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065 アズサ、偽聖女様に襲撃される

 誰かが盛んに結界を叩いている。急患だろうか? でも外がやたら騒がしい。私とアリスは棺おけから首を出した。ミーアが外の様子を見に行って、笑いながら、「昼間の聖女様が、とても堅気かたぎの人に見えない男たちを引き連れてテント前で、結界をガンガン叩いている。それを見た聖女様大好きな人たちが、怒ってお互い睨み合っています」


「アリスはここにいて、従者の私が鎮めてきますから」


「お師匠様、私がやります」


「師匠の命令ね。アリス」


「承知できませんが、承知しました」うん、どっちやねん。


 私は偽聖女様たちに向かって、「今、引くなら見逃してあげます。引かないのであれば、痛い目にあうと思ってください。命までは取ろうと思ってはいません。ただ、私は未熟者ゆえ、保証はできませんよ」と凄んだ途端、私の胸に向かって短剣が投げられた。明らかに私を殺そうとした。


 短剣はシールドに弾かれて私の前に落ちた。問答無用かよ!


「ファイアボルト」と私は詠唱する。いつものことだが止められない。出力を最小に絞ったため、連射状態だ。いつ止まるのだろう。かなり不安だ。


 偽聖女様の前に立っていた男たちはガンガンファイアボルトに撃たれて倒れている。その倒れた男たちにいつまでもファイアボルトが降り注ぐ。全員死んだかもしれない。どうしよう。ミーアさんは唖然としてるし、テントから顔を出したアリスも茫然としている。


 偽聖女様は立ったまま失神していた。聖女様大好きな人たちはあまりのことに、声も出せずに固まっていた。


 ファイアボルトの連射がやっと止まったので、倒れている男たちが生きているかどうか、確認したところ、幸いなことに全員、生きていた。でもかなりダメージを負っていたので、「ヒール」と治癒魔法をかけておく。


「皆さま、お騒がせしました。終わりましたので、ゆっくりお休みください」と私が言った時には偽聖女様は疾風のように逃げ去った。「おーーいこの人たちはどうするの?」と言ってみたげど、振り返ることなく偽聖女様は逃げていった。



 テントに戻るとミーアさんが、「アズサは精霊術師なのですか?」と尋ねてきた。


「魔術師でもあるのですが、どっちつかずで、ご覧のようにファイアボルトを撃ったら止められない、未熟者です」


「キルケの里に、私の精霊術の師匠がいるのですが、一度会ってみてはどうだうでしょうか? 今のままでは危険過ぎますので」


 また、危険物扱いされた。地味にこたえるよ。


「ミーア、お願いします。私、自分の魔力を制御するのが課題なんです。よろしくお願いします」


「お師匠様、良かったですね。マーリン様のお陰ですね」


 マーリンのジジイには感謝したくないけど、精霊術の師匠に会えるきっかけを作ってくれたことには、ありがとうって言えるかもしれない。嫌だけど。


 この偽聖女様襲撃事件は後日、次のように語られることのなった。


 聖女様に偽聖女と明かされた女は、知り合いの街のゴロツキ五十人を引き連れて、真夜中聖女様が寝ている宿屋を襲撃した。そのことに激昂げきこうした聖女様の黒髪の女従者が、魔術でもって無数の火の玉を偽聖女一味に放ち、全員を殺してしまう。


 哀れに思った聖女様は、偽聖女一味に癒しを与え、全員を冥府から救ったことになっている。


 黒髪の女従者って悪役だよね。これって私のことだよね。


 で、偽聖女様襲撃事件を題材にして、物語を作ってそれを紙に刷って売っている人たちもいるらしい。その物語には、黒髪の女従者に、悪鬼ってふりがなを振っているらしい。酷すぎるだろう。私だってへこむよう。


 ボーレール岬でいつもの姿で白露草の雫を集めた。今回は一切邪魔が入らず、午前零時から夜明けまで集めることができた。そうは言ってもポーションの瓶の底から五ミリもたまっていない。


 エルフのミーアも白露草の雫集めに挑戦したものの、白露草を触れない。白露草が触れないと雫が取れない。エルフであっても、精霊の加護があっても雫は集められないことがわかった。私、この仕事から逃げられない。絶対に逃げるけどね。


 聖女様大好きな人たちは、予想通りボーレール岬までやって来て、雫集めをずっと見ていた。なのに、白露草から雫を集めているのは聖女様で、しかも白露草が自らが、聖女様が持っているポーションの瓶の中に雫を入れてくれる話になっていた。


 お腹を冷やして、地面に腹這いになって、一生懸命、小匙こさじで集めている事実は無視。お話としては、その方が聖女様が優雅で良いものね。聖女様が地面に腹這いってないのもね。それはわかるけど、私は納得ができない。

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