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03


 近代的なエントランス。ガラスから差し込む日光が美しい。しかしその構造は、正面からの侵入者を袋叩きにできるようになっている。

 風は、そう感じた。

 ――防火シャッターの位置が不自然だ。明らかに侵入者を囲い込む魂胆で作られている。ガラスはすべて防弾で、低い位置に換気口。そうなると、水を張っての感電か、毒ガスでも散布する気か…


 警戒度を高めた風だが、何食わぬ顔で受付へと進む。


 「先日メールでお伝えした白鳥悠馬と申します」


 名前はもちろん偽名だ。そしてメールも、生体認証の数値も偽装。なお、それらの偽装は虎の仕業だ。

 受付嬢は、モニターを確認したのち、人当たりのいい笑みを浮かべる。


 「あぁ、聞いております。白鳥悠馬さんですね。こちら、入場許可証です」

 「ありがとう」


 入場許可証を使ってゲートを通過した風は、勝手知ったる道を歩くように進んでいく。建物の見取り図を頭に叩き込んである。

 そして風は階段を降り、地下一階へと向かった。目的の通路前にたどり着くと、誰も見ていない隙に『KEEP OUT』と書かれた扉を開ける。その先は狭い通路になっている。

 扉の向こうは、突き当りまでに誰もいない。そのことを確認した風は、ドアの隙間からするりと侵入し、後ろ手に扉を閉める。

 が、瞬間、警報が鳴り響く。ドアからカチャッという音がし、鍵がかかったことが手ごたえで伝わってくる。


 『指紋が正常に読み取れませんでした。侵入者の可能性があります。繰り返します。侵入者が――』


 その音に呼応するように、通路の向こう側からは足音が聞こえてくる。


 「チっ、ドアノブの裏に指紋認証機能か。ヤなことしてくれる」

 『風、どうする気だい?』


 悪態をつく風。そのイヤホンから、慌てた様子の虎の声が聞こえてくる。周囲の音は虎にも伝わるが、カメラがないので詳しい状況までは分からないのだ。

 

 「安心してろって。さすがにもう失敗はしない」


 言い切ると同時に駆け出した風。瞬時に突き当りまで移動し、そこから顔を出した一人目の顔面に蹴りを入れる。同時にその男が隠し持っていたスタンガンを奪い、それを使って二人目を気絶させる。三人目は拳銃を取り出そうとするが、瞬時に間を詰められスタンガンで昏倒。

 他に人がいないことを確認し、三人共が気絶していると確証を得た風は息を吐く。


 「虎、今三人組を倒したんだけど、こいつらの体を隠せる部屋みたいなのは近くにない?」

  

 スタンガンをしまい込み、三人目の男が持っていた拳銃を弄びながら、虎との通信を始めた風。その目線は油断なく通路の先を見据えたままだ。


 『少なくとも図面上にはないな』

 「そっか」


 虎の返答に短く答え、即座に思考を切り替える。

 手に持っていた拳銃を懐にしまい、床の上で寝ている三人組に対して簡易的な身体検査をし始める。

 脅威に足るものを持っていないことを確認し終わると、風はクリアリングをしながら奥へと進んでいく。監視カメラの類は虎のハッキングによって無効化され、侵入者の姿は映らない。

 風に向けて追手が来ることもなく、すいすいと進んでいくことができる。先程の男たちが(気絶している為)騒いでいないことから、システムの誤作動と勘違いされたのかもしれない。

 だが風は、嫌な予感がぬぐい切れていなかった。


 ――さっき警報が鳴ってからあの男たちが駆けつけてくるまでのタイムラグからして、もっと人員が配置されているかと思ったんだが…


 そう思っていた矢先。曲がった先にある監視カメラが動き出した。

 風はすぐに引き返し、壁際に張り付いて死角に入る。これで、カメラに映ることはなくなったと思っていいだろう。


 「ちょっと待て虎、ハッキング出来てないんじゃ!?」


 慌てたようにいう風に、虎が落ち着いて返す。


 『安心しろ。一つ残らず管理下にある…』

 「あぁ、()()()()管理下にあるんだろうよ、っとぉ!?」


 虎と話しながら、風は戦慄した。件のカメラに映る位置にハンカチを投げたところ、即座にハチの巣にされたのだ。

 穴だらけのハンカチは、ひらひらと舞って地面に落ちた。


 『どうした風、状況は!?』


 ガガガガっという発砲音が聞こえたのだろう。慌てた虎が、状況を聞いてくる。


 「恐らく自立型のオートマシンガンが、防犯カメラに偽装されている」

 『くそっ、セキュリティが若干甘い気がしたのはこれを隠すためか!?』

 「いや、それに関してはここまで侵入されること自体が想定外だったのかも…」


 表面上は冷静に見える風。が、内心ではかなり焦っていた。それは、今まで以上に鋭くなった目元からも見て取れる。

 壁を背にして立ち、カメラの死角になる場所で風は考え込む。


 ――下手に顔を出せば、カメラに映った歩き方のクセや体格から身元が割れる可能性もある。そのリスクを負って姿を見せたとして、ハチの巣になるのは目に見えている。かと言って周囲一帯を破壊するのはさらにリスクが大きく、そのための道具もない。……ならば。


 顔を上げ結論を出した風は、スーツの上着を脱ぐ。

 実はこのスーツ、かなりの高級ブランドの物なのだが、風には関係ない。どうせAICTの裏帳簿から経費で落ちるのだ、使いつぶすのが正しいとさえいえよう。


  ――銃口は一つ。カメラも、一台。なら、攻略できる!

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