し、ストレートや蹴り技を誘いに使っているようだった。
しかし、どの攻撃もゼインは見事に躱していく。
紙一重とはいかないが、最小限の動きで躱そうとしているらしく、ビアンカから半歩も離れていない。
「――シッ!」
幾度の攻防か――。
ゼインはビアンカのストレートを大きく身を翻し、距離を取るように後ろへ跳んで躱した。
そんな彼をビアンカは鋭く息を吐いて見届けた。
見れば彼女の額には汗が流れ、肩で息をしていた。
そんな状態でも瞳には闘志が燃え滾り、口角が上がっていた。
ゆっくりと腕をおろして構えを解くビアンカだったが、おもむろに笑い声をあげる。
「アッハッハッハッハ。――いいね。いいぞ、坊主!楽しいじゃないか!!」
頬は上気し、瞳は爛々と輝く。
口角は溢れんばかりに上がり、綺麗な白い歯を覗かせていた。
そんな彼女と相対しているゼインは、いつもと変わらない無感動さで二人の落差が酷かった。
「つれないなぁ。もっと楽しもうぜ」
「楽しくない」
ビアンカのお誘いをゼインはすげなく断る。
たぶん、彼女の言葉の意味を理解していない上での発言なんだろうが、言葉が悪かった。
ゼインの一言で彼女の心にさらに火をくべたようで、魔力が迸る。
それすらも多少視線を動かしただけで、ゼインの顔には無関心さがこびりついていた。
「――なら、楽しくさせてやるぜ!!!」
先ほどの比じゃないスピードでゼインに詰め寄ると、目にも止まらぬ速さで連打を繰り出す。
拳で巻き起こった風が二人の周囲の砂を巻き上げ、土煙で覆い隠す。
風切音が私の耳を撫でる。
風圧がこちらまで届きそうな程の勢いだった。
彼女の右ストレートが土煙を吹き飛ばし、二人の姿を露わにする。
彼女の拳はゼインの顔のすぐそばを掠め、頬に僅かな傷を残す。
「――チッ、すまし顔を崩せなかったか」
悪態をつくビアンカになおも表情を変えないゼイン。
「魔法は使わないのか?」
「――あ?」
ドスの利いた彼女の声にも動じず、見上げたまま動かない。
「――フン。ここまでして勝てなかったんだ、あたしの負けだよ。そもそも坊主、ランクC+じゃねぇか。全力でやるなんて、あたしのプライドが許さないよ」
「そうか」
腕を組んで不敵な笑みを浮かべるビアンカに、ゼインは興味を失ったように視線を逸らした。
二人の戦いを見守っていた職員は、我に返って口を開く。
「――そこまで! 勝者、ソール連邦のゼイン!」
これで当初の取り決め通り、「レムレリ鉱山の利権」はこちらのものとなった。
正式な書類は後ほどだが、職員が結果を持ち帰ればそのうちに用意されるだろう。
そんなことを考えていると、ビアンカが突拍子もないことを口走る。
「よし、代理戦争も終わったことだし、もう一戦やるか!」
隣にいた職員は口をあんぐりと開けて固まった。
私も意味が分からず目を細める。
「おいおい、どこに行くんだ坊主。これから全力で戦おうってのに」
すでに踵を返して帰ろうとしていたゼインを呼び止める。
ビアンカの呼び声に足を止め、ゆっくりと振り返った。
その瞳には若干の色が見て取れた。
「おっ、やる気になったか。なら、胸を借りるとすっかな」
「――ちょっとお待ちください。代理戦争は終わったんですから、無用な争いは……」
言葉を濁して止めようとする職員をビアンカは笑い飛ばす。
「なぁに、ちょっと摸擬戦するだけだって。ケンカじゃないから問題ないだろ?」
朗らかな笑顔で言い切るビアンカ。
何か言い返そうとした職員の肩に手を置いて止める。
振り返った職員に首を振って詮無いことと伝えた。
肩を落として盛大にため息をついた職員は、疲れたように「私は見なかった」と繰り返し呟いていた。
「よし。問題なくなったし――やるか」
獰猛な笑みを浮かべてゼインに向かって構えを取る。
彼も構えこそ取らなかったが、ビアンカに向き直って見つめ返す。
仕方ないとばかりに肩を竦めて私は一歩前にでる。
「合図は私が出そう」
右手を空へと掲げる。
タイミングを見計らって掛け声と共に振り下ろした。
「――始め!」
◆◆◆
ビアンカは宣言通り、全力でいくようだ。
