09
ある日の夕方。AICTの本社ビルにある風の自室に、部屋の主が帰ってきた。風は出された課題の入った通学カバンをその辺に放り投げる。(彼はきっと、明日の朝に「課題やった?」と先生に問われて「何それ美味しいんですか?」と返答するだろう)
制服のブレザーをハンガーに掛け、両腕につけていた薄型プロテクターを外す。仕込みナイフ内蔵の優れものだ。
そして刺突武器のホルスターを腰から外し、壁に掛ける。
浴室に移動した風はワイシャツは脱いで洗濯機に入れ、その下に着こんでいた防刃チョッキもイン。ズボンも脱ぎ捨て、シャワーを浴びようと蛇口をひねる。
初めは冷たい水が出てくるが、お構いなしに体を洗い始める。風は、いつ召集がかかってもいいように、入浴はなるべく早く済ますようにしている。
そのため銭湯などへ行く機会があると、周りのお客さんに怪奇の目で見られる。烏も真っ青の行水時間なのである。
そしてこの日、案の定召集がかかった。
間一髪で体を洗い終えていた風は、いそいそと着替えを済まして会議室へ。
会議室内には、今まで見たことのないほどの人数が詰めかけていた。視線をめぐらせてみると、虎に唯人、梨奈の姿までもが見て取れる。
演台の後ろには、いい身なりのおじさんがいた。
――引き締まっていて、いい体してんな。強いんだろうな。
そう感じた風は、虎のもとに移動して、尋ねる。
「あれ誰だ?」
「っ!?…あぁ風か。
いくら風でも知らないのは問題だと思う。あの人一応、防衛課の――」
虎がそこまで言った時、唐突に会議室内が静まり、スクリーンにどこかの画像が映し出された。
「迅速な集合、感謝する。私は、AICT防衛課、課長の草薙 駿だ。今回の作戦行動に当たって指揮権は私が受け持つ」
厳格な雰囲気をたたえて話し始めるこの男こそ、防衛課のトップである。その彼がこうして指揮を執るのだ、かなりの大事であることが予測される。室内の緊張感が一気に高まった。
駿が指を鳴らすと、部屋の電気が消えた。同時に、スクリーンに光がともる。
そして映し出されたのは、どこかの港。
色とりどりの船舶用コンテナの間に、積み下ろしに使われる巨大なクレーンが林立している。
そんな港の中に、場違いな船が一隻。
「Tolmaline」と書かれた船体は、それが客船であることを主張している。
「本日、諜報部がとある情報を手に入れた。詳しい場所は後述するが、日本国内に停泊中の客船内で、特殊部隊の構成員を発見した。多国籍軍一個中隊規模が入国、武器を所持している模様である。日本の国土を脅かそうとしているものと思われる。作戦行動はフタサンイチマル、港のコンビナート内で迎撃を開始する。詳しい情報は、支給デバイスに送った。各自確認しろ。指揮は各部の部長が執り行う!!
我々は、この国の安全と我が血族の安寧のために、最大戦力をもって迎え撃つ!」
駿の言葉が終わると同時に、彼らは行動を開始する。ある者は支給されたスマホを開き作戦を確認し、ある者はサポート体制の構築に勤しむ。医療班も、久しぶりの大仕事と気合を入れている。
そんな中風は、自室へと戻る。支給されたスマホを置いてきてしまったのだ。その途中で、唯人とすれ違う。
「私の持てる技術は、教え込んだ。あとは風が自分のものにするだけだよ。風は、生きて帰っておいで」
いつにもまして暗く、いつにもまして優しい目でそんなことをのたまう唯人。風は深く考えず、「分かった」と頷いた。
自身の作戦行動を確認し、武器の手入れを行う風。
刺突武器のグリップを巻きなおし、カーボンファイバー製の戦闘服に着替える。煙玉と爆薬一式も持った。夜間ということもあり、サーモグラフィーグラスも用意した。後は、時間が来るまで待つだけである。
「なんか、落ち着かない。胸騒ぎがする…」
そう。待つだけだ。待つだけなのだが、風の心は穏やかではなかった。風自身も制御しきれない胸騒ぎが、頭の中を埋め尽くす。
しかし、いくら考えど心当たりはなく。仕方なしに、コンビナート周辺の情報を検索し、頭に詰め込んでいく。戦場では、どんな情報が生死を分けるか分からないからだ。
――今夜は、晴れ。風は微風。風向きは西、路面状況は良好。
…もうそろそろ、梅雨明けか。
向こうの船舶は客船、五千二百トン級。…乗船人数、百人から百五十人と推測。
…心の中は終ぞ、落ち着くことはなかった。
が、もう時間だ。一切の雑念を振り払って、風は出陣する。
<書く機会をうしなってしまった防衛課の組織図>
AICTー防衛課 =課長:駿
| 仕事:各部の総括
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|ー諜報部 =部長:梨奈
| 所属:梨奈
| 仕事:諜報工作活動・戦術立案など
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|ー機動部 =部長:唯人
| 所属:風
| 仕事:暗殺など武力行使
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|ー技術部 =部長:虎の父
所属:虎
仕事:ハッキングその他の後方支援
因みに医療班は、技術部の中の”班”です。
部内でもまた役割ごとに細分化されており、役割ごとにOO班と呼ばれます。




