063 アズサ、妖精弓手と出会う
帝都に戻った。今回は私の居眠りであまり白露草の雫が取れなかったと報告したら、マーリンのジジイは、この嘘つきって目で私を見てから、魔石に手を置くように命令してきた。
魔力供給装置として扱ってくれるのは良いけど、私の魔力制御はどうすれば良いのか、ヒントくらいくれれば良いのにとか、とにかく暇なので思ってしまう。私が魔術師ではなくて、精霊術師だからヒントもなにも言えないのかもしれないけれど。
「精霊術といえばやはりエルフか」と急になにを思ったのかジジイがつぶやいた。このマーリンのジジイって人の心が読めるのか? マズい。
「アズサ、次、白露草の雫を採取する際、ワシの知り合いのエルフが同行する」
「それにしても、白露草の雫、たったこれだけしかないのに、どれほどの魔力を吸収するのか。興味深い」
マーリンのジジイ研究室からようやく解放されて、宮殿から出ようとしたら宮廷魔術師の一団と遭遇してしまった。私はお貴族様の作法通り、廊下の一番端に寄ったのに、ガンガン私に、魔術師の皆さんがぶつかってくる。ひどいのになると、一度戻ってから、再度私にぶつかって去っていった。なんなんだあの連中は!
「お師匠様、魔術師の皆さんにかなり嫌われていますね」アリスが説明してくれた。アリスもけっこう魔術師からぶつかられているらしい。アリスの場合、半分はアリスと話をするための口実だと思うけれど。
「お師匠様も私も、マーリン様の自称お弟子の方でもなかなか入れてもらえない、マーリン様の研究室に毎日のように通っているのが、皆さん、気に食わないようです」
「代わってほしいなら、言ってくれれば、即、代わるのに」あの人たちにも魔力供給装置になってほしいよ。
ボーレール岬から学園に戻ってくると、私は中等部二年生に戻る。十三歳の子たちの中についに大台に乗った二十歳の私がいる。座学の授業はアリスがいるので、ついてはいけている。
中間試験も合格点を取った。ボーレール岬への旅は公休扱いなので出席日数も問題なし。同級生との会話もない。私はお貴族様ではないから、お貴族様の噂話がまったくわからない。
同級生の噂話の一つなのだが、皇帝陛下はどうも病気のようで、政務は皇后様がとっているらしい。しかし皇帝陛下には国一番の魔術師マーリンがついているし、治癒師も医者も呪い師も、教会の偉いさんもついているのに、病気が治せないとは、不思議だ。
皇帝は、病気なので不老不死を望んでいるのだろうか? 「白露草だけで不老不死になれるはずもないか」とマーリンのジジイがポツリとつぶやいていた。
五十階層に命の泉があることは知られているし、だとすればいずれ、帝国軍が五十階層を目指して進軍するはずだと、私は思っている。でも、インフェルノで大半の兵士は死ぬだろうし、コキュートスでおそらく全滅すると私は確信している。二十一階層のシャルルのゴブリン軍団に勝てるかさえも疑問だ。
その軍の道案内を私がするのは自明。帝国軍が全滅したら私はどうなるのか? 帝国中を指名手配される。帝国軍を全滅させた極悪人にされる。小料理屋の女将さんとかおいちゃんとかヒロシに迷惑をかけるかもしれない。
いっそのこと皇帝に亡くなってもらうのが、皆んなのためかもしれないな。マアこれは最終手段だけどね。必要があれば私は躊躇わずにやるつもりだ。
私の魔力漏れは魔術のことを理解しても、制御できないかもしれない。精霊術を完成させたエルフの人について学んだ方が良いとは思うが、ボワンナーレさんは信用できないし、困った。
マーリンのジジイの知り合いのエルフの人はどうだろうか? 期待はしてみようか。でもジジイの知り合いってことは小言ジジイの可能性も高いから期待しない方が精神的には安全かもしれないな。
三回目のボーレール岬の旅立ちの日がきた。寮をでると、一人の妖精弓手が私たちを待っていた。
「初めまして、私はキルケの里のミアナリーアです。皆んな、私のことをミーアと呼ぶので、アズサさんたちも、私のことはミーアと呼んでくれれば嬉しいです」
「こちらこそ、初めまして。私は治癒師のアズサ、こっちは私の弟子のアリスです。よろしくお願いします」
「アズサさんは、バロン・アズサと呼ばれないことに不満はないのでしょうか?」
「私はバロンではありませんから。私にもアリスにも敬称は不要です。生粋の平民ですから」
「アズサは面白いことを言う人ね。魔術学園は平民は入学できないのに」
「そうなんです。仕方なく皇帝陛下が私に男爵位を与えたのです。学園を卒業したら私は、爵位をお返しするつもりです」
「ところで、キルケの里ということは、ボワンナーレさんをご存知ですか?」
「私の叔父です。アズサたちには本当に迷惑をかけました。そして叔父の命を救ってくれて、一族を代表して感謝します」
ボワンナーレさんの姪ごさんか、信用しても良いのだろうか。