スピードは先ほど見た通り。ただし、今回は連打ではなく、ジャブやフック、蹴りを織り交ぜた総合格闘技だった。
フェイントや誘いも織り交ぜ、時には掴みかかろうともする。
その悉くをゼインは躱し、いなしていた。
今回はゼインも攻撃を入れているようで、時折鈍い音が響き渡る。
彼の攻撃は掌底メイン。
蹴りも行っているが、まだまだ練度が足りないようで、ビアンカには簡単に捌かれてしまっていた。
二人の攻防は目まぐるしい。
ビアンカはその長身と長い手足を活かして絡めとるような動きを見せ、ゼインはその俊敏さと身軽さを活かして縦横無尽に動き回る。
正直、今の状態では目で追うのもやっとだ。
そんな素早い攻防の最中、ゼインの足元が急に砂になる。
ちょうどゼインが踏み込むタイミング。
ビアンカが魔法で彼の足元ピンポイントを砂へと変えたからだ。
そのまま足を取られて強みが奪われる――。
私の予想を嘲笑うかのように、ゼインは平然と攻撃を続けていた。
「なっ!? どうして足が止まらないんだ!?」
その光景には私も驚いたが、仕掛け人であるビアンカの驚愕は計り知れないだろう。
慌てて距離を取るようにビアンカは後ろへ跳び退く。
「坊主、どうやったんだ?」
「何がだ」
「あたしのさっきの魔法、どうやって防いだんだい?」
「教えると思うか?」
「……いや、悪かった。忘れてくれ。――それにしても、すげぇな。その歳であたしより強いなんて」
怪訝そうな顔が一転して、屈託のない笑顔でゼインを褒め称えるビアンカ。
そこには先ほどまでの険悪な空気はなく、戦闘の雰囲気もどこかへ行ってしまったようだ。
彼女は気付けなかったが、ゼインが砂に足を取られなかった理由――それは、彼が空間魔法で足場を作っていたからだ。
私も先程までは空中だけにしか作っていないと勘違いしていたが、どうやら地面であっても関係ないようだ。
後から教えてもらったが、踏み込む力に合せて強度と力場を調整しているらしい。
力場は移動する勢いの補助。これによって圧倒的なスピードを手にしているそうだ。
強度も踏み込みで割れない程度に硬く、都度作っているそうだ。
なぜそんな面倒なことをするのかと尋ねると、彼はこう言った。
「魔力が無駄だろ。維持させるのも余計に硬くするのも」
「……いや、毎回作る方が手間だと思うんだけどね。それに、維持より生成のほうが魔力を使う気がするけど」
「そんなことはない。生成も維持も使う魔力は同じだ。違うなら魔力操作がなってないだけだ。同じなら、毎回作り直したほうが踏み抜く心配もないし魔力の無駄が減る」
彼の言い分に釈然としないものがありながらも、反論する材料がない私は黙って頷くことしかできなかった。
感慨に耽っていると、ゼインが私の元に近寄ってきた。
後ろにはビアンカがくっついてアドバイスをしていた。
「――もっと格闘技を鍛えたほうがいいぞ! 速さは十分あったけど、技のキレが少し物足りなかったな。特に足技」
「オーギュスト、こいつ離して」
仏頂面で泣き言をいうゼインに思わず吹き出しそうになる。
誤魔化すように咳ばらいをすると、ビアンカに話しかけた。
「すまないね、ビアンカ。この後も予定があるから、この辺で失礼するよ」
「――っと、すまねぇな。お前の言う通りだったぜ、オーギュスト」
またどこかで、と言って別れの握手を求めるビアンカ。
「ああ、どこかで」
握り返して別れを告げる。
「じゃあな、坊主! また戦おうぜ!」
ゼインに手を振りながら、ビアンカは無邪気な笑顔を見せる。
それに反応せず、私を急かすようにゼインが先に歩き出した。
軽く礼をしてその場を去る。
ゼインに追いつくと揶揄うように声を掛ける。
「良かったじゃないか、気に入られて」
「良くない。あいつ、面倒」
不機嫌なゼインをどう宥めすかそうか考えながら、二人で帰路に就いた。
一言メモ
・代理戦争は普通、ランクB以上が代理人になります
・ランクA以上になると「英傑」と呼ばれます
・ゼインが言っている「(魔法の)生成も維持も魔力は同じ」ですが、ゼインが使ってる魔法が複雑すぎてそうなっているだけで、一般的な魔力消費は「生成 > 維持」です
他で書くか微妙でしたので、補足程度に。




