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 そして教室に戻った二人を待っていたのは、クラスメイトの冷たい視線と、先生の「二人は放課後職員室にきてください」の一言。前途多難である。




 遅刻の代償は、大きかった。

 夜、何とか説教から解放された二人。

 屋上という隠れ場所は鍵を掛けられ、もう手の届かないところになってしまった。

 まあ風に言わせれば「あの程度の南京錠、ピッキングくらい目隠ししててもできるわ」だが、建前上は入れないことにしておくのが無難だ。


 「はぁ、大分遅くなった」


 帰り道。虎は、呟いた。

 先を歩いていた風は、虎の方に振り返って、言った。


 「でもおかげで、虎、お前の気も晴れただろ? 朝よりは格段にいい顔してるぜ」

 「そりゃ復讐心を心の中の宝箱にしまい込んだからね」



 ふと空を見上げた虎の視線の先には、明るい星が一つ、瞬いていた。

 今夜は、晴れそうだ。


 「ねえ風」

 「ん?」

 「…いや、何でもない」


 虎の心の宝箱には、復讐心のほかにもう一つ、仕舞いこんだものがある。

 今もれそうになったその本音を、もう一度宝箱に押し込み、大切にカギをかける。

 しまい込まれたモノが何かを知っているのは、虎本人だけだ。



 ・

 ・

 ・



 そして。

 彼らは、”何気ない日”を演出する。ほとぼりが冷めるまでは、何も行動は起こさないと決めたのだ。

 だが現実は、そううまくは運ばない。


 屋上の一件から数日後、風と虎が教室で談笑していたその時だ。二人が草薙家から支給されている端末が、振動した。


 ――二回。ランク1の緊急招集か。


 風と虎は視線を合わせると一つ頷き、一芝居を打った。

 まず風がせき込み、同時に口の中を少し噛み切る。するとなんと、吐血する男に早変わり。


 「先生! 風君が具合悪そうです!」


 あとは虎が慌てたように言えば、先生は「病院行ってこい、早退届は書いといてやるから」と返すしかない。

 何度も使える手ではないのが困りものだ。でも、今回はこれで乗り切れるのだから十分。

 先生には心配を掛けさせたな、と思う風だったが、まあいいやの精神で忘れ去る。




 会議室に二人が駆けこむと、そこで待っていたのは阿鼻叫喚の地獄絵図。

 普段は最低限の物しか置かれていない会議室内だが、今日は足の踏み場もないほど大量のコード類が落ちている。そしてそれがつながっているのは、正面に用意された巨大モニターと無数のパソコン。

 パソコンの前にはそれぞれ防衛課のメンバーが座っている。

 普段電子関係の仕事を行うのは技術部サイバー班。虎の所属する班だ。だが今は明らかに、他の班からも応援がきている。その分野のスペシャリストであるサイバー班総出ですら人手が足りていない状況。それほどの非常事態。

 つまりそれが意味することは。


 ――防衛課の存続さえ危ぶまれるような危機が迫っている。


 直観的に判断した虎は、空いている席を見つけると、そこに座って状況の把握に努める。


 「…<グリモワール>?」


 一方、モニターを見ていた風は、そこに表示されている見慣れない組織の名前を呟いた。





  ◇




 今何が起こっているのか。

 その全容を正確に理解している者は、誰一人としていないだろう。


 虎はそう思った。

 そう思うしかないほど、混沌とした状況だった。


 ――察するに、AICTのメインサーバに<グリモワール>とかいう組織からハッキングを受けた。

   でもセキュリティの管理をしてたお父さんが死んでて、その穴も埋まってない状況だったから初動が遅れて、今必死こいて<グリモワール>をサーバから締め出そうとしてる、ってとこかな。


 とりあえず目についたログを読みつつ、虎は考える。

 その思考は加速し、高速で流れるログは『盤面』として虎の頭で再構成される。

 複雑なハッキングは、単純なゲームに置き換えて考えるのが虎の癖だった。



 ――ここからはRPG風味でお伝えします――



魔王(グリモワール) が あらわれた!

魔王:「ここが人間の宝物庫(防衛課のメインサーバ)か…何を持っていこうか…」


騎士:「待て! それ以上の侵入は許さない!」


魔王:「その程度の力で、我を止められると思うか?」


騎士:「ぐわーッ!! だが…すぐにでも応援が来るだろう、魔王よ」


騎士 は 警報 を鳴ら(ウイルス感染警告を)した(出した)


魔王:「それにしてもここには頑丈な(ファイアウォール)が付いているようだな…まあこの我にしてみれば、そんなものなど紙に同じ…」


??? :「させん! 【サイバーキック】!」


??? の サイバーキック が クリティカルヒット をした!

魔王 の 体力 が 330 削れた!

魔王 の 体力 が 0 になった時、魔王 はこの(サーバ)から 雲散霧消 するだろう!


魔王:「お前は…! 誰だ? これからこの扉を破るところだというのに、邪魔をするでない!」


??? :「私は、勇者(サイバー班の人間)だ!」


魔王:「小賢しい…出でよ、我が忠実なる下僕よ! 【転移門出現】!」


魔王 は 転移門 を 出(バックドア) 現 させた(を開いた)

転移門(バックドア) からは 悪魔(新たな侵入者) が湧き出てくる!

魔王 は(ファイアウォール)に 拳を叩きつけた !

扉 の 体力 が 430 削れた!


勇者:「なにっ!? …くっ、こうなってはこちらが不利だ……。【緊急招集】!」


勇者 は 緊急招集 を 発令 した!

勇者 は 緊急招集 を 発令 した後、しばらくの間 行動不能 になる!

勇者 の 応援 が ぞくぞくと駆けつけてきた!


魔法使い:「【フレイムバースト】っ!」


魔法使い は 悪魔 をやっつけた!

転移門 の 体力 が 30 削れた!


僧侶:「【ヒール】!」


聖騎士:「【カバーガード】!」


僧侶 は ヒール を使った!

(ファイアウォール) の 体力 が 250 回復した!

聖騎士 は カバーガード を使った!

魔王 の 扉 への攻撃が 聖騎士 に吸収された!

聖騎士 の 体力 が 530 削れた!

魔王 は 聖騎士 をやっつけた!


魔王:「フハハハハ、これでお前だけだな、僧侶! 【ダークラッシュ】!」


魔王 は ダークラッシュ を使った!

僧侶 の 体力 が 320 削れた!

魔王 は 僧侶 をやっつけた!

扉 の 体力 が 600 削れた!

扉 が壊された!






賢者&魔法使い:「「【フレイムバースト】ぉ!」」


賢者 は フレイムバースト を使った!

魔法使い は フレイムバースト を使った!

転移門 が壊された!



勇者 が動けるようになった!



勇者:「魔王よ、覚悟するがいい! 【マルテアソード】!」


勇者 は マルテアソード を使った!

勇者 は 魔王 をやっつけた!




you win!






 虎は、キーボードをたたくのをやめた。


 ――この後の処理は、きっとほかの人たちがやってくれるだろう。


 そう考えて、虎は、目を閉じた。目が潤むのは、きっと、集中し過ぎてドライアイになっていたからだ。決して、この攻防に、父のいないが故の穴を感じてしまったわけじゃない。

 自分の心にそう言い聞かせて。虎は、袖で目頭をぬぐった。





『緊急招集(ランク1)の発令時においては、それに優先される任務を遂行中の構成員を除き、即時帰還を命じる』(出典:防衛課における任務遂行に関するマニュアル)



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