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二人がジョージを見つけた、その翌日。
虎の部屋いっぱいに私服を広げる風の横で、虎は特大のため息(もしくは、悪態)をついていた。
「はぁ…確かに、最低限の身支度すべきだって言ったのは俺だよ? でもだからと言ってこれからファイアウォールの修復作業があるんだこちとらよぉ!」
「昨日はそんなこと一言も言ってなかったじゃねぇか!」
なぜこのような状況に陥ったのか。それを説明するためには、朝食時の二人の会話を振り返ってみないといけない。
三十分ほど前。二人は、AICT本社ビルの居住棟、その一角に作られた食堂に足を運んでいた。
食堂では、希望する人向けに毎日、三食を提供している。
普段から、”栄養・見た目ともに学食並み”という定評のあるそこを利用している風と虎。自炊という単語から無縁の生活を送っていることが覗える。
そして今日も、当たり前のようにやってきた二人。
「今日の定食を一つ」
「……風と同じものを」
風の注文に追従した虎は、受取口まで死にそうな歩き方で歩いていく。
その背中を、哀れなものを見る目で一瞥した風は、元気にさっさと歩いていく。
「……なんで俺がこんな早起きせねばならんのじゃ」
「完全に口調が爺化してるぞ、虎」
「しょうがなくない…? 今まだ五時半だよ……!?」
心なしか、感嘆符さえもしょぼくれているように思えるような発言。
さすがの風も、「そうだよなー」と同調する。
「だが、お前がそんなになってるのはゲームのし過ぎと夜更かしのせいだアホ」
「早起きできないの知ってるくせに」
「それとこれとはカンケーない、ほら定食持ってやるからしゃっきりしろ」
そう言って、片手に二つのトレーをのせて、もう片方の手で器用に水をくむ風。
それをただ見守っていた虎は、まだ開いていない目をこすりこすり口を開く。
「今日だって、ファイアウォールの修復に叩き起こされなかったら、もっと寝れてたんだよ」
「どっちみち六時になったら、俺がお前を叩き起こしてた」
テーブルにトレーを置いて、椅子まで引いてエスコートしつつ言う風。そして、それにお礼をいうでもなく問い返す虎。
「なんで」
「自慢だが、ろくなファッションセンスがないんだ俺は。だからお前に真凛と会う服見繕ってもらうつもりだった」
その言葉に、忘れてたとばかりに口を大きく開く虎。
それを見ていた風は、顎が落ちたかと一瞬思い、手に持った箸から米粒がぼろぼろ落ちるのを見て頬を引きつらせる。
「こういう時は制服でいくのがいいんだろうか」
「絶対やめな」
そういえば今日は、風が真凛と会うんだった。そう思いだした衝撃で幾分目が覚めた虎。
箸の先を、風に突き付けて言い放つ。
「今日の待ち合わせに、制服でいくという選択肢はない!」
のびた納豆の糸が、箸と口の間に垂れ下がってアーチを作る。
それに気が付かず、決まった!という顔をする虎。
間抜けの寝坊すけが…という顔をする風。
「分かったよ、Mr納豆」
「誰がMr.nattoじゃ」
「無駄に発音いいのむかつくなぁ……」
その後もしばらく無駄話を続けていた二人だが、二人ともが完食したのを機に部屋へと戻っていった。
虎は風と別れたあと、自室の扉を開け放して食堂へ行っていたことが分かり泥棒が入っていないかと慌てた。が、よく考えたらここは顔見知りばかりだし、外部の人間の侵入もほぼ不可能。安心して、パソコンの前に座る。
(風が、放送がかかってなお起きてこない虎にしびれを切らして開け放ち、そのままになっていたというのが事の真相。この扉、建付け悪くなったなというのが虎の感想。)
「やっとうるさいのがいなくなった、これでファイアウォールの修復準備に取り掛かれる」
そう言って、パソコンの起動するキュイインという音をBGMに思考を回す虎。
――ファイアウォールの再構築時、新旧の入れ替えの時。一瞬だけセキュリティが機能しなくなる瞬間があるはずだ。
この隙に侵入すれば、きっとお父さんの死の真相が、分かるはず。<グリモワール>から得た情報は、浅すぎたから…
その時背後で、ドアが大きな音を立てて開けられる。
今度こそ泥棒か!? と身構える虎。恐る恐る振り返り、入り口を確認する。
するとそこには、大きなスーツケースを持った風が立っていた。
「何してる!? その荷物は!?」
「コーヂネート教えてもらおうかと思ってさ♪」
そして、冒頭につながるわけである。
「…そもそも機密時保持の観点から、ファイアウォールの修復みたいな重要なことは当日通達されるんだよ。おかげさまで俺は、今朝早くから叩き起こされたんだよ。大音量の放送が入ったせいでさぁ。
……あれ? 風にベッドから落とされたんだっけ? ……。分からん。まあいいや。
そして関係する構成員はその日、居住棟から出れない。だから俺は風についていかない」
「そうだったんだ、たいへんだね」
他人事のように言う風に、虎はもう一言二言、いや三十言くらい言おうかと口を開きかける。
が、風が取り出した服を見て面食らった。
「この野郎…そしてなんだその趣味悪い服! 厨二病か!」
「これ着てくのもいいかと…中二病!? これが!?」
「どこの世界のまともな人間が、パンクファッションに身を包んでいくかっての」
「背中に竜もしょえるんだよ? 一石二鳥じゃない?」
「ヤクザかよ!?」
虎の絶叫が、居住棟全体に響き渡った。
そして一時間後、午前七時。風のセンスは虎によるありがたいお説教の前に更生し、生まれ変わった。
(大人の階段を上りそこねた人間が、お虎様の糸によって引き上げられたともいう。)
虎は疲労困憊の中、思った。
――こんなんで俺、ちゃんとサーバに侵入できるのかなぁ…
虎:「何でお前、変装の時はまともなのに…」
風:「父さんにみっちり仕込まれたからな」
虎:「じゃあ何でこんなおかしなセンスになれる!?」
風:「ほら、変装の時は着替えに合わせてメイク必須でしょ?
けど今日虎は、真凛と会うのに特殊メイクはいらないって怒ったでしょ? それと一緒だ」
虎:「…………」
風 is win!




