089 アズサ、ドルドの街の人に演説をするその1
ドルドの街の人たちは突然のことで大パニック陥っている。
「これは早く、責任者が説明しないと死人がでそうなのだ、アズサ、明日の朝、街の人たちに帝国全土が天界の神々によって焼土にされることを説明した方が良いと思うのだ。ここにいる方がマシと言っても信じてはくれないだろうけれどなのだが……」
「グエ」と私はまた奇声を発してしまった。
「ママ……、お姉ちゃんお願い。街の人がたくさん死んじゃう」
ルーの体の周りで精霊たちが踊っている。封印が解けている。とても綺麗だ。
「ルーには慈悲の心が詰まっているようなのだ。将来は大聖女になるのは確定なのだ」
大聖女なんかになったら好きな人と結婚できないから、姉である私は断固反対する。
「補佐官に明日のアズサの演説の段取りをするように言わないとなのだ」
魔人が突風のように走ってきた。あれはイグノさん、魔族の中の超エリートさんだ。
「明日、緊急事態宣言を行うので、街中に告知する様に。街の中央広場に舞台を至急、設置すること。今は街道を封鎖しているが、緊急事態宣言の後は一時解除すること。それを関係機関に連絡すること。これをしくじったら、この先お前は故郷でのんびり暮らすことになるのだ」
「了解です。このイグノ二度としくじりません!」
疾風のように走り去っていった。
「アズサ、どう思う?」
「気合いが入りすぎかと……」
「私の心の中では、イグノの一族の面子も考慮に入れて三度までは許そうと思っている。すでに二度しくじっているので、今回しくじったら、イグノを奴の両親に引き取ってもらうつもりなのだ」
「女将さん、アズサです。今戻りました」
「アズサちゃん、おかえりなさい。街が魔族に支配されちゃったの。私ね、ご先祖様縛りがあってこのお店を動けないのよ。困ったわ」
「女将さん、こちらが魔王グリムです。ドルドの街の人たちは全員保護してくれるそうです」
「女将さんとやら、安心するのだ。たぶんここが帝国内で一番安全な街になるのだ」
女将さんがポカーンとしている。グリムの見た目幼女が魔王だったから。
「こんばんは、魔王様。噂では身長が三メートルでとっても怖い顔の魔人の方が魔王様だと聞いたのだけど……」
「あの姿にならないと誰も真剣に私の話を聞いてくれないから。実際はこのような愛らしい美少女なのだ」
「ふむ、それで、魔族と人種の窓口はアズサがなる予定なのだが、女将さんはどう思う?」
「アズサちゃんはダメね。地味すぎて誰も言うことを聞いてくれないと思うの。第一人望がないからダメよ。私は人望がある人が良いと思うわね」
「私が地味っ子でダメって女将さん、それってひどくないですか!」私はまとめ役には成りたくはないけど、できないとはっきり言われると反論したい。私ってやればできる子なんだから。
「だって、アズサちゃんって本当に人望がないし、人の評価は辛口だし。私はね、黒猫のおいちゃんが断然良いと思うの。人柄も良いし、経験も豊富だし、冒険者なのに、おいちゃんの悪口を言う人はいないもの」
「女将さん、師匠は確かに多くの人からは支持されていませんけれど、コアなファンが少数ですがいます」
アリス、それって全然フォローになっていないから。
「アズサちゃん、お店を見てて、私、おいちゃんを呼んでくるから」
しばらくして、おいちゃんが女将さんとヒロシに引きずられるようにして小料理屋に拉致されてきた。
「私は魔王グリムなのだ。女将さんの強い推薦を受けておいちゃんがこの街の責任者に選ばれたのだ」
「俺は引退して故郷で畑を作るんだよ! この街の責任者にはならないの。わかったか? 魔王様」
「おいちゃんにとっては悪い知らせなのだが、皇帝と天界の神々の間で争いが生まれた。帝国はここ以外は焼土になるのだ」
「まさか……」
「魔王様、天界との戦は止められないのか?」
「アズサが、私と一緒に戦争回避のため、天界に交渉に行く予定なのだ」
おいちゃんが私の顔を見つめている。「アズサ、交渉してくれるのか?」
「そのつもりです」
「交渉が失敗して帝国と神々とが戦になると、この街は各地で焼けだされた人たちの避難所になるはずなのだ」
「魔王様、俺の名前はミューラだ。平民なので姓はない」
「わかった。明日お前を街の責任者として、街の者たちに紹介する。演説はアズサがするので、ミューラはそこにいるだけで良い」
「グリム、私が演説って悪い冗談はやめてほしいのだけど」
「アズサには泉の一件を話してもらわないと天界とのトラブルが、街の者に理解できないし、帝国軍がこの街を燃やす作戦についてもアズサが説明しないとなのだ」
「帝国軍は編成を終えてドルドに向かって、五日後には行軍を開始するらしいのだ」
「グリム、帝国軍をどうするの?」
「私一人でも問題ないのだが……、それだとイグノの出番がないので、先陣はイグノがきる」
「グリム、私も戦場に行ってはダメかしら。できれば兵士たちを死なせたくはないの……」
「アズサの好きにすれば良いのだ」




