050 アズサ、ドルドの街に戻る
私たちは馬車に乗ってドルドの街へ向かっている。私はお貴族様に成り上がって。アズサ・ドゥー・ボナール男爵としてドルドに帰る。私の屋敷は小料理屋の二階の部屋が男爵の屋敷だって、笑える。
ドルドの街でゆっくりもできずそのまま帝都に行かされたので、帝都からドルドに戻れるのは嬉しい。ドルドに着けば三日間の休暇が付いているので、ご迷惑をかけた方々にお詫び行脚ができる。
三日後には魔術学園の先生七人のダンジョンでの研修に付き添う。学園長はこの七人が生きてダンジョンから出なくても良い雰囲気を醸し出していたけど、先生と冒険者は根本的に違うし、この七人の先生にしても子爵家、伯爵家の一族に連なるお貴族様なわけで、死なれると私としては困ることになると思う。お貴族様の恨みは買いたくない。
とりあえず男爵の私の言うことを、生粋のお貴族様が聞くはずもない。お貴族様としては、ポーションで治せないケガを私に治させることが狙いなのはわかっている。即死だけはさせないようにはしたいとは思っているけれど、ベテラン冒険者でも死ぬときは死ぬので、こればかりは保証できない。
ヒロシとおいちゃんのサポートがあると、より安全だったのだけど、先生方の同意が得られなかった。十階層までなら、先生方の魔術でもなんとかなるけれども、十一階層から下だと、魔術、魔法の起動スピードが遅いとか、各自がバラバラに魔術、魔法を行使したりすると、魔物に喰われるか、ゴブリンや追い剥ぎ強盗の餌食になると思う。
私は魔術と魔法の違いが理解できた。魔術と魔法の違いは詠唱の長さの違い。魔術は詠唱が長い。魔法は簡略化されて短い。魔術の方が広範囲で効果も大きい。魔法は範囲が狭く、効果は魔術よりも低い。
さらにわかったこと。私の場合、魔術も魔法も詠唱は同じ。効果も範囲も違いがない。私の魔法は、通常の魔術師が行使する魔術と同等の力があった。
私の特異性はそれだけではなく、私の詠唱は独特で、アリスも先生方も誰一人、私の詠唱では、魔術、魔法が起動しなかった。
私は、魔術師ではなく、グリムが言ったように精霊術師のようだ。私が詠唱すると精霊たちが踊りだすから。私の魔力コントロールはテクニックでどうなるものではなそうなのがわかってきた。それがわかっただけでも、魔術学園で学んだことは良かったとは思う。
「お師匠様、私は一度自分の部屋に戻ります。部屋を片付けたら、お師匠様のお隣の部屋に引越します」
アリスが私の部屋の隣が空いていることを知って、女将さんの許可ももらっていないのに、暴走中だったりする。一日中私と一緒にいて楽しいのだろうか。
「女将さんがダメって言ったら諦めてね」
「頑張って説得します」
「うん、わかった。頑張ってね」
アリスが暴走するともう止まらないので、こういう対応になってしまった。
「女将さん、ただ今戻りました。一月の予定が半年近くになってごめんなさい」
「事情はヒロシ君から聞いているわよ。お風呂に行ってさっぱりしてから、夕ご飯にしましょうか」
「女将さん、隣の部屋なんですけど……」
「アリスって子が入るんでしょう。ヒロシ君がそう言っていたわ」
なんと手回しの良いアリスなんでしょう。びっくりだ。私は荷物を置いて神殿の湯に向かった。
「はあ、お風呂は良い。ゆっくり手も足も伸ばせて」
「赤の旅団のミルヒー様はお気の毒だったわね」
「突然、スケルトン、レイス、死霊が襲ってきて、赤の旅団を守るためにお一人で戦われて、本当にミルヒー様が亡くなれるなんて」
「レイスの即死魔法で一月生きられたのは、凄いよね」
「最期の言葉がアズサだってね。元黒猫のアズサさんはミルヒー様のお弟子だったそうよ」
私は頭の中が真っ白になってしまった。私は服を着ると髪の毛が乾いていないのに、赤の旅団の本部に走って行った。
「アカツキさん、いますか?」
「私は治癒師のアズサです」
「アカツキは奥の部屋におります。アズサさんが来られたら、通すように言われております」
「アカツキさん、ミルヒー様は」
「数万の死霊の大軍にミルヒーは己が命の火を燃やして、我々を守ってるくれた。レイスの魔法を受けても、倒れることなく、我々が逃げる時間を稼いでくれた」
「私がダンジョンから出たときにはそんな話は一切していませんでした。ミルヒー様がスケルトンの軍団をあっさり返り討ちにしたと聞きました」
「アズサには知らせてはならないと言われていたから……」
私は、誰はばかることなく、子どもように泣き続けた。
「アズサ、ミルヒーの墓に行ってもらえないか?」
「嫌です!」
「ミルヒー様が亡くなったなんて考えたくありません」




