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049 アズサ、子連れのヘルベアーの家族と出会う

 アリスと二人、のんびり森のお散歩をしている。緊張感はゼロ。同級生の皆さんも侍従、侍女と無駄話をしながらお散歩中だ。


 お散歩も身分順で先頭は公爵家、侯爵家の皆さん、中央は伯爵家、子爵家の皆さん、その後ろに私たちのクラスがついて歩く。


 お貴族様に成り上がってわかったこと、常に身分を意識して自分より身分の上の人の前を決して歩かないこと、あるいは、常に道の端を歩くこと。お貴族様は大変だと言うことがよくわかった。


 冒険者の方が断然良い。早くドルドの街に帰りたい。


 先頭が何やら騒がしい。先頭の先生方が、ファイアボルトを撃っている。公爵、侯爵家の生徒の皆さんもファイアボルトだったり、アイスランスだったり、ウインドカッターなどの攻撃魔法、魔術を放っている。


 先生が、私たちに後ろに下がるよう指示を出したので、私たちは後ろ歩きで後退を始めた。自分より身分の上の方にお尻を向けてはいけないので、後ろ歩きで下がる。本当に面倒くさい。


 先頭を歩いていた公爵家、侯爵家の皆さんが、列を乱して逃げ始めた。それに続いて伯爵家、子爵家の生徒と先生方が逃げ始めた。私たちのクラスは上位の身分の皆さんが全員逃げてくれないと逃げられない。


「子連れのヘルベアーか」痩せているから、子育てが終わって巣穴を出て食べ物を求めて山から降りてきたようだ。


「お師匠様、どうします」


「子連れの魔物は狩らないのが冒険者のルールだし、どうせ山に戻るだろうから放置で良いんじゃないかな」


後ろ歩きのまま、ヘルベアー親子を見ながら後退。「ヘルベアーは自分より魔力の多い者は襲わないから」


 そのはずなのだが、ヘルベアーの母親熊はえらく怒っていて、私たちに襲いかかってくる。見ると誰かが子熊に魔法を当てたようで、子熊がケガをしていた。私は「ヒール」と小声で詠唱して子熊のケガを治してあげた。


 子熊が母親熊を呼んだ。母親熊は私たちへの攻撃をやめて、子熊の元に戻っていく。無事、山に戻ってほしい。


 森のお散歩は、熊さんたちのお陰で中止になってしまった。とりあえず、少し気晴らしにはなった。


 森へのお散歩の翌日、騎士団が森に魔物狩りに出かけた。学園長が騎士団長を厳しく叱責したらしい。騎士団長は謹慎処分になり、森の魔物狩りの指揮は副団長がとったそうだ。騎士団もお気の毒だ。まさか学園の先生方の魔法がヘルベアーに効かないとは思ってもみなかっただろう。


 学園の先生方は実戦経験が少ないのだろうか? 学校の先生だし、冒険者ではないから当たり前か。そんなことを考えながら、座学の授業を受けていた。


 授業が終わると学園の事務の人が、学園長が私を呼んでいると言ってきた。私はアリスと顔を見合わせた。「私、何かやらかしたかしら?」


「呼び出されるようなことはしていないと思います」


「だよね。私、何もしてないものね。なんの呼び出しだろう」と思いながら事務の人の後をついていった。


「急に呼び出してごめんなさい。私がこの魔術学園の学園長のエレノアです。あなたと話すのは初めてね」


「はい、学園長」


「昨日の森の魔物騒ぎのことだけど、あなたたちは逃げなかったと聞いたのだけど」


 他の同級生たちとは違って熊に背中を向けて、逃げなかったのがマズかったのか。しくじった。


「熊に背中を向けると襲ってきますので、後ろ歩きで後退しました」


「その時、先生方はどこにいたのでしょうか?」


「熊に集中していましたので、先生方がどこにいたのかは覚えていません」


 先生方は私たちの遥か後方にいましたとは言えないから。


「お二人がヘルベアーの突進を止めたのですよね。お二人とも冒険者ですから。当然と言えば当然です。先生方も、お二人は冒険者で、ダンジョンの深い階層で魔物を狩っていたから、ヘルベアーを任せても大丈夫だと説明されていました」


「ヘルベアーはとても賢い魔物ですから、無駄な戦いはしません。熊を興奮させない限り襲ってはきませんから」


「実はある公爵から、学園にクレームが入りました。熊一頭も倒せない無能な教師はクビにしろと。ご子息があの騒ぎで転倒してケガをしたことに大変立腹されていましてね。ですが、先生方もそれなりの地位のある方ですし、次回から、先生方が魔物を退治できれば、問題はないわけです。そういうことで、今回先頭にいた先生方に研修をしてもらうことにしました」


「先生方の研修先はダンジョンです。十五階層まで行って戻ってくるだけの研修なの。簡単な課題でしょう」


「クビになるか、ダンジョンに潜るかどちらが良いですか? って尋ねたら皆さん、ダンジョンに潜る方を選んだのです。ただし、先生方は条件を付けてきたの。アズサさんたちが同行することが条件だそうです。あなたたちは治癒師だから、ケガをした先生方のケガを治すだけで良いのよ。間違っても先生方に助言とかは一切しないでくださいね」


 私たちには拒否権はないらしい。


「はい、そのように致します」


「ありがとう。出発は明後日です。付き添いお願いしますね」


 学園長の瞳の中に、黒い炎が見えた気がした。学園長に恥をかかせた教師はダンジョンでくたばれって感じがした。学園長は怖い人だ。

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