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「…つまり?」
「一度は<グリモワール>に侵入されたけど、何とか押し返した感じってこと」
「勝ったってことか?」
「一部内部情報を抜かれてるからね…完全なる負けだよ」
虎を含む防衛課の面々がモニターの前で奮闘していたころ、風は何が起きているのかもわからないまま暇を持て余すしかなかった(普段の不勉強がたたって、奴にはセキュリティ関係のことが全く分からなかったようだ。それなのにも関わらず、奴は、まったく懲りていないのである)。
そして攻防がひと段落したのち、こうして風と話しているわけだ。
今二人がいるのは、会議室内。いつまたバックドアが開くかもわからないので、念のための待機中。
「あっ」
「どうした虎?」
不意に、虎が何かに気が付いたような様子を見せた。
それに反応する風、だがそれは「いや、何でもない」の一言でごまかされる。
――<グリモワール>が開けたファイアウォールの穴からなら、防衛課のサーバにアクセスできる。
そこになら、お父さんの死の真相が置いてあるかもしれない。
その時虎は、そんなことを考えていた。
だがそれを風に伝えなかったのは、他人に聞かれたら困るという理由だけではない。
自分が生まれた時から所属し、信頼を寄せてきたAICTという組織が、実は父の敵であったなど、信じたくなかったのだ。
この組織が風と虎の敵であると決まったわけではない。そう思い込むことで自分のよりどころを守り、風と共有することで崩れそうなAICTへの信頼をできるだけ長持ちさせるための、自己防衛。
虎は自分の足元が揺らぐような感覚に陥る。話題を変えようと、虎は風に話しかけた。
「風。<グリモワール>についてどう思う?」
「今まで聞かなかった名だな、としか思わない」
「……。セキュリティの責任者だったお父さんが死んでから、次に引継ぎがなされるまでのこの短期間に攻撃された。しかも、あんまり聞かないような組織から、セキュリティの穴をピンポイントで狙われてた」
風は虚を突かれた思いだった。そんなことまでは考えてもいなかった。否、夕食のメニュー以外何も考えていなかった。
だがそうとするならば――。
「「<グリモワール>に情報を流した人がいる」」
示し合わせたわけでもないのに、声が被ったことに虎の頬が緩む。だがそれは刹那、すぐにまじめな顔に戻って虎は言う。
「この組織も、思ってたより一枚岩でもないのかも」
「それが、あの件と関係があるかもしれないってことか?」
あの件とはつまり、唯人たちの毒殺事件。
その下手人が、もし外部組織側の人間の仕業ならいい。そう思ったのは、きっと虎だけではないはずだ。
二人がかすかな希望を抱き始めた時。
眼前のスクリーンが、真っ赤に染まった。
『WARNNING! サーバに不審なアクセスがあります。当該ユーザーは管理者権限で実行中。繰り返します。サーバに不審なアクセスが――』
虎は迅速に仕事もーどに切り替わる。
手持無沙汰になった風は、その仕事を背中越しに眺めていた。
風の頭の中は今度こそ、唯人たちの件についてで埋まっている。
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結論から言うと、それは<グリモワール>による再度のハッキングだった。
だが今回は待機していたサイバー班の面々のお陰で大事にならず、この件は一旦の落着をみせた。
しかし一度ならず二度までも防衛課のサーバにアクセスし、そして一度は情報を抜かれたのは事実。そしてそれを上層部が見逃すわけがなかった。
事態を重く受け止めた駿は、<グリモワール>のリアルでの殲滅を決断。今回は機動性よりも徹底的な壊滅を重視する。そのため、まずは人員を<グリモワール>内部に送り込み、それを起点に組織を壊滅させることに決まった。
もちろん風は例のごとく機動隊に選ばれた。
そして虎は、実年齢の低さから警戒されにくい、という判断で<グリモワール>内部への潜入を要請される。
虎にとっては初の潜入任務。それが今回の作戦の中核を担うものであるということもあり、その心境は計り知れるものではない。
だが少なくとも、(風を含む)機動隊が虎のことを影から護衛してくれている。その事実は虎を大いに勇気づけた。
そんな虎の当日の格好は、眼鏡をかけジーンズにジャケットという、「できる若者」をイメージしたものだ。きっと、いや絶対、梨奈の趣味が反映されている服のチョイスだ。
「似合わねえだろ、これ」
とは風の言。虎自身も、同意したい。だが風に言われたことは癪に障る。よって、拗ねる。
内心では、緊張をほぐしてくれたことに感謝しながら。
そんなやり取りがありつつ、虎の初の潜入任務を開始する日がやってきた。




