024 アズサ、三十一階層で買い食いをする。
三十一階層に入った。ゴブリンの他にも魔人たちがけっこうぶらついている。魔人たちは道の両サイドの露天を冷やして楽しそうだ。
「今日はお祭りなのかな」とヒロシが言う。私もそう思った。アリスちゃんが露天が珍しいのかウロウロするので、「アリスちゃん、私の手を繋いで」迷子になられると困るから」私はボワンナーレさんと違って人探しの魔術が使えない。
アリスちゃんの目の輝きが三千倍になったかもしれない。アリスちゃんは私の手を握りしめた。握力は平均以上だと思う。痛かった。
「見たことのないお金だ」とヒロシ、「ゴブリンのお金ならあるから心配しないで、治癒師稼業で儲けたから。食べたいものとか、必要なものがあれば、私に言ってね」
「あのう、僕も言って良いのでしょうか?」
「影の薄い戦士さん、どこにいたのですか?」
「言われた通り、アリスさんとヒロシ君の間にずっといました」
「まったく気がつきませんでした。戦士さんも言ってください。ただ言う前に、口笛でも吹いて貰えると毎回びっくりしなくても良いので、お願いします」
「ええ、そうします。私が話掛けるたびに、アズサさんが飛び上がると、私もびっくりするので」
隣で「アズサさんからプレゼント、ご褒美、ご褒美」って繰り返し呟くアリスちゃんがめっちゃ重い。
「アズサさん、あそこの屋台で火食い鳥の串焼きを売ってるのを買っても良いですか?」
バルサミコ風火食い食い鳥の串焼きって、どんな味だろう。一本銅貨三枚か
「ヒロシ、串焼き三本」って言ったら、ヒューヒューって音がして「僕も食べてみたいです」って声がした。戦士さん、声はすれども姿が完璧に見えない。
「ヒロシ、串焼き四本お願い」
ヒロシが串焼きを四本買ってきた。空中に串焼きが浮いている。あっ、消えた。串焼きの串はヒロシが持っていた。
私も歩きながら串焼きを食べてみる。バルサミコってお酢みたい。甘酸っぱい。火食い鳥は弾力性があって、一気に食べられない。ただ噛めばかくほど、火食い鳥の旨味と甘酸っぱいソースが調和して美味しい。これ、女将さんの店のメニューに入れたい。火食い鳥を焼くにおいだけで、お客さんが寄ってくると思う。
前が騒がしい。魔人がゴブリンの屋台をぶっ壊していた。あれかなあ、ショバ代払わない店への嫌がらせだろうか? 警ら中のゴブリンの兵士が魔人を取り囲んだ。兵士では魔人の相手はキツいのではと思って見ていたら、魔人が、謝りだして、巾着からお金を出して、壊した店の主人にお金を渡している。
いつの間にかヒロシが、魔人を取り囲んでいる兵士の周りを取り囲んむ野次馬の中にいた。もう、私が張っているシールドの外に勝手に出るのは危ないだろう。
「ヒロシ、無断で私のシールドから出ないこと。トラブルに巻き込まれるよ」
「アズサさん、ごめん、俺、本業は剣士見習いで副業が斥候だからつい見に行っちゃた。ごめんよ」
「あの魔人が屋台を壊した理由をアズサさん、知りたい?」
「嫌がらせでしょう、そんな決まりきった理由は聞きたくもない」
「残念でした。釣銭をさ多く、魔人に店の主人が渡したからでした」
「ヒロシ、私なら、大喜びするけど。店の主人に多いですよってたぶん私は言わないな……」
ヒロシの話では、魔人は施しは受けないと激怒して、店を壊したらしい。ゴブリンの兵士が王城にいる魔人の主に報告すると言った途端、巾着を取り出して、店の主人に金貨を握らせて、今回のことをなかったことにしたらしい。
ゴブリン王は、オーガと同盟関係。しかも魔人たちとも親密な関係にあるのか。絶対に戦ってはいけない相手だと、二十階層に戻ったら、アカツキさんに報告しよう。心の中でヒロシよくやったと褒めておいた。でも口では「ヒロシ、勝手にシールドから出ないこと。お願いね」
「アズサさん、了解です」
「なんならヒロシもアリスちゃんみたいに手を握ってほしいのかな」
「ダメです。ヒロシ君、アズサさんは私のものです!」
ヒロシが私を気の毒そうな顔で見つめていた。ヒロシ、お前がアリスちゃんと黒猫とを繋いだくせに、どう責任を取るんだよ。寝る前に説教をしてやる。
ヒュー、ヒューって音がして「僕は決してアズサさんからは離れません。安心してください」
影の薄い戦士さん、あなたは見えないから、いなくなってもわからないです。口に出しては言わないけど。




